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プロダクトアウトではなく、マーケットイン
メインサイトを持たず、Facebook、Instagram、YouTube、Twitter などSNSのプラットフォームから直接、情報を発信する分散型メディアは最近、徐々にメジャーな存在となりつつある。今回は動画メディアの運営、動画マーケティング事業を行う株式会社トピカ代表取締役・麓俊介さんのお話をうかがう。
写真=三輪憲亮
「ナイアガラハンバーグ」「とろけるチーズ肉バーガー」「モッツァレラ角煮オムレツ」。ダイエットブームどこ吹く風。名前を聞くだけで食欲をかき立てられる「安い」「うまい」「早い」"オトコ飯"のレシピを1分間で紹介する分散型動画メディア「GOHAN」が大人気だ。
「食べてまずかったら即、ボツです。まあ実際、そういうことはほとんどありませんが、食べてひと口目で『うまい!』もしくは『そう! これこれ!』という反応あるものを選びます。『これ、ありかもね』『悪くないね』ぐらいではダメ。
現在は、ウチの社内で調理、撮影まですべて行っています。以前は僕の自宅で行っていたので、床がいつも油でヌルヌルだったのを思い出します。すべて必ず試食しているので、このサービスを始めてから11㎏も太ってしまいましたよ(笑)」
語るのは、株式会社トピカ代表取締役の麓俊介さん。多くの女性向け料理動画メディアが存在する中「GOHAN」は「1分でわかるお手軽オトコメシ」をテーマに、主に男性向けに料理動画を配信している。2016年の7月22日のローンチから約1年、ファン数は約50万人、月間の視聴再生数が1000万回を突破。フォロワーの約7割は男性で、男性向け料理動画メディアとしては国内最大規模である。
「このメディアを立ち上げたのは、27歳独身男性・麓俊介が食べたいものを作ろうと思ったことがきっかけ。当時、料理動画メディアは他にもたくさん出ていましたが、ほぼ女性向けでした。そこで、男性のための料理メディアはどんなものがあるのかをリサーチしました。
マーケティング的観点で言えば、料理メディアという市場はすごく大きい。
雑誌でいうと『オレンジページ』、ウェブでいうと『クックパッド』など、たくさんのメディアがあります。それに加えて時代の流れとして、料理動画メディアが流行し始めていました。僕らが会社を立ち上げた2016年5月ごろは、『DELISH KITCHEN』さんや『kurashiru』さんといったメディアが数字を伸ばし始めていたところでした」
ただしこれらのメディアは、どれも基本的に女性向け。男性×料理というメディアとしては、手の込んだ男のこだわり料理本や、人気タレントを使ったテレビ番組は確かにあった。だが、男性が簡単に作れる料理のレシピを紹介する男性向け料理動画メディアはどこにもなかった。
「男性向けの料理動画メディアは間違いなく伸びる。その確信がありました。そもそも僕自身が一人のマーケター、そしてモノ作りをする人間として、 プロダクトアウトするタイプではなく、マーケットインするタイプ。つまり『これが面白い! だからやるんだ』と考えるのではなく、市場観を見てサービスを考えていくタイプの人間で、どちらかというと、大当たりは少ないけれど確実にヒットを打つ"安打型"のスタンスでやってきました。競合のない所に自らのポジションを探していくことが得意なので、そこから考えて、男性向け料理動画メディアに潜在的なニーズがあることはわかった。それならば、そのメディアに対してユーザーが何を求めのるかを考えていけば、絶対にヒットさせられると思いました」
ヒットする確信はあった。ただし慎重を期し、ローンチ前にテストマーケティングを行った。
「自腹でサービスを立ち上げ、少し集客をしてみました。その結果を見ても、やはりこれは伸びると確信できました。僕は最後のテストマーケティングが一番重要だと思っているんです。実際に自分達でお金と時間を使って小さく展開し、仮説が正しいかどうかを検証。その結果、男性×料理の動画メディアには確実なニーズがあることがはっきりとわかりました。つまり、僕らのような弱小で資金が少ないスタートアップでも、最速で展開すればポジションを取れる。そう考えて始めた結果、実際に男性向けの料理メディアとして圧倒的ナンバーワンになることができました」
ローンチ当初は独身男性をターゲットとして考えていた。しかし、多くのファンから支持されるにつれて、考え方が変わってきた。
「最初はレシピの企画も調理も、すべて自分で行っていました。そこからフォロワーが増えていくにつれ、多様化が進んでいきました。中身を分析すると、実はユーザーの半数以上が既婚者の男性だったんですね。つまり僕らは既婚者も幸せにせねばならず、独り身のことだけを考えていては、成り立たない。
あらためて今後の日本を考えていくと、少子高齢化が進み、国民1人当たりが稼がねばならない金額も確実に上がる。食事は今まで、すべて奥さんに作ってもらえばよかったけれど、それが今後はどんどん厳しくなり、共働きがもっと当たり前になる。そうなった時、女性が働きながら食事の支度をするのはしんどい。既婚男性もちゃんと家事をしないと、日本経済は循環していかないんですね。
僕らは今まで包丁を持ったことのない男性に、一人でも多く包丁を握ってもらいたい。そんな思いから、男性の料理初心者向けに『俺でも作れるかも』『これ食いたい!今晩作ってみよう』というレシピを提供することを考えるようになりました」
ユーザーはおおむね25歳~40歳あたりの男性がメインとなっている。
「主に『あまり時間がなく、お金も制約が…』という層が中心ですね。
僕らが今、他社との違いとして打ち出しているのが、男性に特化したリーチ効率のよさ。僕らのメイン層にアプローチしたければ、GOHANはすごく獲得効率がいい。例えばファン数100万人を超えるメディアでも、女性ファンが98%であれば男性ファンはたった2万人。その一方で、僕らのファン数は50万人だけど7割以上が男性だから、約35万人に情報を届けることができるわけです」
GOHANの大きな特徴が、自社メディア(オウンドメディア)を持たぬ「分散型メディア」であることだ。Facebook、Instagram、Twitter、YouTubeの4つのSNSプラットフォームに向け料理動画を配信。
他にもLINEやSmartNewsとコンテンツパートナー契約を結び、各アプリでも料理動画の視聴が可能となっている。次回はGOHANの分散型メディアとしての可能性について、話を掘り下げていく。
★『GOHAN』の人気メニューを紹介!★