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グローバルキャンペーンをローカライズ
2009年からコミュニケーションを再開したスニッカーズ。その人気を一気に押し上げるきっかけとなったのが、沢尻エリカを起用した2011年のCMである。そのベースとなったのは、2010年の米国のキャンペーンだった。
「当時、スーパーボウルのCMで話題となった米国のキャンペーン(You are not you, when you are hungry:ハラが減ってるキミは、いつものキミじゃない。TM)のコンセプトを世界展開することが決まり、日本でもこれをローカライズする必要に迫られました。
正直、すごく大きなチャレンジでした。グローバルコンセプトをそのまま日本のマーケットに当てはめても、必ずしもそれが上手くいくとは限りません」
CMの内容はこうだ。草アメリカンフットボールを楽しむ若者達の中に、なぜか名女優ベティ・ホワイト演じるおばあさんが混ざっている。そのおばあさんとは、実は、お腹をすかせて元気がなくなってしまった若者の仮の姿。おばあさんはそこでスニッカーズを食べ、普段の自分に戻って元気にプレーする…。
「このCMのコンセプトは、日本の男の子達にはなかなか理解しにくいものでした。彼らには『元の自分に戻りたい』という願望はあまりない。そのためCMを見ても『おばあちゃんが変身する、若返る』と解釈してしまう。おばあちゃんになっている=お腹がすいている。だからスニッカーズを食べて元の姿に戻る、というストーリーが、なかなか理解してもらえなかった」
今一度キャンペーン内容を吟味し、ローカライズをきっちりと行う必要があった。そこで着目したのが、日本の若い男性特有の「KYになりたくない」という意識だった。
「日本の男の子達は、お腹がすいたら確かに不機嫌になったりイライラしたりする。でも子どもじゃないから、それが周りの人にわかるようには振る舞わない。だから、このコンセプトはなかなか受け入れられなかった。ストーリーはほぼできている。それを日本の若者の日常のシチュエーションに変えるためのディテールを詰めるべく、さまざまな調査を行いました。
その結果わかったのが、彼らは『今の自分以上になりたい』という願望が強いということ。そして、空腹は自分でコントロールできるので、『自分に戻る』ことになかなか価値を見出さない、ということでした。でも、そこに価値を持たせないと、グローバルコンセプト自体が成り立たない」
約1年の試行錯誤の結果生まれたのが、2011年のCMだった。サッカーをする若者がお腹がすいて、沢尻エリカさんになってしまう、というものだ。いつもの自分ではないキャラクターに、日本版のCMではおばあさんではなく、当時お騒がせ女優として話題になっていた沢尻エリカさんを起用。それは、若者の「KYになりたくない」という気質を意識したからだ。
「これは翌年以降に出ていただいた方々にも共通していることなのですが、沢尻さんは周囲に同調せず、自己を貫くタイプ。お腹が空いて、あんな風になってしまったらマズイなと思いつつも、そのタレントさんが嫌われ者だったら、CMに消費者をエンゲージすることはできません。沢尻さんの自己を貫く潔さは、KYと言われないよう周囲にいつも合わせている若い人達にとっての憧れにもなり得るのではないか。そう考えたのが、沢尻さんを起用した理由です。
自己を貫く個性的なタレントさんを起用するのは、日本オリジナルの考え方です。例えば韓国では、アイドルグループのKARAを使っていたりします。そこには、それぞれのローカルマーケットの考え方があります。ただ私達のCMの場合、本社への説明はなかなか難しいものがありましたが(笑)」
<KARA(韓国)編CM動画>
沢尻エリカさんの翌年は内田裕也さん、そして2013年にはロシア出身の二人組デュオt.A.T.u.を起用。これらが大きな話題となり、スニッカーズは右肩上がりで売り上げを伸ばしていく。そんな彼らの今のコミュニケーションは、CMとリアルイベントの二本立て戦略だ。
最終回となる次回は、スニッカーズが行ってきたユニークなイベントの数々、そして今後に対する考えについて、話を聞いていく。