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サステイナブルな服作りのストーリーを伝えていく
「大量生産・大量廃棄」から「サステイナブル」へ。ファッションブランドに今後求められるのは、原料と生地の生産過程の透明化、そして持続可能性の追求。サステイナブルであるかどうかは今後、ブランドの存続を左右する要素となるだろう。今回は「メイド・イン・ジャパンの服作り」を掲げるメンズブランド「マーカウェア(MARKAWARE)」「マーカ(marka)」を主宰するデザイナーの石川俊介さんにお話をうかがう。
写真=三輪憲亮
今、日本のアパレルブランドで、どんな原材料を使い、どこでどう作っているのかをすべて開示できているブランドはほぼない。今後サステイナブルな取り組みをするには、まずは自分で原産地に行き、原料となるコットンやウールがどのように作られるのかを自らの目で見たい、と石川さんは思った。
「糸を作る紡績から後の生産現場は、日本にあるし見ることができる。しかしウール等の原材料は100%海外からの輸入ですから、状況がわからない。生地に使うオーガニックウールは、本当にサステイナブルな形で作られているのか。それを知りたくて、紡績会社さんや商社の方などに『実際に見たいから農場に行かせてくれ』と何度もお願いしました。でも、なかなか行かせてもらえない。
なぜかというと、1つには彼らも行っていないから。結局、誰も実際の生産現場を見ていない。それでは、らちが明かない。それなら直接行ってしまおうと思い、昨年6月、アルゼンチンのパタゴニア地方にあるウール牧場に行きました。インターネットで情報収集して直接コンタクトを取り、現地の通訳さんを雇って。
すごかったですね。本当に大きな牧場でした。見渡す限りの大草原。羊1頭に対して東京ドーム1個分ぐらいの広さがある。場所がアルゼンチンのだいぶ南の方なので、寒くて木が育たず、牧草しか生えていない。過酷すぎて牛の飼育すら無理で、羊しか育てられない。というか、それぐらいしかやれることがない(笑)。
だからこそ、羊の生育環境としては素晴らしかった。牧場のオーナーが『動物は野生状態が一番幸せだ』と考えているので、ほぼ完全放牧。毛を刈る時だけは羊を集めますが、それ以外の飼育は出産を含めてすべて外。完全に自然のままの環境で育っている。この時、サステイナブルという言葉の本当の意味がわかった気がしました」
そして昨年10月にはペルーに行き、アルパカ牧場を視察した。
「アンデス山脈の標高4000m以上の高地にあって、そこでは牛も豚も羊も育てられません。そんな高地でも、アルパカなどラクダ科の動物は育てられる。牧場というよりただの山ですが、高地ですから害虫もいなくて農薬は不要。つまりアルパカは、完全な自然の中で育っている。
極限の土地に住む人達にとって、アルパカは唯一の現金収入。でも今はまだまだ、ブローカーが牧場や農場を回って安く買い叩いている実情がある。この状況を少しずつでも改善し、フェアトレードのアルパカの毛を買えるようにする動きがあるので、協力しています。
また近々、モンゴルにも行ってきます。モンゴルは有名なカシミヤの産地ですが、カシミヤヤギの過度な増加により、草原の砂漠化が激しく進んでいます。産地の人達の生活、そして砂漠化が進む実情を、しっかりと見てきたいと思います」
原産地を自分の目で見て、現地の人に話を聞き、そのストーリーを日本の人達に伝えていく。それもまた、服作りと並ぶ重要な役割だ。
「結局、服作りは農業。大事なのは、根っこの農業の部分で環境に問題を与えないこと。そして、一つ間違えると貧困層に落ちてしまう産地の人達の雇用を作り続けること。もちろんその際には、人権問題もしっかり考えていきます。
そして、その後のものづくりに関しては、なるべく日本国内の工場を選び続けたい。そして、いい工場とモノ作りを残し、彼らが新たなビジネスに取り組めるようお手伝いをして、元気づけていきたいです」
石川さんはこの秋冬から、サステイナブルをメインコンセプトとした新ブランド『Text』をスタートさせる。ブランド名は『Context』『Texture』『Textile』といった言葉から取ったもので、今回はメンズだけでなく、レディースも同時に展開する。
「サステイナブルなモノ作りをして、ゴミにされない服、自分が着た後は自分の子供に引き継いでいける服を作り、ブランドを築いていきます。そして、モノを捨てず大事に使っていく価値観を広げていきたい。今はメルカリを核とした中古市場が育ってきているので、そこで流通させることも意識しています。
また、修理するための生地やパーツ類のストックをそろえておき、破れた箇所はすぐに縫い直せるようにします。そして近い将来、僕ら自身も中古の買取をして、自分達で直したものを売っていく取り組みを始めたい」
また、販売方法も工夫を凝らしていく。
「例えば材料などのムダをなくすため、クラウドファンディングの活用を考えています。原料の産地と情報交換しながら『こういう素材があるから、こういうアイテムを作りますが、皆さんどうですか?』という形でお金を集め、作ったものをすべて売り切る。その中で、服ができ上がるまでのストーリーをシェアし、背景を理解してもらう。そういったことを考えています。
そのためにまず大事なのは、もっと名前を売ること。ソーシャルメディアやホームページなど、さまざまなメディアを使って考えを伝えていく。そこが、今の大きな課題だと考えています。また卸先さんと一緒に全国でポップアップストアを展開し、例えばそこで僕が海外で買ってきたお土産を売ったりして、旅の目的や風景を共有しながら、それにまつわる限定アイテムとして少しだけ作ったものを販売する、といったことができたら楽しい」
自分達ができるのはスモールビジネス。その強みは、大手のブランドやセレクトショップにはなかなかできない、尖った取り組みができることだと、石川さんは考えている。
「小規模だからこそ、作り方だけでなく売り方もエッジを利かせていきたい。大企業であればあるほど、サステイナブルな取り組みをしていかねばならないのは間違いありませんし、ファッションビジネスの問題点には、日本の人達も徐々に気づきつつもある。
でも実際どこから取り組めばいいのか、今までのビジネスとの矛盾点をどう解消していくかが、なかなか見えない。ゆえに一歩が踏み出せない。それが現状だと思います。だからこそ、サステイナブルな事業展開の第一歩として、ぜひ僕らを利用してほしいと思っています」
サステイナブルへの意識の高まりとともに、アパレルの大量生産・大量廃棄の時代は徐々に終わっていくだろう。石川さんは『Text』での取り組みを通じて、持続可能な環境で作られた素材と日本の技術を上手くマッチングし、そこで生まれた服を、さまざまな工夫を凝らして売っていく。