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相手にとってうれしいか。そして、誰かに話したくなるか

小西 利行 こにし としゆき さん POOL inc. 代表取締役

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Part.4

 

■今の時代は、みんな情報を食べて生きている。

 

例えばイオンレイクタウンのように、コピーライターとしてコンセプトを掲げ、企業の活動に参加していくこと。それが小西さんが現在手がけていることの半分だとすると、もう半分は、世間があっと驚く、面白いコミュニケーションを作り出すことだ。

 

「例えば、はなまるうどん。僕らはここのCIを手がけ、『みんなに、おいしい驚きを』というスローガンを掲げました。平易な表現ではありますが、飲食として常に話題であるためには、みんなのために、おいしい驚きがなくてはなりません。そこで、メニュー開発はもちろん、すべての企業活動をそのスローガンで貫きました。2013年のエイプリルフールに『まるごとダイオウイカ天新登場!』というコミュニケーションは、その一貫として開発した、話題化コミュニケーションでした

 

当時テレビ番組で話題になっていた深海の超巨大イカを天ぷらにします、というネタはサイトにアップされるやSNS上で話題になり、アクセス数は通常の24倍にはね上がった。これは、はなまるうどんが毎春実施する、来店促進キャンペーンの一環だった。

 

栄養満点!「まるごとダイオウイカ天」新発売。|はなまるうどん
http://www.hanamaruudon.com/aprilfool2013/

 

 

「『栄養満点!タウリン500万mg』なんて謳って、バカなんですよね(笑)。そして、映像も面白いものを作りました。SNS全盛の今、どうすればコミュニケイティブになれるかを一所懸命考えた結果、SNSの数字も爆発的に伸びたし、多くのニュースメディアに取り上げていただきました」

耐えずおいしさを追求し続けるのは、飲食業ならばもはや当然のこと。それに加え、革新的なことがあって、初めて人は驚いてくれる。味を上げつつ、驚きを追求することが今、必要になっている。

 

今の時代、みんな情報を食べて生きている。情報の総量が多いもの=話題になっているもの。みんなが話題にしている情報量の多い店=誰かを誘っても恥ずかしくない店=行くべき店、というロジックが成り立っています。だから情報量を上げておかないと、ブランドとしての鮮度が失われてしまいます。おいしさを必死で追求しつつ、情報量を増やし、その質を高めることです。

僕が常々言っている、二つの指標があります。それは①相手にとってうれしいか、②誰かに話したくなるか。誰かに話したくなるような連鎖する力を作っていくことが、これからの時代、必要ではないでしょうか」

 

では「誰かに話したくなる情報」とはどのようなものなのか。その中身は、ブランドによってさまざまだという。

 

「例えば、無茶苦茶なことをしてみる。ロッテリアが以前行ったタワーチーズバーガーのように、ハンバーガーを5段とか10段とか積み、それが崩れていることすらSNSで話題になる。そんなアプローチなどもありますよね。

作り方は時代に応じて都度考えねばなりませんが、簡単に写真に撮れたり、簡単にメッセージで送信できる短い言葉が添えられていたり、というように、伝わりやすさを意識することが大事です。昔の『口コミ』ですよね。単純に、見たくなるものが見たいもの。聞きたくなるものが聞きたいもの。それだけなんです。そして、そこを意識するかどうか。今からしようと思っていることは、相手にとってうれしいことなのか。そして、相手が誰かに話したくなることなのか。その2点をクリアするだけで、コミュニケーションの精度は上がるはずです。

 

特に若い世代で見れば、7~8割が毎日SNSに接しています。それに対し、テレビや新聞をいつも見ている人は少ない。つまり、SNSはもうマスメディア化している。だから、SNS経由で情報を流そうとしないブランドは滅びるでしょう。

僕は、これを相手に話したいか、という度合いを推奨度と呼んでいます。愛されるブランドになるためには、推奨度が高いことが必須です。もしも社会的によからぬことをしているブランドを、人に勧めたとします。おそらく『こんなとこ勧めてきたよ…あいつどうなっているんだ』となりますよね。ですから、まずはソーシャルグッドであることが求められる。

 

そして勧めたはいいけれど、品質が悪かったらダメ。飲食店だったら、おいしくなきゃ勧められませんよね。つまり、ちゃんとした行動をしていて、生み出すものの品質が高いブランドであることが、推奨度を高める上で最低限必要なことになります。その上で、いかにSNS上で話題となるような動きを作るか。そこが大事になってくるのだと思います」

 

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■難しいことを簡単にするのは、本当に難しい(笑)。

 

  今年6月、小西さん初の著書『伝わっているか?』が発売となった。著書の中に盛り込まれているのは、小西さんが20年間で培ってきた「伝わる」ためのコミュニケーションメソッドだ。そして、体裁はいたってカジュアル。コミュニケーションの達人であるイルカが、さまざまな人の悩みを「伝わる」ためのメソッドを用いて解決していく内容だ。

 

「世の中の役に立つのなら、自分のノウハウをロジックとして伝えたいという気持ちはありました。でも、そのまま伝えてもつまらない。いわゆるビジネス書とは違う、新しいものを出したい。エンタメ性が強いのに学べるもの。エディケーション+エンタテイメント=エデュデイメントの方向を目指しました。

章によって場面が切り替わるのですが、15分とか、30分のテレビ番組を見ているようなテイストにしたいと考えていました。本が出た時、書店員の方が『手品や推理ドラマのタネ明かしを見るような痛快さがある』と評して下さって、それがとてもうれしかったですね。

 

今回は、一般の方に向けて書いたつもりです。ビジネスマンや主婦でも使えるノウハウを入れつつ、プロが見ても『ああ、このことだな』とわかってもらえるレベルに仕上げるのは、本当に大変でした。わかりやすさと深さの塩梅。そこには苦心しました。

一番難しかったのはやはり、わかりやすく書くことです。自分の中で当然と考えているものを、あらためて掘り起こし、定義づける必要がありますから。1+1はなぜ2になるの? と聞かれているのと同じですよね。難しいものを簡単にするのは、むちゃくちゃ難しい作業なんです。なぜ今の世の中で、多くの難しいものが簡単になっていないか。それは、難しいからなんですよ(笑)

 

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『伝わっているか?』小西利行 (著)

 

難しいことを、簡単にする。その結果、人の行動を生み出す。それは小西さんが20年間行ってきたことであり、これからも続けていくであろうこと。SNS全盛の今も、そのエッセンスが変わることは決してないだろう。

 

(終わり)

 

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プロフィール
小西 利行

小西 利行 こにし としゆき

POOL inc. 代表取締役

1968年京都府出身。大阪大卒業後、1993年博報堂入社。
2006年に現在のPOOL inc.を設立。
CM制作から商品開発、ブランド開発、企業コンサルティング、都市開発までを手がける。これまでに手がけた主な仕事は、日産自動車『モノより思い出』、サントリー『伊右衛門』『ザ・プレミアムモルツ』、『プレイステーション』など。CLIO、ニューヨークADC、ONE SHOW、TCC賞、ACC賞など国内外で受賞歴多数。
クリエイティブディレクションを手がけた越谷市の大型ショッピングセンター「イオンレイクタウン」で、日本初のサステナブルデザインアワードを受賞。東京天王洲などの都市開発も手がける。ENJIN 01 文化戦略会議メンバー。劇作家/絵本作家でもある。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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