東京ゲームショウ2016が終わって考えるVR、10の考察

タケナカ テイイチ

タケナカ テイイチ [記事一覧]

タケナカオフィス(TOJ)代表、 デジタルメディアコンテンツストラテジスト。コンテンツテクノロジービジネス開発プロデューサー。ジャズピアニスト、作家。学生時代から音楽活動を開始し、卒業後音楽学校講師を務める傍ら、演奏・制作活動を続ける。その後、渡米し、スタンフォード 大学CCRMA(コンピュータ音楽音響研究センター)で客員研究員。帰国後、ヤマハ、BMG、MTVジャパン、アットネットホーム、コロムビアと音楽コンテンツ・メディアIT企業で制作、イベントプロデュース、A&R、事業開発、そして経営ボードとして企業マネジメントを行う。 アナログからデジタルへ、フィジカルからデジタルへ音楽産業・構造が移行する中で、常に革新とレガシービジネスのバリューマッチング、新規事業開発を行う。海外ITエンタメ事業ローンチ、市場リサーチ・コンサル、マーケティングプロデュースを行う一方で、新規ビジネスグロース・プロデュースを手掛ける。 2016年3月からネット音楽ラジオ局OTTAVA取締役CEOに就任。9月からニューテクノロジービジネス開発フェロー。


■「音楽VRコンテンツの現状と課題、そして未来」Vol.1

 

1.日本のVR元年の意味?

 

この半年で多くのVRビジネスカンファレンス、ミートアップ、展示会などに参加した。理由は3月に引き受けた国内唯一のデジタルラジオ成長戦略としてのクラシックVR事業の見極め、そして立ち上げを担当したことから始まる。

 

VR(バーチャルリアリティ仮想現実)そのものは新しいものではない。ちなみに今AR(拡張現実)位置ゲーとして世界を席巻したポケモンGO(PG)のARも、すでに2008年にセカイカメラでGPSを使ったスマホARは実現されていた。

 

PGはそのテクノロジーの新しさよりもビジネスマッチングとしてポケモンというグローバルに人気のあるキャラクタを使いグーグルが蓄積した膨大なマップデータ、そしてINGRESSというAR GPS陣取ゲームで蓄積したスキル、ノウハウのアウトプットをオタクからマスへシフトしたことだろう。社会現象とまでなったPGはその爆発的初動からは落ち着きを取り戻している。(オフィスのある恵比寿界隈もリリース当初はスマホ歩きPGユーザーが多く見られたが、すっかり姿を消した。)

 

話を戻すとVR元年は他のxxx元年同様,毎年言われている業界のスローガンのようなものだ。2016年は2012年先行した米国OCULUSはじめグローバルVRデバイスが日本に相次いで上陸した。グーグル×サムソンのGEAR VR、中国企業HTC VIBEの日本販売フランチャイズスタート、そして10月のプレイステーションVRの発売、これらに合わせて数々のマーケティングイベント、カンファレンスなども開催され、アーケードゲームでもBANDAI、セガが相次いでVRアミューズメント体験スペースをお台場(VRゾーン、ジョイポリス)はじめとして展開を開始した。

 

 

VRZONE©2016 BANDAI NAMCO ENTERTAINMENT
VRZONE©2016 BANDAI NAMCO ENTERTAINMENT
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ZERO VR 2016©SEGA LIVE CREATION

 

 

こうした動きを見てみると確かに昨年よりはリアルにコンスーマープロダクト、ソフトが出揃い2016年をVR元年と呼ぶのに相応しい感はある。

 

ただ最先端テクノロジーとマーケットは常に期待と失望が交錯し、VRもユーザー体験者のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の違和感、VR酔いなどネガティブなファクターも喧伝されているのも確かだ。今から5年後2020の東京オリンピックやその先10年後に2016年はVR元年だったと振り返るにはまだ不確定要素が多い。(スマホ元年を作ったiPHONEほどのインパクトは今の所まだない。)

 

2.音楽VR (Virtual Reality)の定義?

 

VR自体はコンピュータによって作り出される仮想現実の技術及び技術的体系という定義なので、その用途は医療から産業用、シミュレータ、ゲームエンタテインメントまで多岐にわたる。広義のVRでは、医療や産業用VRがロボット技術同様20年前から開発が進んでいる。

ここでは音楽VRの定義をするためにコンスーマープロダクト、ソフト、VRテクノロジー、マーケットを扱うことにする (VRビジネスの議論をすると、たまにフォーカスが拡散しVRはEC,医療が本命だと言って時間稼ぎをする人がいるso what?)

VRと音楽、話が拡散しないようにそこを整理再定義していこう。

3.まずVRで出来ることと、音楽コンテンツの本質

 

VRカメラはライブコンサートを360度(所謂全天球映像)さらに3D(立体)映像で記録(キャプチャ)できる。さらにVRでは、ライブコンサートでその場にいなくても、最前列で観戦することが出来、さらに、移動しながら実際にライブ会場でのリアルタイム体験も可能(テレイグシスタンス、テレイマージョン)、そしてリアルタイムストリーミング配信すれば同時にライブ体験が可能(テレプレゼンス)。

 

3D(立体)VR映像は其々4Kステレオ映像をHMDやVRメガネで再生するが、ストリーミング配信では全天球360映像を分割圧縮し、ユーザーサイドでそれを3D映像あるいは2D映像としてクライアントサイドで描画処理を行っている。この時サーバ負荷が増えるとレーテンシー(遅延)が生じ画像が途切れたり、遅滞したりということが起きるのだが、現状ではスマホでのLTE環境でオフロード商用配信に耐えるまでのレベルには到達している。(ドワンゴやDTVなど)

 

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a nationで行われたライブVR©2016 dTV
4.新しい音楽ライブ体験;ライブMR(MIXED REALITY)

 

次にライブMRでは実際のライブにVRを組み合わせたもので、オーディエンスはリアルなアーティストライブに仮想現実を合成したMRを体験することができる。

国内では横浜にあるDMM VR シアターがこうした演出に対応した美術セットを常設しており、VRDG+Hといった音楽ライブが行われている。LED、レーザー、ホログラムといった技術を使ってHMDを装着しなくてもVR体験ができるというものだが現時点では、他の場所にいてそこに参加する(テレイグジスタンス)は実現していない。

 

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VRDG+H#1ライブ@DMMシアター©hip land music
5.MVRC(音楽VRクリップ)新しいMVのカタチ

 

音楽ビデオと同位置付けでアーティストブランディングやプロモーション、マーケティングとして作られるもので最近ではビヨークデジタルで制作された音楽VRはそのアイコン的な作品になっている。

VRコンテンツとして単純に360カメラでカジュアルに2Dとして制作されたものから、インタラクティブ(双方向)にセンサーを利用してそのアーティストの世界に参加できるものまで多様で、ここがMVRをややこしくしている、CGを前面に構成すればゲームVRで体験できるようにオーディオもオブジェクトとして3Dインタラクティブに対応出来る(例えばアーティストがギターを光線銃のように打ちまくる、それをオーディエンスは避けると後ろからゾンビバンドがバトルを仕掛けるといった演出)

今までは全世界で音源を得るためにこうしたプロモコンテンツ(PV)に数千万を投資しても回収できたのだが今世界をアッと言わせるMVRを製作しようと思えばゲーム開発並みのコストがかかるのでゲームで回収するようなモデルでも作らないと難しいかも知れない。

 

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©2016 Björk Digital
6.360映像(全天球映像)と3D(立体映像)

 

VR映像は全天球カメラとよばれるカジュアルVRカメラ(180度カメラ2連装でiPHONEに装着(insta360)、単体として映像・オーディオ記録可能(リコーTHETA、サムソンGEAR360)など数万円で比較的安価なもの、基本的にオートスティッチ機能がつく)からハイエンド(6連装〜映像カメラ GOPRO Omniなど、オーディオキャプチャ別)まで存在するがカジュアルVRでは通常に2D映像を画面上で上下左右方向に視聴できるものから、HMDを使って3D映像+センサーを使ったトラッキング可能なものに大別できる。

前者はYOUTUBEやFACEBOOKなどSNSに動画と同様に投稿できるのでコミュニケーションツールとしてカジュアルに使える。

 

もう少しカジュアルにVRを楽しみたいのであれば、ハコスコなどスマホにダンボールメガネを付けてステレオ映像を3Dで楽しむ方法がある。GO PROやGEARなどオープンプラットフォームも用意されているので音楽に限らずカジュアルな投稿VRを体験することが出来る。

360の2DコンテンツをVRと呼ぶのが妥当かどうかという議論はあるが、今までの2D動画とは明らかに視聴行動も違ってくるし、さらには撮影にも今までの動画撮影とは違った表現手法が求められる。(そもそも人間の視野角は限られているので360度注目して世界を認識していない。晴天のオーロラが見える屋外ライブでは上方の映像はインパクトがあり音楽がBGMになりうるが、狭いライブハウスで天井の埃は見たくない)

 

この問題は実はオーディエンス側ではなく制作クリエイティブサイドが今まで蓄積した映画やドラマあらゆる映像表現で用いられてきたメソッドにパラダイムシフトを提示している。

 

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©サムソンGEAR360, GOPRO Omni
7.3DオーディオとVR認知:映像と音楽のインタラクティブ

 

人間の視聴は目と耳からの情報をもとに脳で現実として認知される。その他に鼻(嗅覚)、口(味覚)体(触感)などの情報も現実認知には大きく関わっている。VRにおけるオーディオ認知はVRコンテンツの映像情報に補完的な役割を果たしているが、臨場感を追求すれば例えばコンサートホールに入れば前方の楽器直接音だけでなく建物の反射音、観客のノイズなども臨場感の構成要素となって認知される。こうした立体音響の収録再現方法はサラウンドと呼ばれる。

VRにおいても固定360カメラ映像とバイノーラルやサラウンド方式での収録再生は非常に効果的であるが、一方で例えば観客が後席から全席へ移動した時の音場再構成するソフトはない。さらに言えば姿勢を変えただけでも厳密に言えば音場は変化する。ライブ音楽についてのオーディオデザインについてはほとんど手付かずの状態である。映像においてはLYTROが3Dデータとして記録する方法で視点移動によってCG同様に臨場感を再生することを可能にしている。

VRにおけるオーディオデザインはデバイスやSDKなど現在標準はないがゲームにおける効果音ではオーディオもオブジェクトとして空間移動が可能になっている。VRカラオケでは観客の声援や拍手などはオブジェクトとしてサラウンド化されている、VRオーディオデザインも映像同様まだ未開発分野であり実験フェーズである。

 

 

オキュラス、グーグルのオーディオSDK ©Ocuus,Google
オキュラス、グーグルのオーディオSDK ©Oculus,Google
8.クラシック音楽とVR

 

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©2016 Philharmonia Orchestra

 

 

最初に書いたようにVRビジネスのモチベーションの一つは、音楽メディアとしてのVRコンテンツの戦略立案、実証実験であった。海外のオーケストラは新たなオーディエンス開発にテクノロジーを導入するのに積極的である。ロンドンフィル、シカゴ交響楽団、BBC、ロス交響楽団など次世代のオーディエンスそして人材育成にVRなどテクノロジーを積極的に取り込んでいる。日本では昨今初音ミクやバーチャルアイドル、DJとの共演などは少しづつ見られるようになったが、2020オリンピックに向けてはまず、8Kサラウンド放送がテクノロジーの主流でVRに関しては出遅れている。

 

そんな中で7月に沢口音楽工房制作OTTAVAレコードでリリースした大賀ホール録音のシューベルト弦楽4重奏のPV(プロモーションビデオ)はステージ上にカメラを設置し4K映像でアーティストを近接している、オーディオはRMEハイレゾ音源でこのPVはVRクラシックに大きなヒントを与えてくれた。

クラシックコンサートは有名な海外のオペラからサロンコンサートまで規模も仕掛けも様々だが、基本的にアコースティック楽器を使用していることでその音の多様性、ダイナミックレンジの幅、オペラなど大規模な劇場美術とオーケストラなどVRの可能性を試す宝庫ではあるのだが逆にそれは中途半端なものを作ってしまうと可能性を潰すことにもつながる。

9.ライブハウスでのJROCK、JAZZ VR収録を終えて

 

この3月からテレビ局のVRチームの協力を得て都内ライブハウスでロック、クラブジャズなどVR収録を連続行った。基本的には固定360キャプチャとバイノーラル録音の実証実験である。ライブハウスはアーティストとファンが一体となって音楽と時間を共有出来る場所である。クラシックより当然ながらオーディエンスはアクティブであり観客もステージの構成要素の一つになっている。VR制作環境としてアーティストと観客の距離感を360、3D映像で再現することだけでファーストインパクトは大きい。

 

オーディオ収録に関してはVR機材は3Dに対応した専用機材は限られていてしかもマルチマイクアレンジやEQなどを含めて機材人材ともに不足している。

 

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© TOJ,OTTAVA,テレビ朝日メディアプレックス、EGGMAN
10.音楽×VRビジネスの展望

 

ビジネスとして音楽VRを考える時に、現状でハイレゾ有料配信やサブスク配信のようなプロフィッタブルな専用プラットフォームは今の時点ではない。

コンテンツビジネスのマネタイズは大きく広告モデルと有料課金モデルの視点で議論されることが多い。今はdTVやニコ動、YOUTUBE、FACEBOOKなどが付加価値サービスとしてVRに対応する。一方でデバイスメーカーが専用デバイスでのプラットフォームが用意されている。来月のプレイステーションVR発売では音楽関連のソフトもジョイサウンドのカラオケVRや音楽ゲームなどが発売される。

没入型のVRで先行するのは業務用のアーケードゲーム(アミューズメント)や劇場、遊園地、夏祭りなどのイベントが先行すると思われる。

 

現時点では米国の投資先行を横目で見ながら様子見をしている企業が大半で、VRカンファレンスを行えば満員盛況であるが、日本ではリスクを取って投資する企業はほとんどなくそれまでの制作請負業務の延長として受託待ちのところが大半のように見られる。

もう一度本質に戻るとVRは破壊的メディアゲームチェンジの可能性を秘めている。それは裏返せば、クリエイティブからインフラ、エコシステム、流通、ビジネスモデルなど新たな表現、コミュニケーションカルチャーの創生が求められている。

 

LTEから5Gへ、VRコーディングや様々なオーディオ関連SDK、APIなど進化で環境テクノロジーは数年で必要十分になる。日本はまたもや中国、台湾、韓国などVRマーケット、テクノロジーの先行を許し、OEMで後塵を払うのだろうか?

キーワードはリアリティエンタテインメント、シンギュラリティがマーケットチェンジを起こすのであればVRはその最先端にある、日本には大洋に飛び込むペンギンが求められている。

VRに関してはまた続編を書きます。お楽しみに。

 

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