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世界中のチャットアプリと提携して、わかったこと

水野 和寛 みずの かずひろ さん (株)クオン CEO

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ソーシャルメディアでのスタンプ展開を中心に、IP(知的財産)ビジネスをグローバルで展開するクオン。クリエイティブとマーケティング力を兼ね備え、世界に通用するキャラクターを生み出す同社のスタンプは、これまで26億ダウンロードを達成。2019年2月には4億円の資金調達を実施し、ビジネスサイドの採用を加速させ、さらなる事業拡大を狙う。今回は同社の代表・水野和寛さんに、クオンが展開する「勝てるグローバル・マーケティング」の手法をうかがっていく。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■巨大プラットフォーマーにスタンプを売り込む

 

クオン設立から2年が経った2013年。想像以上のLINEの台頭を横目に、水野さんはそれまで手がけていたチャットアプリを諦め、スタンプ販売に専念することに。当時はfacebookメッセンジャーやWhatApp、Wechatといった巨大プラットフォームはまだスタンプを採用しておらず、認知も低かった。そこで水野さんはすでにスタンプを有料販売していたLINEとカカオトーク以外の世界中のチャットアプリに向け、スタンプを売り込んでいった。

 

「日本にはもともと絵文字やデコメの文化があるので、ユーザーはスタンプをすんなりと理解してくれました。しかしグローバルでは、スタンプがいったい何なのかを本当の意味でわかっているプラットフォーマーはほとんどありませんでした。

 

当時はスタンプの需給バランスがまだ取れておらず、需要がだいぶ大きく供給体制は乏しかった。つまりLINEでスタンプが流行っていることを知り、採用してみたいと考えるプラットフォームは世界中に多々あった。でも実際にスタンプを作れるプレイヤーは少なかったわけです。そのため、スタンプに興味を持ち始めたプラットフォーマーから、ウチにも問い合わせが来るようになりました」

 

 

 LINEのおかけで、どこもスタンプに興味はある。なぜスタンプが流行っているかを知りたい。でもその一方、絵文字やデコメ文化を知らないグローバルプラットフォームにはノウハウがないし、何だかよくわからないものにコストをかけたくない。当時はそんな状況だった。

 

「スタンプの説明を各社にしていきながら、最初は、もしfacebookメッセンジャーやWhatApp、Wechatなどがスタンプの有料販売を始めてくれるなら、僕らもきっと大きく成長できる。そう考えていました。でも、思ったようにはいきませんでした。スタンプの有料化を検討した先もありますし、実際に試みた先もありましたが、結果的には上手くいかなかった。

 

大きな理由は考え方の違い。アメリカのfacebookメッセンジャーやWhatApp、中国のWechatなどは『ピュアなチャットアプリ』としての意識が強いんです。ガラケー時代からお金を払ってコンテンツを買う習慣があった日本や韓国では、プラットフォーマーが、チャットアプリ上でも、同様にコンテンツを販売し、コンテンツホルダーにきちんとお金を戻す構造を作る。

 

それに対しアメリカや中国では『チャットアプリ=メッセージを伝えるアプリ』が基本。それに輪をかけてPlatform is KING志向が強い。まずはチャットアプリの質を高めて、プラットフォームを大きく広げることが優先でした。例えば、彼らとしてはスタンプを有料にした結果、ユーザーが減ってしまったら本末転倒。とにかくあらゆる機能を無料で解放して、もっとユーザーを増やしたいと考えている。そのためには、とにかくユーザーに対して課金のハードルを設けないことが優先されるわけです。これはすごく大きなポイントで、正直、想定と少し違いました」

 

 

 それでも「やらない」という選択肢はなかった。水野さんはLINEとカカオトーク以外のグローバルプラットフォームにスタンプを無償提供し、デコメ時代のノウハウとスタンプ時代のノウハウも提供することにした。

 

「正直、ずっと無料でスタンプを提供し続けるとは思っていませんでした。iモード時代もガラケー時代も有料コンテンツを売っていましたから、お試し期間のような意味合いでとらえていました。何せまずはつき合いを始めないと、その先に進むことはできませんからね。

 

また無償で提供するかわりに、各社から様々な統計データをもらうようにしました。キャラクターの選定もプラットフォームと膝を突き合わせて相談。すでに50~100キャラぐらいを作っていたので、そのリストを見せて選んでもらい、キャラによっては英語名も一緒に考えてもらいました。

「Business Fish」の元の名前は「魚係長代理」

 

日本で有料販売しているスタンプと似たようなコンテンツを無償で提供するなんて、常識的に考えたらNGです。でも僕らはベンチャー。それぐらいしか勝ち目がないし、守るものもない。だからやろうと。まあ、同業の会社には嫌がられたのかしれないけれど、尻込みしていたら今はなかったと思います」

 

 結果、クオンは世界の主要チャットアプリの成長に巧みに乗ることに成功した。

 

 

「ガラケー時代もそうでしたが、コンテンツを配信する上で、大事なのは大きく成長するプラットフォームに乗っかること。それが自分達のコンテンツのマーケティングコストを劇的に下げ、コンテンツの価値を大幅に上げる。この感覚はもちろん、最初からありました。自分達は諦めたけれど、チャットアプリがここから5年で大きく成長することはわかりきっていましたからね。実際、わずか5年あまりで50億人が利用するメディアに成長していったわけですから」

 

■自分達がやっているのは、キャラクタービジネスだった

 

 クオンは2014年、日本で最初にfacebookメッセンジャーとWechatにコンテンツを提供した会社となった。

 

「今だから言える話ですが、スタート当初は『しばらくしたら有料販売に切り替わるだろう』という感じで楽観的に考えていた。でも、しばらく経ってもまったくその兆しがない。その間に、日本のスマートフォンコンテンツ界隈では、ソーシャルゲームの最後の大きな波が来ていて、無料スタンプをやっていてもすぐにお金にならないのであれば、ゲームを作ろうということで、いったんスタンプ事業は放置していました。

 

ところが、無料スタンプのダウンロード数が1億を越えたあたりから、スタンプのキャラクターにつて、さまざまな企業から問い合わせが急にくるようになったんです。つまりfacebookやテンセントがどんどん成長している分、僕らが特に何もせずとも勝手にダウンロード数が伸びていった。最初はただの無料配布したキャラだったのが、有名になっていたのです」

 

 無償提供開始から1年ほど経ち、数多くの問い合わせに応じているうちに、水野さんはあることに気づいた。

 

 

「クオンが今やっているのは昔から手がけてきたデコメやガラケーのビジネスの延長だと思っていましたし、自分達も周囲の人達も、クオンは"スタンプ屋さん"だと思っていました。でもさまざまな企業から問い合わせに応えているうちに気づいたんです。これは単なるスタンプではなく、キャラクタービジネスにおけるキャラクターの認知手段なんだ、と。僕らが今やっているのは、キャラクタービジネスそのものだったわけです。

 

僕らはもともとデジタルコンテンツをずっとやってきたので、デジタルコンテンツの枠内でマネタイズしよう、という発想しかありませんでした。だからスタンプの無償提供がおいしいビジネスだとは、まったく考えていなかった。でもそうじゃない。無料のスタンプにもマーケティング上の価値がちゃんとあって、キャラクタービジネスならデジタルコンテンツ以外に、いくらでもマネタイズする方法はある。

 

デジタルコンテンツはインターネット上でコンテンツを売ったら終わりですが、キャラクタービジネスの場合、認知が取れれば、後のビジネスがどんどん広がっていく。スタンプも一つの出口に過ぎず、キャラクターにはグッズや映像を含めたさまざまなコンテンツが考えられる。そのことにやっと気づいたわけです。何だか不格好な話ですが、この発想の変化が今につながりました」

 

 こうしてキャラクタービジネスへと舵を切ったクオン。次回Part.3では、クオンのキャラ作りに関する考え方や製作体制、そしてグローバルにおける地域ごとのキャラの好みの特徴などについて、話を掘り下げていく。

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プロフィール
水野 和寛

水野 和寛 みずの かずひろ

(株)クオン CEO

1976年東京都出身。中央大学在学中に寺島情報企画にて、コンピューター雑誌「DMマガジン」の編集者としてキャリアをスタート。卒業後は同社に入社し、同社の事業シフトとともに徐々に着うた、デコメ、きせかえなど携帯サイトの企画・プロデュースを行う。
2009年には関連会社テクノードでスマートフォン向けのゲームアプリを手がけ、「Touch the Numbers」は累計1000万ダウンロード超。
2011年に独立し、クオンを設立。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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