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採用とは、マーケティングである

宇佐美 啓 うさみ ひらく さん (株)ビースタイル プロジェクトリーダー

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part.3

 

■新たなイノベーションは「足し算・引き算」から生まれる。

宇佐美さんがこれまでに手がけた企画で大きな評判を呼んだものが、昨年の「面接をしない新卒採用」だろう。新卒採用において、既存の「面接」を行わないことをはっきりと明言したところ、多くの学生から応募があったという。

 

「弊社では面接を廃止する前から、形式的な面接を行っていませんでした。一般的な面接では、学生時代に何をしてきたか、強みや弱みが何か、会社にどんな貢献ができるか、といった質問をしますが、うちではそういったことはほとんど聞きません。それらの質問をすること自体が、あまり効率的ではないからです。

ウチの採用では『その学生の価値観はどうなのか。今どんなビジョンを持っていて、その理由は過去のどんな体験から来ているのか』ということを中心に聞いています。つまり重視されているのは人間性と、弊社の価値観にフィットしているかどうか。それを判断軸に置くと、いわゆる『面接』と呼ぶ採用プロセスはあまり効率がよくありません。じゃあ、やめてみようということで昨年『面接をしない新卒採用』を始めたわけです。
2016新卒採用今年は面接やめちゃいました

 

『面接』という言葉が立つと、学生は事前に準備をして自分を作り込んできます。面接という名前の場を設定することで、本音が隠されたコミュニケーションが生まれてしまうわけです。また『本当はウチにさして関心はないけれど、内定を取って安心したい』という発想の学生の方に選考にきていただいても、お互いにとって時間のムダになってしまいます。

これらは、現在の就活の大きな課題です。私達が考えたのは、お互いもっと素の状態で、価値観やいつも通りのコミュニケーションの姿勢を見て判断できないか、ということでした。そこで、まずは大量エントリーの原因となる就活ナビサイトへの広告掲載をストップ。リクルートスーツの着用や、メール1本で選考NGを言い渡す、形式的な『お祈りメール』もやめました。

その上で、学生と企業が仮面を付けてコミュニケーションを取る『面接』をやめることを、ストレートに打ち出しました。その際に心がけたのは、決定の背景にある我々の考え方についてきちんと説明し、信念をしっかりと伝えること。それによって、既存の就活に違和感を持っている学生に共感してもらえるのではないか、と考えたのです」

 

採用においては共同でワークショップを行うなどの形を取った。それだけで学生達の硬さは緩和され、素に近い自分を出してもらいやすくなったという。結果、5名の採用予定に対し7名を採用。内定辞退者は一人もいなかった。つまり「面接をしない採用」とは既存の就活へのアンチテーゼであり、就職活動、新卒採用の新しい形の提案なのである。

 

 

 

 

2016新卒採用ワークショップ風景
2016新卒採用ワークショップ風景

 

「既存の取り組みの中で、何をやめて何を際立たせるか。そのメリハリをつけることだけで、十分新しい取り組みになり得ます。つまり何かを0から生み出すことだけでなく、足し算・引き算によっても新たなイノベーション、新しいスタンダードは創り出せる。そう考えています。

もし今行っている取り組みが新しく見えないということは、みんなと同じことをしているからです。そこから抜け出したいならば、みんなと同じことをするのをやめ、本質に立ち返ってより効果の上がる方法を考えたほうがよいでしょう。例えばみんなが無目的に続けていることの意味を問い直して、どこよりもしっかりとやってみる。そんな足し算・引き算によっても差別化やイノベーションは十分成立し、それが、新しいスタンダードの種なっていく。

新しいチャレンジを始めるときに大切なのは、自分達の信念や目指している姿は何か、という軸を持つことです。その軸がしっかりしていないと、今の取り組みに何を足し引きするべきか判断できません。そこは欠かしてはいけない視点だと思います」

 

■「変態×真面目」は、価値を生み出す人材の方程式。

 大手ナビサイトへの掲載を止め、「面接をしない新卒採用」においては、ターゲットとする学生像をはっきりとさせた上で、彼らに共感してもらえるコミュニケーションを行うことが大事だ。

 

「どんな学生をターゲットとし。彼らにどんなメッセージを送り行動を促すか。これはマーケティングのアプローチそのものですよね。つまり、採用はマーケティング。それを実践しているのが、ビースタイルという会社だと思います」
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「面接をしない新卒採用」は、新たな名称で今年も継続している。

 

「昨年成功した面接廃止の新卒採用を踏襲して、今年は『変態×真面目採用』というコンセプトを打ち出しました。昨年は『非効率な面接は止めます』というメッセージをストレートに発しましたが、今年はその路線を維持しつつ、ビースタイルが実際に求めている学生像を打ち出しています。

まず私達がコーポレートのスローガンとしている「新しいスタンダードをつくる」とは、どんな人間によって生み出されているのかを整理しました。要素を分解すると①発想力と②実行力。この二つを持っていることが大事ではないかと考えました。

既存と違うものを生み出す発想力や、今までにないコンセプトを構築する力。そのような才能を『変態』と定義しました。

その一方、アイデアやコンセプトは世の中に広まらなければ意味がありません。変態的な発想力から生まれたアイデアを形にして世の中に流通させ、スタンダードを作る。そのためには、仕事を根気よくやり通せる人でなくてはいけません。今回の採用ではその才能を『真面目』と定義しています。

 

ビースタイル新卒採用2017年
ビースタイル新卒採用2017年

 

実際に社内を見わたしてみても、斬新なことを打ち出す人は少し変わった「変態的」な個性があるし、事業の核となっていく人には、それをコツコツとやり遂げる「真面目」的な愚直さが備わっています。つまり『変態』×『真面目』。この二つの要素を持っている人材のかけあわせが生まれることが、組織として理想的です。『変態×真面目』は弊社にとって、価値を生み出す組織であり続けるための方程式というわけです。今年の新卒採用については、それをコンセプト化して前面に打ち出した、というわけです」

 

最終回では、ビースタイルが手がけるアラフィフ主婦の就業支援策「ゴーサインプロジェクト」そして宇佐美さんのこれからについて、話を聞いていく。

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プロフィール
宇佐美 啓

宇佐美 啓 うさみ ひらく

(株)ビースタイル プロジェクトリーダー

1984年神奈川県生まれ。大学中退後、2009年株式会社ビースタイル入社。新規事業立ち上げやBtoBマーケティング、営業企画などを経験し、2013年にブランディング部門のプロジェクトリーダーに抜擢。
CI、コーポレートサイトリニューアルのディレクションや他企業、NPO法人とのソーシャルアクション事業、自社の新卒採用など、さまざまなプロジェクトを手がける。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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