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ファクトから『なぜ?』を見出し、それを分析する
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ファクトから『なぜ?』を見出し、それを分析する
ソーシャルメディア全盛の今、消費者の声を拾えるツールが増え、マーケティングリサーチの役割は変わりつつある。今後、マーケティングリサーチはどのように変わっていくのだろうか。2014年の上場廃止から3年。今年3月に再上場を果たしたマーケティングリサーチ会社・マクロミルの西部君隆さんに、今回はお話をうかがっていく。
写真=矢郷桃
マクロミルは今、年平均20%以上の成長を見せ、この3月には3年ぶりに再上場を果たした。同社の飛躍にある背景は何か。マクロミルの西部君隆さんは語る。
「再上場は一つの目標だったため、それ自体は非常に喜ばしいことだと思っています。成長を続けている要因は、グローバル展開の加速、そして国内のインターネットリサーチ市場において、競合他社のシェアを取り込み、吸収して大きくなってきたことが挙げられます。マクロミルは2000年からネットリサーチ事業に取り組み、業界を牽引してきました。皆さんがよく知っているような大きな企業は、おおむねマクロミルのサービスをお使いいただいており、そのアセットは本当に何にも代え難い武器であり一番の強みです」
とはいえ、これまで年10%程度の成長を示してきた国内のネットリサーチ市場の成長率は、3%ほどに鈍化。今後、国内マーケットはよりシビアになってくる見込みだ。消費者の行動は多様化し、マーケティング手法も変わりつつある中、次のイノベーションを生み出すキーワードとは。
「マーケティングリサーチにおけるイノベーションは、リサーチ会社から生まれるとは限りません。リサーチとはまったく関係のない業界から、リサーチのあり方を変えるイノベーションが生まれる可能性もあり、それに対する焦りは正直言ってあります。それでも、次のイノベーションを生み出すのが私達でありたいと思っています。
キーワードは、『ソーシャルメディア』と『モバイル』でしょう。この二つは消費者の行動と、私達のビジネスを大きく変えました。これまではアンケートとインタビューぐらいしか、消費者の声を聞くツールはありませんでした。でも今はFacebookやTwitter、Instagramなどさまざまなソーシャルメディアがある中、お金をかけなくてもいろいろなことを調べられる状況にあります。マーケティングリサーチはある意味、とても身近なものになっています。そんな中で、クライアントが私達にお金を払っていただくメリットは何なのか。それをしっかりと示していかなければなりません」
ソーシャルメディアが台頭する中で、クライアントがリサーチに求めるものは何だろう。
「リサーチには、仮説が本当に正しいかどうかを確認する『検証型』と、仮説を作るための『探索型』があり、この二つはまったく異なるものです。前者についてはやはり、信頼性のあるデータに基づかなければなりません。例えば『この商品が本当に売れるか』というレベルの判断は、やはり信頼性のあるデータが必要です。一方で後者については、ソーシャルメディアの分析などに置き換えられている面はあるでしょう。
でもその中には、必要のないデータもたくさん混じっています。特に日本のクライアントは、しっかりとしたエビデンスに基づくデータを必要としますので、その時こそマーケティングリサーチ会社の出番です。データ取得元の属性がきちんと整理されているなど、正確なデータの必要性は、昔も今も変わりません。
最近はインターネットリサーチが一般化している分、価格やスピード感だけでは差別化できなくなっています。クライアントの課題を事業目線で理解し、次のアクションにつながる示唆をいかに与えられるか。要望をどれだけ正確に聞き出し、クライアント目線に立って、リサーチのスキームを作っていくか。そこが大事であり、まさにリサーチャーの腕の見せ所でもあります」
マーケティングリサーチの国内市場は今後、低成長が続くと予測されている。その中で、今後注力していくビジネスは。
「国内のマーケティングリサーチ市場はだいたい2000億円弱ぐらいの規模です。その中でインターネットリサーチが占める割合は600億円ほどになりますが、ここから劇的に伸長するイメージはそれほどありません。そのため、的確に消費者インサイトを深堀するインタビュー調査やビッグデータを活用したデータベース・ソリューションの提供など、ネットリサーチ以外にもさまざまなビジネスを手掛けています。
最近では、脳科学・認知神経科学の知見に基づいたマーケティング・コンサルティングサービスを行う、株式会社センタンと業務・資本提携しました。今後は消費者の脳の反応を計測し、消費者心理や行動の仕組みを解明して、マーケティングに応用しようとするニューロマーケティングにも取り組んでいきます。」
購買行動の背景にあるものは、昔と比べてどんどん複雑になっている。その複雑な購買行動を読み解くカギになるものは何か。
「例えば商品棚の前で3秒もかけずにモノを買っている人に『なぜそれを選んだのですか?』と聞いても、なかなかリアルに答えられるものではありません。その部分をどう解明していくか。そこはインタビューよりも、例えば観察調査といって、消費者と一緒にお店に行き、行動を見ることで気づきを得るようなやり方も有効です。自分自身の行動を、必ずしも理屈では説明できないこともあるからです。
今後は観察調査も、画像処理などの精度が増せばデジタル化できるかもしれません。あるいは商品もRFID(人やモノの個別情報を自動認識するシステム)がついて、手に取られたかどうかもすべてデータに残る世の中になるかもしれません。しかし、リサーチャーが消費者の行動を観察したり直接インタビューしたりとまだまだ泥くさい面が多いのが現状です。人の行動を読み解くことはやはり難しいし、観察調査から法則性を導くのは困難です。でも、もしITの力で購買行動を分析し、何かしらの法則性を見つけられたら、競合に対して確実に勝てるのではないでしょうか。
また最近の購買行動でいえば、何といってもECの台頭です。インターネットでモノを買う人はさらに増えていきます。その分、購買行動の分析自体は行いやすくなります。ただ、それはすべて単なるファクトにしか過ぎません。そこに『なぜ、その商品を買ったのか?』という理由はありません。その『なぜ?』を見出し、分析していく。それが僕らの仕事です」
次回Part.2では西部さんのこれまでのキャリア、そしてマクロミルのグローバル展開について、話を掘り下げていく。