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「家族のために料理を作りたい」という心
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「家族のために料理を作りたい」という心
「奥さんや子供がお腹がすいた時に作る父親の家庭料理が、家族を幸せにする」。そんなコンセプトを掲げて活躍する「パパ料理研究家」滝村雅晴さん。「パパ料理」とはいったいどんなものなのか。そして、デジタルクリエイター養成校の広報・宣伝職で14年間活躍した滝村さんは、どんな紆余曲折を経て今のポジションにたどり着いたのか。そして、彼の考えるセルフブランディングとは?
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
滝村雅晴さんは「パパ料理研究家」である。ではパパ料理研究家とはどのような立場で、彼が提唱する「パパ料理」とは、いったいどんなものなのか。そもそも「パパ料理」は、いわゆる「男の料理」と、何が違うのだろう。まずは、そこから話を聞いていく。
「実はまったくの別物です。『男の料理』とは、自分が食べたい時に食べたいものを、自分のやり方で好きに作ること。それに対して『パパ料理』とは、家族がお腹をすかせている時に、家族が食べたいものを、家族に迷惑をかけずに作ることです。
パパ料理とは、家族のことを考え、家族のために作った料理のこと。だから、普段お母さんが使っている調理器具を自分勝手に使って普段と違う場所に戻したり、作り終わったら後片づけもしない。食材も好き放題ぜいたくなものを使う、というスタンスでは、決して成立しません。家族のことを深く思いやることで、初めて成り立つものなんです」
ちなみに滝村さんは、専門学校や店で料理の修業をした経験はない。それでも彼は「パパ料理」の「研究家」である。料理研究家としてのスタンスもまた独特で、滝村さんはまず、一般的な料理研究家とのターゲットの違いを強調する。
「一般的に料理研究家のターゲットは、料理を楽しんでいる人達、もしくはバリエーションがなくて次何にしようかと献立に困っている人達です。彼らに向けて、料理をおいしく作るためのテクニックやレシピのバリエーションなどを伝えていくのが主なテーマです。
僕がしていることは、それとは少し違います。僕の一番のターゲットは、料理をしたことのないお父さんです。そして彼らに、いかにして家族のために料理を作りたくさせるか。それがテーマなんです」
滝村さんはパパ料理研究家としてのターゲットを、料理が好きな女性、嫌いな女性、料理が好きな男性、嫌いな男性のABCDの4タイプで分類し、わかりやすく説明してくれた。
「まずA。料理が大好きな女性です。例えば栗原はるみ先生や僕も大好きな行正り香さん(ゆきまさ りか)といった大好きな料理研究家がいて、彼女達が提案するレシピだけでなく、ラ イフスタイルや価値観にまで共感を覚えている。そんなタイプですね。
そしてB。料理が嫌いな女性です。『女性だから料理が好きで上手い、と言われても困る。なるべく楽をしたいし、できることなら作ってもらいたい』という考えの人達ですね。そういった方々は、例えば『ずぼら料理』的コンセプトで簡単レシピを紹介している、奥薗壽子先生の本を買っていたりします。
次がC。料理が好きな男性ですね。趣味として料理するのが好きで、自分でレシピを調べて、時に盗み、極めていく。燻製を作ったり、パスタは麺から作ったり蕎麦を打ったりというように、極める傾向があります。この人達はほっといても料理をします。ただ、それは自分のために楽しんでやる、という意味です。
最後に残るのがD。料理が嫌いな男性です。この人達は奥さんなどに作らせて食べる、もしくは外食中心のライフスタイルを送っています。例えば40歳で、過去にいつ料理したかを覚えていなかったり、中には、料理を一度もしたことのないパパもいたりします。
男性でも独身で一人暮らしをしていると、たいていは何らかの料理をします。でも結婚して奥さんが料理を作り始めた途端、いっさい何もしなくなる。料理は作れるけど、家では何も作らない。そんなお父さんに、どうやって家族のために料理を作りたいと思わせるか。そこが僕の活動において最も大事なこと。お父さんが料理を家で作ることに、技術は関係ないんですよ」
そんな滝村さんはなぜ、料理が嫌いなお父さんに台所に立ってほしいと思うに至ったのか。
「0歳から18歳までの子供がいるお父さんは、全国で約800万人いるといわれています。それに対し『趣味ではなく、家族のことを思って料理をしましょう』と唱える料理研究家の方は一人もいませんでした。ほとんどの料理研究家のターゲットは、先ほど申し上げたABCのどれか。Dは誰のターゲットでもなかった。でも、このDの方々にとって、料理をすることは本人と家族が幸せになるための手段の一つだと、僕は思ったんです。
商売をされている人は、このビジネスをして世の中にどうしたいかを考えるものです。そしてそれは最終的に、すべて世界平和になるものです。その中で、僕は世の中を幸せで笑顔があふれるようにしたいと思い、そのための方法として『お父さんが家族のためにするパパ料理』というコンセプトを広めたい、と考えたわけです」
では、滝村さんはいかにして、パパ料理研究家というオンリーワンの座にたどり着いたのか。
次回は滝村さんのこれまでのキャリアと、彼の考えるセルフブランディングのポイントについて、話を聞いていく。