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紙コップからロケットまで、IoTはある
今、徐々に認知されつつあるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)という言葉。今や世界中に張り巡らされたインターネットは、パソコンのみならず、あらゆる"モノ"を通じた情報伝送路へと進化しつつある。急速なテクノロジーの発展により、かつてSF漫画に出てきたような未来社会が実現しつつある今、マーケターはIoTという新たな時代のうねりと、どのように向き合っていくべきなのか。今回は、さまざまなIoTインテグレーション事業を手がける株式会社エスキュービズム取締役・武下真典さんに、お話をうかがっていく。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
今後のIoTの進化を考えた時、われわれマーケターは、日常に対してどのような目線をもつべきなのだろうか。
「大事なのは、IoTがどうのこうのを考えることではないと思います。それよりも、自分の会社やクライアントの企業が抱えている課題や目指している未来に対し、今までと違うアプローチを探す『目線』が大事です。
僕らは社内でよく『もしもIoT』と言うのですが、身近なところで考えると、お風呂にあるシャンプーとリンスって減るスピードが違いますよね。あれ、意外と困りませんか? シャンプー2に対してリンスが1減るわけでもなく、微妙な減り具合でわかりにくい。そんな時に、今減っている分を量り売りしてくれたら、ありがたいですよね。もしくは、なくなりかけたら勝手に次の物が届く、なんてサービスがあったら、これまたありがたい。
この考えは、例えば飲食店の醤油にも応用できますよね。そういう『あったらいいね』から始めることでしょう。もっとわかりやすく言うと『もしドラえもんがいたら、あなたは何を頼みますか?』ですよね。あのころの未来は、もうすぐそこに来ているんですよ」
重要な考え方が、今の時代、企業の課題の解決方法は決して一つではない、ということ。それぞれの会社の特性によって、多種多様なアプローチがあり得る。
「今までは皆さん、会計やERP、物流など、企業のさまざまな問題をシステムによって解決してきました。そこはもう、やり尽くされています。コストも人件費も絞りに絞ってきましたから、大事なのは、発想を変えることです。ドラえもんにポケットから何かを出してもらうつもりで、考えていけばいい。
正直、ドラえもん=僕らとしては、のび太くんが『在庫管理が大変だよ~!』みたいに泣きついてくれた方が、やりやすい(笑)。今、チャンスはあらゆる業界にあります。最も手っ取り早いのは、身近な課題について考え、それを適切なソリューションにつなげていくことです」
東京オリンピック・パラリンピックを迎える2020年を一つの目安として、多くの企業が今、IoTビジネスに目を向けているのは確かなことだ。
「2020年までにビジネスインフラを整えたい、という声をよく聞きます。2020年以降は、既存の産業だけでは食っていけなくなる。そして少子高齢化も進みますから、日本のマーケットはおそらくシュリンクしていく、という危機感があるのでしょう。
正直、じゃあどうすればいい、という答えはまだありません。実はそこに対するゼネラルな答えなどなくて、それぞれの企業独自のソリューションしか存在しないのではないか、と思っています。つまり、自分達しかできない独自のビジネスモデルを考える必要がある、ということ。結局、答えはそれぞれの企業の中にしか、ないんです。
僕らが手がけた宅配ボックスも駐車場のシステムも、100社あったら100通りのアプローチがきっとある。逆に言うと、僕らはそれらをカスタマイズできる体制を整えておく必要がある。一つの決まったものを売るのではなく、それぞれの企業向けにカスタマイズして売る。その仕組みを作らねばならないでしょう」
そしてエスキュービズムの今後の展開について、武下さんはこう語る。
「今は外食産業や小売業がメインですが、今後はもう少し多様な業界にビジネスを広げていくことになるでしょう。例えば不動産会社や住宅メーカー、化粧品メーカー、スポーツウェアブランドなどの消費材メーカーなどとも取り組んでいきたいと思っています。
IoTでモノがつながっていくという考えの前には、実際のモノの大小はまったく関係ないです。なぜなら、紙コップからロケットまで、IoTはあるから。そういう意味でも、今後の産業構造はどんどん変わっていくでしょう。
エスキュービズムが提供する駐車場用予約・決済システム「eCoPA(エコパ)」を採用
そんな中で今、IoTで企業の問題を解決できている会社は少ない。どのようにIoTをビジネスとして構築すればいいのか、わかっている企業は今、ほとんどないからです。逆に言えば、わかっている企業は確実に勝てる。大きなメリットのあるビジネスモデルをしっかり打ち立てられたら、より多くの製品にそれを展開していける可能性が生まれます。僕らは、その流れに確実に乗っていきたい。そのために今、一所懸命やっていますよ」
「IoTといえばエスキュービズム」といわれる存在になること。それが、武下さんの今の大きな目標だ。まだまだ状況が見えにくいIoTビジネス。しかし今後、マーケターの自由な発想に基づいた多様なビジネスモデルが2020年を目途に続々と誕生することだけは、間違いない。
(終わり)
1979年大阪府出身。大学卒業後、フューチャーアーキテクトを経て2008年に株式会社エスキュービズムへ。
2014年にEコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orange」シリーズを軸に事業を展開する株式会社エスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役就任。今年10月、組織統合によってエスキュービズムの取締役となる。
著書に『はじめてのIoTプロジェクトの教科書』(クロスメディア・パブリッシング刊 武下真典/幸田フミ 共著)。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです