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僕の仕事は、皆と一緒に箱から仕組みを作っていくこと
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僕の仕事は、皆と一緒に箱から仕組みを作っていくこと
■思考のベースは「自分が内部の人間だったら、どう考えるか」
西井さんはCMOの役割とは、さまざまなセクションが縦割り構造で存在する中での横串となりつつ、顧客との接点の多い部署からのさまざま意見を吸い上げ、スムーズなボトムアップができる組織作りをサポートすることである、と語る。
「ボトムアップのできる組織作り。それは顧客との接点がより多いセクションから、さまざまな意見をスムーズに吸い上げられる構造を作ることです。顧客と直接面談したことや、日常の電話対応、ウェブサイトに入って来るお客様の声、アクセス解析でわかった顧客の動き。そういったことから、現場ではさまざまな意見が生まれます。でも、それについて相談できる存在がなかなかいない。結果、上からトップダウンで言われたことだけをやっている。そんな状況が結構あるわけです。CMOはその中間クッションであったり、ボトムアップをするためのサポート役でいることが一番だと思うようになりました」
西井さんは現在、自らの会社warmthの代表でありつつ、オイシックスには正社員として入社。CMOとして活動している。なぜ、そのような形式を取っているのだろう。
「外部のコンサルという立場になると、クライアントのビジネスへの理解がどうしても浅くなってしまう。僕はこの仕事を、中の人と一緒に動くイメージで捉えていています。思考のベースは『自分が内部の人間だったらどう考えるか』ということ。もともとドクターシーラボで事業主側にいたことが、自分の強み。その部分を生かすにはどうするかを、常に考えます。
いわゆるコンサルの仕事は、コストをかけた入念な調査に基づいた提案書を作り、『あとはクライアントさん、やって下さいね』という進め方をするイメージ。そうやって、クライアントの進むべき道筋を示すわけです。でも、さまざまな社内事情でそれができない時もある。じゃあ、できるようにするにはどうすればいいか。それを解決するには、内部の人間として動く方がずっとやりやすい。 例えば社内が、上がって来た顧客のデータを上手く読み解けないのであれば、それを読み解けるようにすることが僕の仕事だったりします。勝手に箱を作ってもダメで、箱から一緒に作っていく必要がある。
本当は起業して自分の仕事一本でやっていくつもりでした。でも、ECの流れはとても速く、ノウハウはすぐに陳腐化してしまうと思います。事業主側で常に土台を持ちながら、外部にサービスを提供する事は他の人や会社にはできない最強の強みだと思っています。
もう一点、オイシックスがすごい点は、決して僕だけのためではないのですが、人事の新しい仕組みを作ったこと。僕の場合、雇用としては正社員ですが他で仕事することもOKで、出社するのも話し合いで週数回でいい、というように決めていただいています。オイシックスには、兼業をしている正社員が私の他にも何名かいます。
『特別なスキルを持っている人を会社に縛りつけるよりも、条件次第で外での活動を許す方が、会社にとってはいい。会社に長く貢献してもらうには、フルタイムの社員以外の生き方を作ることも必要ではないか。そしてオイシックスとしても、そういった多様性のある生き方を支援したい。』と、オイシックスの経営者であり、マーケターの高島社長が考えたそうです。僕としても、きちんとしたサービスができ、その結果、会社の売り上げが上がり、感謝していただいてナンボ。それが僕の価値、warmthの価値になるわけです」
■世界1周後、ウェブマーケターとしてのキャリアをスタートする。
そんな西井さんは、少々ユニークなキャリアの持ち主だ。大学院を出て就職する予定を取りやめ、お金を貯めてバックパッカーに。
「建築関係の学科にいたのですが、旅行が好きで学生時代によく海外に行っていたんです。もともと就職が決まっていた会社があったのですが、その会社が海外事業から撤退することが決まり、面白くないなと…。そこで1年間お金を貯めて、世界1周の旅に出たんです。当時SNSなどはありませんでしたから、ウェブサイトを自分で作り、そこに日記を載せていたら人気になりまして、本にもなりました。2003~2004年ぐらいでしたかね。
そして日本に帰国後、サイトを見て下さった方の誘いで、Eコマースの物販を手がける会社に入りました。20人ぐらいの小さな会社で、さまざまな商品を仕入れて売っていた。そこで数年間勉強させてもらったことが、Eコマースに携わるようになったきっかけです。当時はGoogleのアドワーズが日本に入ってきたり、現在は上場しているようなアフィリエイトの会社が誕生したばかりのころでした。僕のいた会社は広告出稿が代理店さんにお願いしてできるようなレベルの規模ではなかったので、ウェブまわりのマーケティングや、メルマガの執筆、セグメントの配信など、すべてを自分でやりました。今となっては、その経験が自分の大きな強みですね」
西井さんはその後、化粧品メーカーのドクターシーラボに転職。ここでメーカーのEコマースを経験したことが、マーケターとしての大きな転機となる。
Part.3では、西井さんのドクターシーラボでのキャリア、そしてwarnth立ち上げとオイシックスのCMOに就任するまでの話をうかがっていく。
1975年生まれ。福井県出身。
金沢大大学院を卒業後バックパッカーとなり、2年半をかけて世界を1周。自らのウェブサイトにてアジア、南米、アフリカ各地で旅行記を更新。それが口コミで広がり話題となる。
帰国後は2003年にEコマース企業に入社してウェブマーケティングに取り組み、モバイルコンテンツ会社を経て’07年にドクターシーラボ入社。Eコマースグループグループ長などを務め、’13年末に退職。
再び世界1周の旅を経て昨年春、自ら株式会社warmthを立ち上げるとともに、オイシックス株式会社のCMOに就任した。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです