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日本のマーケットが世界のステージになる
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日本のマーケットが世界のステージになる
昨年12月に東京・渋谷で初めて開催された、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。このイベントをオーガナイズするメンバーの一人が、ソニー・ミュージックエンタテインメントのローレン・ローズ・コーカーさんだ。ライブとともにカンファレンスや楽曲制作のワークショップを行うTDMEの狙いは何なのだろう。日本在住10年、日本のダンスミュージックシーンを知り尽くす彼女の「企み」をうかがう。
写真=三輪憲亮
今年11月30日~12月2日に2回目が開催される「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。この中でローレンさんが目指しているのが、日本人アーティストの世界進出をさらに進めることだ。
「昨年のカンファレンスでは、イギリスの人気レーベル・Toolroom Recordsの方々をお呼びし、クラスをオープンしました。日本の参加者が制作した音源を、レーベルのA&R(アーティスト・アンド・レパートリーの略。アーティストの発掘・育成・契約と楽曲の発掘・契約・制作などを行う、アーティストと楽曲に関する責任者)の方が聴き、フィードバックするというものです。海外のプロが自分の作った曲を聴いて、顔を見ながらアドバイスしてくれる。そんなことはめったにありません。参加者の中には、感激して泣きそうになっていた人もたくさんいました。素晴らしい機会でしたね。
実は世界のトップDJの中には、このようなイベントに参加したことをきっかけに有名になった人がたくさんいます。初めて曲を作ってから5年後には音楽を仕事にしている、そんなケースがこういったカンファレンスから多く生まれているんですね。つまり、才能ある人には大きな可能性が開かれている。だから、海外のレーベルのトップの人たちに、日本人の作った音楽をもっと聴いてほしい。そして日本のDJは、もっと世界へ出てほしい。
でも残念なことに、今の日本の人はまだまだ海外への意識があまり高くありません。これまでは、国内マーケットが最優先で、日本の音楽は日本人に向けて売るだけでも十分な収益を得ることができました。ただ、国内需要に大きな伸びを期待できない今、今後それは絶対に変わってくるかと思いますし、変えていくべきだと思っています。
今はインターネットのおかげで音楽に国境はなく、世界中のマーケットへ日本の音楽を届けることが可能です。ワールドクラスのDJがもっともっと日本から出てきてほしい。そうすれば、日本のマーケットは世界のステージに上がることができると思います」
そのためには、日本で音楽ビジネスに携わる人達によるさらなるサポートが必要だ。
「日本の音楽マーケットに、才能あるアーティストは山ほどいます。例えば日本のクラブで5万円のギャラで活動しているDJであっても、ロンドンやベルリンに行けば20万円や30万円といったギャラを受け取れるであろう人はたくさんいますよ。でも多くの人は、自分の作った曲をどうやって世界中に広げればいいのかわからない。それが現状です。
確かに、海外でのCDリリースは大変な面もあります。でも、配信サービスに乗せることは決して難しくない。誰でも自分で音楽を作り、TuneCOREなどを通じてSpotifyやApple Musicなどでリリースできますし、海外アーティストとコラボし、海外レーベルのサポートをもらって契約することもできます。そういった情報はまだまだあまり知られていない印象にありますが、チャンスはたくさんあります。
ダンスミュージックのアーティストで海外を目指す日本人DJは、ロックやポップスのジャンルに比べると多いかもしれません。でも、まだまだ少ない。『TDME』を通じて、彼らをサポートしていきたいと思います」
そんな想いを具体化したコンテンツが今年の「TDME」にて始動する。「INTERLUDE from TDME」は世界に羽ばたくクリエイターを発掘する次世代エレクトロニック・クリエイターのオーディションであり、グランプリは豪華賞品や世界リリースなど、アーティスト・作家活動の支援を受けることができる。ここから次世代を担うクリエイターの誕生が期待される。
ローレンさんは「今後間違いなく、世界の音楽ビジネスは本当の意味でグローバルなものになる」と語る。
「少し前まではビルボードチャート=世界で、世界進出=ビルボードチャートの上位にランクインすることでした。ビルボードの価値は今ももちろん高いですが、あくまでアメリカの一つのチャート。時代は少しずつ変わりつつあります。
音楽のジャンルは多様になり、それぞれ複雑に混ざり合っています。そして、みんなが自分の好きな音楽を自由にダウンロードして聴くスタイルが、主流になりつつある。その中でも、ダンスミュージックは特にボーダレス。ある国のDJの曲が、まったく関係のない国でいきなりヒットするようなことがあります。
確かに日本の音楽マーケットは世界で2番目の規模で、邦楽を中心にしっかりと完成されています。もちろんそれはとても魅力的だと思いますが、日本のDJや音楽ビジネスの関係者は、このような流れに乗り遅れないよう、世界のダンスミュージックの動きも知ってほしい。私たちは、そんなダンスミュージックのトレンドを発信することができます。『TDME』はそのためのイベントです。
『12月の渋谷に来たら、世界と会える』これは本当です。
会えるだけじゃない。話もできます。だから11月30日~12月2日は渋谷ヒカリエに来てほしい。そして、たくさんの人が『TDME』に来て、『TDME』が大きくなればなるほど、面白いことがたくさん生まれるはずです」
最終回となるPart.4では、ローレンさんが今、注目するアジアの音楽配信サービス、そして今年のTDMEについて、話を聞いていく。
アメリカ出身。シカゴ大学卒業後、2008年に日本へ。イベント会社勤務を経て2012年にソニー・ミュージックエンタテインメント入社。洋楽アーティストの物販やキャンペーンの他、新規事業を中心にさまざまなプロジェクトに携わる。昨年12月、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」を手がける。今年のTDMEは11月30日から12月2日の3日間、渋谷ヒカリエを中心に複数会場で開催予定。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです