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店を、一定の人達の"たまり場"にしない

林 伸次 はやし しんじ さん bar bossa 店主

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 part.3

 

■日本の女性は、断ることが下手。


「bar bossa」では、男女ともに一見の一人客の来店をお断りにしている。これには、どんな理由があるのだろう。

 

「以前のとある件以来、一見のお一人様はお断りしています。その詳しい経緯については自著『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』に書いてあるので、読んでいただければと思います。

飲み屋を営む時、お客さんが少しでも不快に思うことがあったら、アウトです。『あの店はあの人がいるから嫌』となると、その方はもう二度と来て下さりません。その点で、一人で来られた方が他のお客様にご迷惑をおかけするケースが、たまにあります。

例えば中年のおじさんが一人でやって来て、飲んでいる。その横で、女性の二人組が恋バナや仕事の話をしていたとします。よく、そのおじさんが女性二人に話しかけてしまうことがある。

 

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日本人の女性は、こういう時に断れない。『へえー』『そうなんですか』と、つい話を合わせてしまう。それで調子に乗ったおじさんが、好き放題に話す。すると、その女性二人組は二度と来なくなってしまうんですね。そういった事態を避けることも、一見のお一人様をお断りしている理由の一つです。

 

興味のない男性から話しかけられた時にきちんと断れないのは、おそらく日本人の女性だけでしょうね。ブラジル人も、あとは韓国人も、きちんと断りますから」

 

林さん著書「バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?」
林伸次さん著書・「バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?」

 

■常に一歩引き、フラットな目線で店を俯瞰する。

バーを経営する時、いわゆる「常連」とのつき合い方は難しいものだ。「bar bossa」に来るのは「半年に1回ぐらい」の人達が主。客層の常連率は、それほど高くないという。

 

「僕は、冷たいのかもしれません(笑)。これはあくまでウチの場合ですが、他のバーにありがちな、店が終わった後にお客さんと飲みに行ったり、季節ごとに花見やバーベキューをしたり、ということはありません。理由は、お客さんとの距離が測りにくくなるからです。

お客さんは仲良くなると『安くなって当然』という気持ちが生まれ、お金を払いたくなくなります。つまり"友達"になると、お金を落とさなくなる。そして僕も、友達との関係性にお金を介在させたくなくなってしまう。

要はお客さんとの間には一定の距離がないと、関係がなあなあになってしまう。それは僕にとって、すごくやりにくいことなのです」

 

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また、客からの「おごり」も必ず遠慮している。

 

「それにもいくつかの理由があるのですが、まずは先ほど言ったことです。おごられてしまうと、関係が対等でなくなる。ビジネスの関係でなくなってしまいます。ですから、うちで知り合ったカップルの結婚式にお呼ばれする機会もありますが、申し訳ないと思いつつ、お断りすることも多いです。

『バーテンダーズマニュアル』には『初めての客には常連のように、常連の客には初めての客のように』とあるのですが、真実だと思いますね。そして自分が酔っ払ってしまうと、正常な判断ができなくなってしまう。バーテンダーは、空気を感じ取ることができなくてはいけませんからね。

お客さんのどなたかが、不快に感じてはいないか。店がおかしな状況になってはいないか、常に一歩引いて、フラットな目線で店を俯瞰して見ることが大事です。だから、酔っ払っているわけにはいかないのです」

 

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そんな中で、林さんが特に大事にしている考えがある。それは店を、どこかのグループの"たまり場"にしないことだ。

 

バーは、いろいろな種類の人がいた方が入りやすいものです。でも、例えばお客さんが全員スーツだったり、全員どこかの劇団の人だったり、全員が阪神ファンだったりしたら、ウチの店はきっと今ごろお客さんに困っていたでしょう。店に入ってみたらバーテンダーも含めて全員が演劇の話をしていたら、全員が阪神タイガースの話をしていたら、知らない人は会話に入れませんよね。

そうなると当然、お客さんは減っていきます。入りやすい店でありつつ、一定の人脈にどっぷりと浸り切らない。つまり『たまり場にしない』ことは、すごく大事だと思います。幸いその点、うちはいろいろな境遇の方が来て下さって、そうならずにすんでいますね。

 

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ちなみにこれらの話は、あくまでウチの場合、です。お店にはさまざまな経営の仕方があるのも確かで、お客さんと飲みに行ったり花見やバーべキューをして、上手くいっている店も多々あります。阪神ファンや演劇好きが集まって、繁盛している店もきっとあるでしょう。これは渋谷の奥にあるbar bossaだから、の話ですので、ご理解いただければと思います」


長年にわたって幅広い層のさまざまな人達を受け入れ、それぞれにとっての大切な場所であり続けたbar bossa。
最終回となる次回は、林さんがこの店を続けるためにしてきたさまざまな工夫、そしてこれからについて、掘り下げていく。

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プロフィール
林 伸次

林 伸次 はやし しんじ

bar bossa 店主

bar bossa(バールボッサ)店主。1969年徳島県出身。18歳で上京し、20歳で中古レコード店に勤務。その後ブラジル料理店とショットバーを経て’97年、bar bossaをオープン。’01年にはネット上にBOSSA RECORDSを立ち上げ、CDライナーへの執筆も多数手がける。著書に『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』(DU BOOKS)。電子メディアcakesに連載中のコラムをまとめた『ワイングラスの向こう側』(角川書店)。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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