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短いコミュニケーションで伝わる。それが「バカの力」

武笠 太郎 むかさ たろう さん ザリガニワークス 代表取締役 坂本 嘉種 さかもと よしたね さん ザリガニワークス 代表取締役

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part.2

 

■「お客さんと盛り上がる」楽しさを教えてくれた「自爆ボタン」

 

彼らが今の、どこか笑えるユニークな方向性に、いかにして行き着いたのか。それを知るため、話は、二人がまだサラリーマンだったころにさかのぼる。当時、個人的に「太郎商店」という自らのブランドでオリジナルグッズを販売していた武笠さん。当時作ったシルバーリングが、大きなヒントになる。

 

武笠さん(以下M):あのころはまだ、会社員の傍ら一人でやっていました。坂本が正式に参加する1年前ですね。デザインフェスタに「アクションリング」という、アクション映画で見られるような脱出用の滑車が付いた指輪をシルバーで制作、坂本に絵をつけてもらった商品を、1万2千円で出したんです。これがぜんぜん売れなかった(笑)。見に来た人達はみんな面白がるんですが、買うまでには至らない。デザインフェスタは学生さんが多いこともあり、高価なものには手を出さないんです。

坂本さん(以下S):それでも、アクションリングは大きなきっかけになったと思います。「これは面白い!」と思って出し、確かに伝わった手応えと、「これに1万2千円は出さないんだな」という手応えの両方があった(笑)。当時僕はまだ参加していなくて、少し手伝いをして横から見ている感じでしたが、バカなものは受け入れられるけれど、高価なものはダメだということが実感できた。

 

アクションリング結合(縦)

 

 そして、アクションリングが売れなかった悔しさをもって誕生したのが、ヒット商品となった「自爆ボタン」。「売る」「利益を出す」ということを、初めて本格的に意識したこの商品は、ある意味、彼らのマーケティング的発想の原点かもしれない。

 

M:とにかく悔しくて、黒字を出したい、売れたい、という方向にを切り替えました。お客さん達はたくさんブースがある中を流し見していくわけで、まず、見た目の「力」が必要。インパクトがあり、引き付けられるものであり、それを話題に「盛り上がれる」ものでなくてはならない。そう考えると「自爆ボタン」ってみんな知っているな、でも見たことない(笑)。面白いから何とか作れないかな、と思った。最初は押したら音が出て光るようにというアイデアもあったのですが電子工作はそもそも苦手。しかも値段は千円を超えちゃう。

でも、僕はそこで「努力して音を出そう」とは思わない性格なんです。音が出ないのをアリにするにはどうすればいいのかを考え、そして、じゃあ、貼るだけで緊張感が漂うインテリアアクセサリーとして売り出そう、と決めました。押しても何も起こらないけれど、貼っておくだけで周りがザワザワする。貼った人はそれをニヤニヤしながら見る、というのが面白いんじゃないかと。それで20個ほど作ったら、お客さんと盛り上がることができた。「これ、押してみていいですか?」「いいですけど…あっ、危ない!」みたいな感じで(笑)。

 

S:スピードがありますよね。短いコミュニケーションで伝わる。これこそバカの力だと思いました。アクションリングから自爆ボタンによって、お客さんと盛り上がることの楽しさが見えてきた。ここから「コレジャナイロボ」に繋がっていった面は大きいと思います。

M:「笑える」グッズへシフトしていく、ターニングポイントでしたね。

 

写真は、『自爆ボタン-Ver.2.0』
『自爆ボタン-Ver.2.0』

 

『自爆ボタンDX』
『自爆ボタンDX』

 

 

■土下座ストラップは「ユーザーの勝手で遊べる」おもちゃ

 

 2010年にリリースした大ヒット作が「土下座ストラップ」。「シリーズ・生きる」と銘打った土下座をしているサラリーマンのフィギュアで、ガチャガチャ用のカプセルトイとして累計220万個を売り上げた。彼らが企画を担当し、「奇憚クラブ」が製作・販売した、ザリガニワークス初のメガヒット商品は、いかにして生まれたのか。

 

S:武笠が以前から、個人的に土下座に注目していたんです(笑)。それは僕もよく知っていました。会議でチョイチョイ土下座の話が上がっていたので。でも、武笠自身もコンセプトが絞り切れていなかったし、興味を持つメーカーもあまりなかった。何より、僕があまりぴんと来ていなかったんです。その頃のアイデアはどれも土下座の動きの面白さを遊びにしたアクションのある物で。そのストレートな笑いの質、プレイバリューと、価格が合わない気がしていたんです。でもある日職場に来たら、武笠がその状況に我慢できず、フィギュアを作っていて(笑)。

M:確か最初は「日本の作法」みたいなコンセプトで考えていたんですが、自分でもイマイチわからなくなってきていた。そこで、とりあえず樹脂粘土で作り色を塗ってみたんです。なぜそこまで固執したのかは自分でもわかりませんが「何かありそうだ」と思ったんですよね。

 

10(1×1)無地

 

S:できたものを見た瞬間に「うお、これいいじゃん!」ってなった。見立ての利く軽い存在感に「これはイケる」という確信が生まれ、そこから話が盛り上がっていった。僕らがこれまで作ってきたことの中心には「ユーザーの勝手で遊べる」というコンセプトがあるんです。この根っこは、これからも変わらないでしょう。僕らが「こうして遊びましょう」「これ、こんな風にすると面白いでしょ」と提示するのではなく、見た人が自分自身の考えで「私はこうやって遊ぼう」と決める。例えばこれだと、たくさんそろえてずらっと横並びにしても面白いし、借りたものを人に返す時に添えてもいい。たぶんする人はいないと思いますが、銀色に塗って車のボンネットの先の部分に付けてもいい(笑)。

 

僕らが重視しているのが、ユーザーが自分なりの遊び方を想像できる、ということ。武笠が最初に作ったフィギュアからは「自由に遊んでいいよ」という軽いムードと、コンセプトの貫通力がはっきりと出ていた。実物があるとわかるんですよね。そういう空気が発散されているものは、ぱっと見だけで心に響いてくる説得力がある。コンセプトが絞れていると、よけいなお飾りがない分、早く強く心に飛び込んでくるんですね。逆にコンセプトが絞れていないと、よけいなお飾りが外せず、存在感がぼやけたものになる。そしてお飾りを取った所には、ユーザーが自由に遊べる余地が大きく生まれるんです。「土下座ストラップ」の場合、カプセルトイという身軽さも手伝い、そういった方向性がすごい広がりを見せましたね。

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プロフィール
武笠 太郎

武笠 太郎 むかさ たろう

ザリガニワークス 代表取締役

坂本さんとの出会いは多摩美術大学の音楽サークル。卒業後、武笠さんは玩具メーカーの企画・デザイン職に就く。武笠さんが在職中に個人活動として「太郎商店」というシルバーアクセブランドを立ち上げ、デザインフェスタに出展したことをきっかけに、2004年設立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する。

坂本 嘉種

坂本 嘉種 さかもと よしたね

ザリガニワークス 代表取締役

多摩美術大学を卒業後、何度か転職したのち大手ゲーム会社のキャラクターデザインを手掛けていた時に武笠さんと出会い、2004年に有限会社ザリガニワークスとして独立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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