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絶景を"自分事"としてとらえられるコンテンツに
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絶景を"自分事"としてとらえられるコンテンツに
新卒研修のコンテストのために立ち上げたfacebookページは、期限までに2万いいね!を獲得。まさに、ぶっちぎりの優勝だった。「理由は正直、自分でもわかりません(笑)。たまたま運がよかっただけです」と詩歩さんは語るが、大きな特徴が、主観と客観がバランスよくミックスされていることだ。
「他にも、絶景を紹介する類似ページやサイトはたくさんあります。でもそれらは、例えば自己主張が激しすぎるなど、共感できないものが多い気がします。例えば『私はマチュピチュに行きました。マチュピチュはとても美しいんですよ! 知っていますか?』と書かれても『いや私、行ったことあるし…』となってしまう。
いわゆる"旅人の旅本"ってありますよね。旅本でよくある「世界一周を3回やったおじさんの漂流記」みたいな本は、女性で、かつ旅の経験がそれほどないわたしにとっては、感覚があまりにかけ離れていて共感しにくい気がしました。でもその一方で、ただ客観的なデータが羅列されているだけのガイド本やfacebookページには、人間味や親しみを感じにくい。すると当然、いいね!も押せませんよね。
客観性を保ちながらも、いい感じで自分を出すこと。大事なのは、そのバランス感覚だと思っています。例えばこのfacebookページのタイトルは、私がオーストラリアで経験した事故がきっかけになった主観的なもの。でも日ごろの投稿には、個人的な思いはほとんど入れない。そんな風に、自分なりに考えています。
行ったことのある人もない人も、すべての人が共感できる。そういう内容でないと、たくさんのいいね!はもらえないと思うんです。このページを作る時、最初に考えたのはそのこと。写真集を見るような感覚で絶景を楽しむ。そして、見ているすべての人が絶景を"自分事化"してとらえられる。そんなコンテンツにしたかったのです」
彼女のfacebookページには、他にも多くの特徴がある。中でも最もこだわるのは、当然ながら写真のクオリティである。
「絶景の写真は、無数にある中から選びます。とはいえ写真の選び方について、決まりごとなどはありません。私はそれほど写真に詳しいわけではなく、写真展に行っても、正直よくわかりません(笑)。だから、感覚に委ねて選びます。大事にしているのは、ぱっと見の感覚。『私だったら、これが一番感動する』。それが、唯一の判断基準ですね。
ただし、デバイスについては意識しています。今は7割近くの人がスマートフォンで見ていますから、スマホで見た印象は非常に大事。まずは投稿してみて、それを自分のスマホから見てチェック。どんな印象なのか、自分の目でしっかり確認します。アップしてから見て『やっぱり違う』と思ったら、投稿を取り下げることもあります。
今、絶景はブームになっていますよね。その背景には、ソーシャルメディアに写真を上げて、いろいろな人に見てもらい、共感してもらいたいという気持ちがあると思います。例えば今、ボリビアのウユニ塩湖が旅行先として大人気な理由として、風景を写真で撮った時にソーシャルメディア映えする、という面が、間違いなくあると思います」
もう一つ大事なのが、文章。こちらもスマートフォンで見やすいことを意識し、テキストを短めにすることを心がけている。
「7行以上のテキストは『続きを読む』となって隠れてしまいますから『こんにちは!今日はいいお天気ですね』といった挨拶を書いたりはせず、できり限り7行以内でまとめます。オーバーすることもありますが、少なくとも、読んでもらいたい大事な要素は7行以内の部分に入れるよう心がけています。
内容については情緒的な表現より、数字などデータを入れることを意識しています。『とっても大きい』といった表現ではなく『○平方メートル』『東京ドーム○個分』といった、具体的なデータですね。そして内容は最後に何度も読み直し『この投稿に、自分だったらいいね!を押すだろうか』と、常に自問自答。たった一つの投稿でも、考え抜く。それが大事だと思います」
次回Part.3では彼女のこれまで、そして人生の大きなターニングポイントとなったオーストラリアでの事故の経験について、話をうかがっていく。
1990年静岡県浜松市出身。早稲田大在学時代は環境問題に関心を持ち、大学2年で初めての海外への一人旅を経験。
2012年に卒業後、インターネット広告を扱う広告代理店に入社。新卒研修で制作したfacebookページ『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』がオープン1年で45万を超えるいいね!を獲得して話題になり、在職中に同名の著書を出版。2014年3月に退職し、フリーランスに。現在は71万人を超えるいいね!数を誇る同Facebookページをベースに、多彩な活動を続ける。著書に『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』『死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編』『死ぬまでに行きたい!世界の絶景 ホテル編』がある。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです