Vol.4(最終回)
「パラダイムシフトを経て復活するグローバル音楽ビジネス、失速する?日本。
アナ雪のヒットとエンタメビジネスの本質
アナと雪の女王(以下アナ雪)の勢いが止まらない。興行収入は250億円を突破、映像ソフト(Movie NEX)200万枚。サウンドトラックや関連ソフト売上もこの上半期で唯一ミリオンヒット達成し30億円売上げを計上しています。これまで国内音楽ソフト市場はアイドル売上に支えられながらも全体が縮小に向かっているとデータを見て来ました。欧米と比較して一人負けの格好になった2013年でありましたが、“アナ雪”が2014年全体を押し上げるのは確実です。
さらに“アナ雪”パッケージはBD/DVDだけでなくデジタル端末でダウンロード権も込みでさらにMOVIE NEX(図)で特典映像やイベントグッズクーポンも提供されます。
CDでも2000年始めエンハンスドCDという商品でCD自体に映像特典を入れたり、専用サイトに自動接続したり出来るハイブリッド商品が発売されたが結局ユーザーの支持を得られないまま終了してしまいました。ディズニーのMOVIE NEX CLUBはすでに30万ユーザーが登録し、ダウンロードも12万DLに達しています(ディズニージャパン7月)
さてエンタメ業界は常にヒット商品を生み出す事で成長をしてきました。アナ雪が世界的ヒットであり日本でも強く支持されたことは非常に健全なことで、ファミリー層を中心としたディズニーやジブリなどを2世代、3世代に亘って支持するユーザーはこうしたエンタメのメガヒット創出を支えています。ディズニーやハリウッド映画スタジオはTDL(東京ディズニーランド)やUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)といったアミューズメント(ライブ)空間も常設で用意していて、これも世代間を超えてヒットを繋ぐ重要な装置となっています。
ライブ空間は退屈な日常から、自らを解放できるカタルシスの場ですが、“毎日が発見と本音で生きている”子供たちにはとってはこうした非日常空間は、より衝撃的に脳に記憶として刻み込まれます。子供の頃にTDLやUSJで刷り込まれた強烈な色彩や音楽、アトラクション体験は大人になっても麻薬のように効いてきます。TDLが出来て30年経っていますが、この頃の子供はちょうどエルダー世代に差し掛かり、1万円近くのライブにも足を運んでくれ、そしてアナ雪を買ってくれるのもこの世代です。
60-80年代まだ洋楽ライブが日本では希少だった頃、ライブ盤レコードが良く売れた時機がありました。当時ロックアーティスト来日は毎年あるわけでもなく、ファンはライブを待つ間、こうしたライブ盤を自宅のステレオで鳴らして親に怒鳴られた、そんな世代が今の50代~団塊世代。彼らは今、親の世代となりクラプトン、ポールマッカトニー、サザンに郷愁とアイデンティティ(頑張って余裕も出来たし数万円のライブも行ける自分を認識)の確認を行います。
夏フェスを始め大型ライブは非常に身近なものになっていますが、ライブ入場料は高額になっています。一方で海外のグラストンベリー(18万人)やトモローランド(36万人)と較べると観客数が一ケタ違っていて、日本の音楽フェスは必ずしも収益的には潤う状態にはないようです。大型野外フェスが始まった30年前は大自然の中の高原で涼を求め音楽を楽しむライブキャンプとして定着しましたが、近年の温暖化の影響で熱帯化する日本では、長時間悪天候と戦うサバイバルは若者にとっても中々ヘビーになっています。今は高額を払ってくれるエルダー、シニアを呼べるラインアップを増やしていますが、エルダー・シニア世代が増えることで熱中症の事故のリスクは今後大きな課題になるでしょう。
ライブが増え、アーティストとの接触機会が増え、ライブに高額な入場料と交通費、グッズ購入などを考えるとCDなど音源ソフトは買い控えられる? ライブのために音源はプロモーションとして無料で大量に配布して、ライブで回収するというのも米国では進んできました。
アーティストがレーベルでなくイベント会社と契約するというパラダイムシフトは2007年のマドンナが先鞭をつけたましたがその後JZが移籍、U2も2013年にライブネーションと契約を切り替えました。
日本ではレコード会社がソフトで得た収益をコンサート援助金という形でライブ支援するというモデルがありましたが、その資金であるCD売上が減少するにつれこの役割はレーベルから放送事業者や通信事業者に変わっていきました。
日本と米国の音楽ソフト流通モデルを考える
米国と日本を比較すると、日本ではフィジカル(CD,DVD,BDなど)が87%を占めるのに対して米国は36%、デジタルダウンロードは日本が23%に対して米国は42%,米国ではデジタルサブスクリプション22%を占めますが日本では僅か1%です。
それぞれのキイプレイヤを見ると日本ではソニー、ユニバーサル、ワーナーといったグローバルメジャーの他、AKBを擁するキングレコード、ジャニーズアーティストのJSTORMそしてアナ雪で恐らく2014年も売上1位をキープするであろうavex、そして上位売上に限って見ると、AKB、ジャニーズがランキングを独占していることはご存知のとおりです。
デジタルダウンロードでは着うた市場が縮小したためにレコチョク、MTI、ドワンゴなどに変わって日本ではiTUNESが存在感を強めています。そしてサブスクリプションではドコモがdヒッツで露出を増やしていますが、ベンチャーサービスは殆どが大きな成功とは程遠いところにあります。
そんな状況の中で昨年LINEも音楽配信参入を発表しましたが未だスタートせず、スポティファイも早くから日本法人を立ち上げるも、ほぼ1年サービスインに至っていません。サイバーエージェントもAMEBA事業を縮小して音楽配信事業参入を発表しましたが、ここもスポティファイなどの出足を見てからというのが現状であると思われます。アップル、アマゾンなども日本市場での音楽サービスインをいくども検討しながら、見送っています。
一方米国では音楽レーベルは資本原理に基づいて行動するために、日本のように楽曲を獲得することがクリティカルではなく、むしろそのサービス内容と質で競争をしています。
広大な国土を持つ自動車社会の米国では地上波ラジオは未だに大きな音楽メディアであり、全米ラジオネットワーク・クリアチャネルはオンデマンド・ストリーミングiHEARTS RADIOを運営し、ライブイベントもコンテンツ化しています。同じくRdio(アールディオ)もライブイベントでライブネーションと提携、360展開を行っています。インターネットラジオとして老舗のPANDRAはすでに2億5千万の登録ユーザーを持ち、自動車メーカーと相次ぐ提携を行い、ラジオメディアとして自動車空間の取り込みに成功しています。
むろん米国でも成功モデルばかりではありません。iPHONEで自らイノベータジレンマを起したiTUNESの新サービスiTUNES RADIOは伸び悩んでいてBEATSとの提携で起死回生を図っています。一方amazonは同じ土俵で戦う事を止めシニア向けのプレミア音楽サービスにシフトしています。
米国と日本をグラフで見るとそのベクトルが明らかに逆に動いているように見えます。時計回りにフィジカルからデジタルへ、ダウンロードからサブスクリプションへと加速する米国に対して、日本ではデジタルで着うた以降フィジカルが益々大きくなり、サブスクリプションサービスも前年比では500%超と大きな成長率を見せるも、そのベクトルを大きく進めるまでの力とはなっていません。
モバイルシフトが進んで行く中で高額アプリは殆ど売れなくなっていて、その収益源がゲームアプリに集中しています。そして音楽は無料聞き放題といったアプリが上位を占めユーザーもモバイルは無料でという認識が強くなっていることが不安要素としてあります。
エンタメビジネスの本質はヒット創出でありアーティストは夢を売る。素晴らしい才能や歌はダイレクトに人を感動させる。一方でテクノロジーはコピーを簡単にし、制作ツールの進化で、才能がなくても、そこそこの楽曲を短時間に作成することが可能になり、音楽の低価格大量生産も可能になりました。そうして送り出された数千万曲から、短い人生の中で感動と出会う数百曲を選び出す事は物理的に不可能なので、そこに嗜好プロファイルや自動リコメンド、あるいは耳の肥えたキュレータによるプレイリストをBGMとして選択するのは合理的ではあります。
元々テクノロジーで手元のモバイルで数千万曲にアクセスできる前の時代に、ソフトは数百万、数千万枚というメガヒットを量産してきました。好きなものに囲まれた生活、好きな音楽を所有したいという人間の本質的欲求はテクノロジーによっては変化しません。そしてエンタメビジネスの真理も百年先も多分変わりません。
テクノロジーによって変わるのは人間ではなく流通やビジネス形態でありオンデマンドストリーミング、サブスクリプションを日本でも成功させようと思えば、アナ雪のように分かりやすいシーンメイキングをユーザーに認知してもらいプラットフォームデザインに持たせることだと思います。
LINEが成功したのも無料VOIPというテクノロジーではなくスタンプとリアルタイムのタイムラインがシンプルでスマホのUX(ユーザー体験)を最大化出来たことで成功しましたが、少なくとも既存の音楽サブスクリプション・プラットフォームには明確なシーン提案が見えて来ません。
ライブビジネスは日本でも今後ますます成長し、郊外型ショッピングセンターの無料ライブ(無料広告モデル)とドームツアーや音楽フェスのような高額プレミアムチケットと2極化が進みますが、ライブとメディアは常に近い関係にあり、デジタルとフィジカルも本来は補完関係を構築してきました。今ちょうど連関の切れ間に差し掛かっている日本ですが、糸をほどき、繋ぎ直そうと頑張っている日本人、外人も小生は何人も知っています。
健全なエンタメ業界がある限り、アナ雪のようなヒットが日本発でも引き続き登場するのは確実でそこに危惧はありません。ただ悪戯にデジタルvsフィジカル、ダウンロードvsサブスクリプションと2項関係で議論を複雑にすることで、時間とコストを無駄にすることは避けたいものです。今はたまたま日本と欧米で構造格差が拡大しているだけで、グローバルの歴史を考えると、ガラケーから学んでスマホがスタンダード化したように、エンタメの本質はグローバルでも不変です。
では暑い日がまだまだ続きますが、皆さまのご健康をお祈りします。
それでも明るいオンガクの未来。長い文章拝読感謝します。