Vol.2
「オンガクの明るい未来PART3」
ここでもう一度、音楽ビジネスの原点に戻ってみましょう。
音楽は言語やスポーツ同様、コミュニケーションコンテンツです。自分が表現者になることも出来るし、アーティストの卓越した表現を感動し、元気付けられ、それを多くの人と共有することができます。それを固定化し複製し収益最大化、効率化するのが音楽ビジネスで、そこではテクノロジーも深く関わって来ました。ラジオからTVそしてネット、所謂、音楽配信が普及してからも着うた、iTunes、 LISMO、dヒッツ 、海外ではPandra、 Spotify、iHearts Radio、 Deezerなど様々なサービスが登場してきました。2000年に入ってデジタル音楽配信が市場に普及してくると音楽業界(ここでいう音楽業界はレコード会社のような録音物を複製する業界を指し、ライブコンサートビジネスやラジオ、テレビなど放送業界とは区別されます)も従来のCDやDVD、BDなどのパッケージとデジタル音源をネットで流通するモデルをデジタル とフィジカルに区別して市場統計をつくるようになりました。
音楽ストリーミング市場を考える場合、キープレイヤーを従来のレコード会社を中心とした音楽業界と捉えると利益コンフリクトが起こります。すなわちネットにおいてもラジオ放送は基本広告モデルを基本として展開しており(サイマル放送)、レコード会社とラジオ局との関係は複製物を売るための媒体として広告主と媒体の関係が基本だったからです。広告モデルのラジオ放送では不特定多数の潜在ユーザーに楽曲を広く認知してもらうために、視聴率の高い番組のCM枠を買い、ヘビーローテーション、パワープレイといった形で期間限定のキャンペーンで楽曲を大量にオンエアする。ラジオはオーディエンスから見ると、次のランキングや次のトレンド楽曲に接する重要なメディアであったのです。
なぜ今この時期なのでしょうか?大凡情報を整理すると以下のような仮想問答でしょう。
Q;なぜ今ラジオ型のストリーミングに大手レコード会社が参入するのか?
A;宣伝してもCDが売れないから…。
Q;ではなぜ売れないか?
A;YOUTUBEなどで無料で音楽を聞いてCDを買う必要がない。そもそもラジカセもPC持ってない(いやいや日本はまだまだCDは売れてるんだよ、何と言ってもアイドルは一人で千枚も買ってくれる人がいるし、最近は中国のお客さんもすごいんだよ!)
Q;なぜ若い子はCDを買わないのか?
A;だってCDは高いし、ゲームとか他に金を使うし、ライブは高いけど、お金をためてライブにいったほうが全然楽しいし。
海外とストリーミング市場で10倍の差をつけられて、そろそろ音楽ストリーミングを塩漬けにしておくのもまずいかな、一番やばいのはAPPLEだな。iPHONEは日本でもバカ売れだし、iOSに音楽プレイヤーを組み込まれるとさすがにユーザーは、何で俺たちに聞かせないんだ!と怒るだろうな。
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かくして国産ストリーミングプラットフォームはロウンチ後、いずれもすぐに100万ダウンロード突破をリリースします。でも無料期間ってことは、これもフリミアム?本当に戦果が問われるのは無料期間終了後です。
すでにこのコラムを読まれている方は多くの方が視聴されていると思いますが、最初のバージョンのUIは従来のプレイヤーを踏襲し、楽曲数はともかく、SNS機能や新しいUXはスポティファイなどを凌駕するものとは思えません。
ペイドラジオとは何か?
海外事例を見てもわかるようにオーディエンスから見たラジオ放送はアンテナから受信してもスマホから聞いてもラジオはラジオです。全米最大のクリアチャネルは広告モデルのコアをネットiHerats Radioにシフトしています。すでに書いたようにラジオ型は従来のレコード業界がイニシアティブを取ることは利益コンフリクトを起こします。
番組の編成とは楽曲プロモーションのためのウィンドウではなく、オーディエンスライフスタイル満足のためのコンテンツです。地上波のリニア放送と違って番組の選択権があるネットはレーベルが番組を買い取って自社アーティスト楽曲で編成することも可能ですが、そこでも依然、需要サイドと供給サイドという関係は担保されなくてはなりません。
結論;国内の音楽ストリーミング2015年の展開の行方とマーケティング変化
ここまで見てきて前編で述べた音楽プラットフォームにおけるビジネスプレイヤーとポジショニングについて触れておきます。
欧米ではDEMAND(需要)とSUPPLY(供給)という事業者のポジショニングをよく使うのですが、デマンドサイドとは広告主、広告代理店などコンテンツメディアの需要を支えるサイド、サプライサイドとは通信キャリア、コンテンツプロバイダーなど需要を受けて番組コンテンツを制作しオーディエンスに届ける事業者で分類しています。
日本の音楽プラットフォームは歴史的に、キャリアのマーケティングサービス(顧客獲得)としてあるいはアラカルト課金での収益モデルでスタートしているため、広告スポンサーありきの放送局モデルとは異なっています。
AWAはアメーバ、755などタレント、セレブ系ブログ、SNSサービスを得意とするサイバーエージェントがavexとJVとして立ち上げています。サイバーエージェントは広告ソリューションテクノロジープロバイダー(デマンドサイド)ですから、当然AWAにも独自の広告モデルを(直接、間接的に)投入するはずです。
一方のLINEも国内スマホ最大無料コミュケーションプラットフォームですが、当然最大の広告在庫を持つプラットフォームでLINEMUSICをタイムラインに流すことで、オーディエンスの接触時間を増やし、さらにインプレッションを最大化することで媒体価値を増やせます。すなわち表向きは有料サブスクリプションモデルを標榜しながらも、広告CRMの中に組み込まれていることは明らかです。
これはある意味、デジタルメディアでコンテンツビジネスを考えた場合、当然の帰結です。GOOGLEやYAHOO, YOUTUBEは無料でコンテンツをユーザーに提供し、様々な無料サービスを提供することでデマンドサイドの需要を喚起し、オーディエンスに無料でコンテンツを届けることができます。ここにきてGOOGLEはアップルに対して無料広告モデルを発表し、ストリーミングモデルに一石を投じました。
スポティファイ、アップルミュージック、グーグルなどが日本で出揃った場合、オーディエンスは初めて、そのサービスの楽曲数やスペック、価格などではなく地上波同様、自分にあったメディアを選択できることが出来るのかも知れません。
今回の結論としては3つのことが導き出されます。
1.欧米との市場ギャップを急速に縮める。
ストリーミング音楽市場は、国内ではRIAJ集計がオープンな指標としてありますが、ここにオンライン広告市場、放送メディアとしての売上げが合算されることで指標そのものが大きく変わる。
2.コンテンツマーケティングが技術的にも新たなDSP/SSP拡張によって運用型O2Oマーティングの革新が起こる。
すでに動画広告などで導入されている広告フォーマットや端末から得られるビッグデータDMP導入によりライフスタイルの中での音楽コンテンツマーケティングが劇的に進化する。
3.日本型コンテンツマーケティングプラットフォームが再定義され、オーディエンスオリエンテッドなプラットフォームが次々と誕生する。
日本発信のベンチャー、ハッカソンの芽が収益逓減の既存モデルを破壊する。
今回は若干過激かつ希望的観測も含めた結論にしました。
少なくともグローバルと同じ土俵で改革を唱えないと、攘夷論ではもう限界だということを2つの国内ロウンチが、図らずしもオーディエンスの行動を変化させうることでしょう。
ストリーミングはコンテンツを各端末に保存することなく、さらに端末に左右されず、同じIDでいつでもどこでも音楽を視聴できるという点で従来のパッケージビジネスの延長としてのダウンロード(都度課金)からサブスクリプション(購読型)、すなわち所有からアクセスへと変化させ、コンテンツホルダーにとってはアドバンスでヒット依存から安定収益をもたらすモデルへと変化させました。
しかしすでに書いたように、放送型モデルは広告モデルの無料放送がオーディエンスにとっては馴染みやすいことも事実です。YOUTUBEでの音楽無料視聴が圧倒的な支持を得ているのもオンラインにおいてもユーザーは行動パターンとして継続しているという証左でもあります。
録音された複製ビジネスで大きくなった音楽業界はピークの6000億から半分になりましたが、一方でオンライン広告市場は1兆円を超え、トータルでの広告市場は6兆円を超えています。フリミアム、広告サポートを敬遠するのではなくオーディエンスの視点に立った多様性のあるメディアとしての音楽プラットフォームがデザインできれば、1兆円の広告市場は一気に音楽プラットフォームに流れるかもしれません。
その意味では2015年は今までの概念で市場を捉えるのではなく、ライフスタイルデザインの中での音楽を再定義することで日本は大きなチャンスを迎えているのかも知れません。
(終わり)
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