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実は価値があることを、上手く際立たせる
ビースタイルのタグラインにある「新しいスタンダード」を生み出すために必要なこと。その一つが「みんなと同じことをしない」ことだろう。既存の取り組みに足し算・引き算を加えることで、エッジの利いたアイデアを生み出す。実は、ビースタイルが長年にわたって取り組んできた既婚女性の就業支援も、原理は同じだ。
「多くの企業がうまく戦力化できていないから、働きたくても働けない優秀な既婚女性はたくさんいらっしゃいます。つまり、みんなから正しく価値が認識されていないことや、実は価値があることを上手く際立たせる。それだけでもイノベーションが生まれ、新しいスタンダードが生まれていくのだと思います」
今、新たに注力しているのが、アラフィフ女性の就業支援『50!SIGN(ゴーサイン)プロジェクト』。すなわち、45歳~55歳主婦の積極採用を促すプロジェクトだ。
「まずは企業がアラフィフ主婦に持つ先入観を取り払うため、実態調査を行い『アラフィフ主婦はたらき白書2016』という冊子を発行。日本が人手不足時代を迎えるに当たり、彼女達の働きがいかに必要であるかを可視化しました。そして、その内容を基に企業向けのセミナーを開催。これが大好評で、全2回とも満席でした。そして今後は、アラフィフ主婦を中心としたブランク期間がある方のためのインターンプロジェクトを企画しています。
これらは、新たな人材マーケット創出のための取り組みです。目的は、アラフィフ主婦というまだ企業から戦力と認知されていない層を掘り起こすこと。しかしそのためには、彼女達が現在抱えている課題、働いていない理由を理解する必要があります。
まず企業が、45歳以上の人材採用を敬遠する傾向があります。おそらく、年齢によるパフォーマンスの低下を懸念しているのだと思いますが。しかしこれは企業側の一方的な思い込みに過ぎません。弊社でも実際にアラフィフ主婦の方やブランク期間がある方に働いてもらっていますが、年齢とパフォーマンスにはさしたる相関関係はありません。むしろ、この年代には優秀な人材が眠っています。また、現代のアラフィフと呼ばれる方々はひと昔前のアラフィフとはまったく違います。もちろん個人差はありますが、年齢を全く感じさせないような方、業務遂行能力が高い方はまだまだたくさん眠っています」
宇佐美さん自身も、この層の「採用されにくさ」には、大きな懸念を抱いている。人材マーケットとしての発展は、まだこれからだ。
「そもそも日本において今後、労働人口が増加するのはこの層のみ。ですから将来を見据えて、具体的なアクションを起こしていく必要があるのです。そこで、まずは企業の先入観や思い込みを取り除き、彼らの視点や価値観を現実にフィットさせるための啓蒙活動を行うことが最初のステップになります。これがセミナーを開いた理由です。
そして、現在働いていない将来アラフィフ主婦の方々の多くには就業期間にブランクがあります。そこで考えているのがインターン型採用。受け入れ企業を募って再就職の機会を得てもらうことで、仕事の進め方などを思い出してもらう。こういった事実をつくっていく活動により今後、より多くのアラフィフの既婚女性が活躍できる可能性が広がると考えています」
そんな宇佐美さんが企画を考える時に欠かさないようにしている視点が3つある。まずは、企画を届ける人についてよく知ること。そして二つ目が、その企画が相手にとって「話題にしたい」ものになっているかを、しっかり考え抜くこと。
「『企画は誰のものか』と考えると、もちろんビースタイルのものです。でも世の中に新しい流れをつくる企画は、それに関わる人がまるで自分のことのように語り流通させられることで、初めて存在価値が生まれ、大きな力を持ったものになる。逆に言えば、いろいろな人が『こういう取り組みいいよね』『こういう会社いいよね』と勝手に話題のネタにするレベルにならないと、その企画が社会に価値を生み出しているとはいえません。
私達のタグライン『新しいスタンダードをつくる』についても同じです。これは、ビースタイルという会社の存在意義を表す言葉です。ビースタイルという会社はこのコンセプトに基づいて、本当に人から語られる存在になっているのか。それを、実現するための方法を常に考え続けることが大切だと思います」
そして三つ目が、企画の持つ「社会的意義」を組み立て、それを言葉やビジュアルを駆使して適切に伝えること。
「例えば『面接をしない新卒採用』も、ただ『ウチは面接をしません』と言うだけだったら、ふざけているように見えるかもしれません。『ゆるい就職』も同様です。ウケや話題性を狙った名称をつけて炎上させることで、話題になることはいくらでもできるでしょう。
でも、それでは意味がありません。話題になることはあくまでもプロセスの一つで、僕らが目標としているのは、そういうことでは決してない。大事なのは『僕らが目指す社会はこういう社会だ』というメッセージをコミュニケーションの前提条件として必ず入れ、企画を通じて実現したい社会を指し示すことです。それがないと、ただ新しいことをやっていて面白いけれど、騒がれるだけ誤解を与えるばかりの存在になってしまう。そもそも、自分たちは何のためにこの企画をやるのか?それは社会にとってどのような価値があることなのか?を常に意識するようにしています。」
「人材」という側面から、社会に対して持つ問題意識を企画という形に落とし込み、その価値を伝え、流通させる。そこから築き上げられる「新しいスタンダード」。そのスケールを今後、もっと大きなものにしていく。それが、宇佐美さんの今の思いである。
(終わり)
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです