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球団体質を変えた意識改革
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球団体質を変えた意識改革
ディー・エヌ・エーによるオーナーシップが始まったのが2011年の終わり。そこから2シーズンが経過し、2013年のスポンサー収入は、2012年比約40%増となった。この理由について、池田さんはこう語る。
「単純に営業力を強化してきたことにつきます。例えばトップ営業も積極的に行いますし、営業マンが営業戦略に基づいて営業をする。大口小口、C向けB向け、地域へのブランド浸透などのクライアントの会社意向に沿ったメニューを用意し、的確に提案する。など、本当にオーソドックスなことばかりです。
私達のスポンサーはやはり、横浜の企業が主体。加えて一球団ではなく、スポーツ全般や野球全般に興味のあるナショナルクライアントの中には、ディー・エヌ・エー本体としてお付き合いのある企業もあります。今はトップ営業を増やしていて、私と営業マンでいろいろな会社さんに出向き、私達がどれだけ横浜のアイデンティティになっていきたいか、ご一緒してくださる中で最大限に提供できる効果について、理解共感してもらえる機会づくりに、相当な時間を使っています。
もちろん、営業して、スポンサーがどんどん増えてくるようになったらうれしいですが、まずは自分達の努力が大事だと思っています。『この球団に応援の一つのカタチとして、スポンサーすることで応援してあげてもいい』という気持ちを持っていただかなければなりません。例えば球場に広告を出す、ユニフォームに企業名が入ることが、どれほどの実質的なリターンをもたらすのか、費用対効果を計算するのは、非常に難しいものがあります。
確かに、露出効果までは簡単に算出できます。テレビの映像に何秒写って、というのを計算し、それにスポット単価をかけ合わせるという方法もある。でもそこから先で、認知拡大、売上げや顧客獲得にどうつながったのか、というCPA(Cost Per Acquisition)やCVR(Conversion)までは、把握しようとしても難しいものがあります。
『この球団を応援してあげたい』という空気と意識を、地元横浜の街の中に、どれだけ持って頂けるようになれるか。そこがキーになります。さまざまなイベントや仕掛けを考え、お客さんを増やし、チームが強くなるように力を尽くす。そしてスタジアムを超えて街の中に、プロ野球がある街としての空気をつくっていく。必要なのはそんな先行投資であり、今は球団のブランドを築きはじめた段階です。これらの努力が評価されていけば、スポンサー収入にも転機がくると考えています」
2011年終わりに社長に就任すると、すぐに感じたのが組織改革の必要性だった。多くの負債を抱えているにもかかわらず、赤字を出すたびに、それを親会社が自動的に補填する。そのシステムにより、社員が「自分達が勤めているのは赤字会社である」という自覚を持ちにくい構造ができ上がっていた。大事なのは、その意識を変えることだった。
「私は社員全員に『この会社の経営状態は今、こうなんだ』ということを、自分事として感じてほしかった。そして、みんなが自分の仕事における目標を明確に言える会社にすべきだと考えました。
例えば『優勝』というのは、あくまでチームの目標であり、且つ会社の「みんなの目標」です。シーズンが始まってしまったら、多くの社員の仕事における直接的な貢献で、優勝するわけじゃない。そうではなく、観客を増やす、スポンサーを増やす、といった、自分の仕事の明確な目標が大切ということです。個人が明確な目標を持って努力すれば、チームが優勝した時、自分の仕事を通じてそれを心から喜ぶことができる。私は横浜DeNAベイスターズを、そんな組織に変えたいと思った。それが本当のプロ野球の会社としての姿だから。
就任した当初は、新しいことに挑戦することに対し、まず出来ない理由、やらない方がいい理由を見つける空気がありました。でも、特にこの半年ほどで、社員のみんなの意識に大きな変化が見られるようになりました。会社全員で頑張った結果、観客動員が伸びた、という、明確な数字で結果がはっきりと見えたことで、みんなが自信を持ち、積極的にアイデアを出す体質へと変化してきました。」
その流れをさらにいい方向へと導くべく、今年1月、社員と選手全員にブランドブックを配布。『次の野球』というタイトルのこの本。例えば「試合に勝ったらファンが監督を胴上げする」「オール横浜・神奈川出身選手で戦う日を作る」「グラウンドで花見をする」といった突飛なものも含め、スタッフそして選手が表題のテーマにのっとって出した、さまざまなアイデアがイラストで記されている。
「振り切れたものでいいから、面白いアイデアを出してみないか?というかけ声で、始まりました。何も、これをすべて実現するというわけではありません。私たちが大切にしているのは、こういうユニークなアイデアが出てくる土壌であり、オンリーワンのブランドを地域で築くこと。それを表したバイブルのようなものです。これを全員が1冊持つことで、目標を持ち、仕事を自分事化する。そして工夫をし続けていってほしいと思います」
思えばディー・エヌ・エーはネットオークションやショッピングから始まり、携帯電話専用ゲーム「モバゲー」など、さまざまな事業を手がけながら大きくなっていった会社だ。固定観念にとらわれず、柔軟な発想を持つこと。それが、彼らがベイスターズに注ぎ込んだ新たな企業文化なのだろう。
「自由な発想で時代の流れに対応していける。それが私達の強みです。これからも柔軟なアイデアに基づいて『この街にはプロ野球がある』ということを、多くの方にアピールしていきたい。そして、現在のアクティブ・サラリーマン層がおじいちゃんになった時、『DeNAベイスターズが強くて人気があるのは、あのころがあったからなんだ』と語れるよう、この5年連続最下位から始まるストーリーを、このままの流れで近い将来完成させねばならないと思っています」
(終わり)