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常識にとらわれて、本質を見失ってはいけない

鳥越 淳司 とりごえ じゅんじ さん 相模屋食料(株) 代表取締役社長

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■賞味期限の延長により、商品の広域流通化が加速。

 

豆腐をできたての熱い状態でパックすることで、おいしさを保つ。その新製法は同時に、賞味期限の延長という大きなメリットを生み出した。

 

「アツアツのままパックすると、雑菌が繁殖しにくい温度帯になるんですね。菌にもいろいろな種類があり一概には言えませんが、一般的には人の体温の温度帯は、最も菌が繁殖しやすい。いかにその温度帯を通らないよう制御するか。通ったとしても、いかに短期間でそこを通り抜けるか。第三工場のラインでは、そこをしっかりとクリアできました。

すべてが自動化されたことで、第三工場はラインスピードを大幅に高めることにも成功。これまで1500~2000丁だった時間当たりの生産数は、一気に8000丁になりました。生産効率を大幅に上げつつライン上の滞留時間を大幅に短縮したことで、おとうふに何かを添加したりせずとも、賞味期限を延ばすことができたのです」

 

従来約5日とされていた賞味期限を2~3倍延ばすことに成功し、相模屋食料の販売網は一気に広がりを見せていく。

 

「今でも『その日に腐るのが豆腐だ』なんておっしゃる方もいらっしゃいますが、業界の常識として、おとうふの販売ルートは往復400㎞圏内から広げられない、といわれてきました。しかし第三工場の稼働により賞味期限が延び、さらに広域へと出荷できるようになりました。

 

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これは決して狙ったことではないのですが、実は時を同じくして、私達の最重要取引先である生協さんが広域化を進めていました。以前は生協法によって、生協は都道府県単位で活動が原則で、商品の仕入れはすべて一つの県内で行われてきました。しかし第三工場の稼働を前に生協法が改正になり、県をまたいだ活動が許されるようになった。そして広域化・事業連合化がどんどん進んでいました。

そうなると、生産量の少ない地場の豆腐メーカーではおとうふを供給し切れない。つまり生協さんとしても、大きな供給拠点が必要だったわけです。私達が第三工場を立ち上げたタイミングと生協さんの広域化がちょうど重なり、利害が一致。結果、私どもの商品が全国に大きく広がっていったのです」

 

■「おとうふを食べられるロケーションを広げたい」

 

第三工場の稼働を機に流通量を大幅に上げた相模屋食料は間もなく業界トップとなり、'09年度には売上高100億円超を達成。そして今、鳥越さんは「おとうふの世界をどんどん広げていきたい」と語る。

 

「まず定番商品の木綿と絹は、『こんな風に変えました』などと宣言することはせず、人知れず、そして圧倒的にレベルアップしていきます。その一方で『マスカルポーネのようなナチュラルとうふ』や、レンジアップの『ひとり鍋シリーズ』といった、新しいカテゴリーの商品の開発を、どんどん拡充していきます。

 

スナック豆腐各種レンジアップの『ひとり鍋シリーズ』

 

そして新ジャンルとして、今後はスーパーの売り場でいう『スナック』の分野を狙っていきます。お菓子のスナックではなく、ピザやブリトーといったものに含まれる、レンジで温めて簡単に食べられる軽食のカテゴリーのことです。実はおとうふには、この『スナック』のカテゴリーに属する商品がないのです。ですから、ここを攻めたい。今考えているのは『絹から揚げ』。絹豆腐にから揚げ粉を付けて、揚げたものです。

お豆腐と厚揚げって、いつでもどこでも食べられるものではない。これは、もったいないこと。今は動物性たんぱく質を摂取する時代から、植物性たんぱく質を摂取する時代にシフトしつつあり、もちろん、植物性たんぱく質の最たるものは大豆たんぱく。今まさに時代がやって来ている。そんな時こそ、気軽に楽しめる商品や今までになかった価値観を提示して、おとうふを食べられるロケーションを広げたい。東京オリンピックを控えた今ほど、世界の目が日本に向いている時代はありませんから」

 

成熟産業といわれる豆腐作り。思い返せばこの業界に入った時は、皆が暗い顔をしていた。でもそれは、常識で凝り固まり、自ら暗い先行きしか見ようとしていなかっただけではないか。「この場所で生きていく」という覚悟を決めて頭を巡らせると、できることはたくさんあった。

 

「常識とは、すべてが本当にまったく崩せないものでしょうか。そこまで不動のものでしょうか。後生大事に守っている常識という壁でも、ポンと破ってみると、お客様は意外とあっさり認めてくれたりする。やってみないと決してわからないし、まずはそこに疑問を持たなくては、何も始まらない。

 

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大切なのは、本質とは何か、ということ。それを考えずに、何が常識なのかばかりを気にしすぎている。いわゆる伝統食品ほど、そういう面がたくさんあるように思います。常識とは、常にアップデートし続けるものではないでしょうか」

 

その常識は本当に常識なのか。変えられないものなのか。そして今は、それを捨てるべき時期なのか。それとも、しっかりと守るべき時期なのか。鳥越さんは今日もそれを自問自答し続ける。

(終わり)

 

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プロフィール
鳥越 淳司

鳥越 淳司 とりごえ じゅんじ

相模屋食料(株) 代表取締役社長

相模屋食料株式会社 代表取締役社長。1973年京都府出身。早稲田大卒業後、雪印乳業入社。’02年、相模屋食料に入社。’07年に代表取締役に就任し、同社を大きく成長させ、木綿豆腐、絹ごし豆腐で生産量日本一を達成した他、「ザクとうふ」「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」などのヒット商品を手がけている。著書に『ザクとうふの哲学』(PHP研究所刊)。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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