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ターゲットは「アクティブ・サラリーマン」
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ターゲットは「アクティブ・サラリーマン」
ディー・エヌ・エーによる球団買収以来、着実に観客動員数を増やす横浜DeNAベイスターズ。買収から2シーズン目となった2013年は、観客動員数は約142万人を記録。買収前である2011年の観客動員数(約107万人)から、30%以上の大幅アップとなった。
「私達は地域の方々やターゲット顧客層、そして球場来場者に、インターネットや球場でのリサーチを定期的に繰り返しています。最近の結果を見ると、回答者の来場理由のうち33%が『チームが強くなったから』というものでした。2013年度、5年ぶりの最下位脱出でしたが、最終的には5位でした。やはり成績は非常に重要ですが、それ以上にCS(クライマックスシリーズ)争いをどれだけの期間できるかが、観客動員には響いてきます。
一方、残り67%の理由を見ると『いろいろな新しい取り組みをしているから』『ニュースで見たから』『広告が気になったから』というものなどでした。チームはまだ6球団中5位ですが、観客動員の伸び率でいえば、ここ5年の野球界の実績において1、2を争います。チームそのものの力と、われわれが行ってきたさまざまな事業的取り組みが、ともに評価されている。だからこその観客動員の伸びであると、私達は考えています」
増加した観客増員数のうち多くが30~40代の男性で、年に2~3回観戦に来るライト層。DeNAベイスターズではその層を「アクティブ・サラリーマン」と命名。明確なターゲットを定めている。
「私と同年代の30~40代の男性は、働き盛りですが、仕事が終わってから飲みに出かけたり、土日も家にこもらずアウトドアやスポーツを楽しんだり、内向きではなく、アクティブな層も非常に多い。
彼らは平日には会社の同僚、休日には奥さんや子供を連れて来てくれる。キーとなるアクティブ・サラリーマン層にアプローチしていくと、そういった効果も生まれています」
アンケートやインタビューなどで彼らの意識を調査した結果出て来た答えが『でっかい居酒屋に行くような気分で、野球をつまみにビールと会話と雰囲気を楽しみに来てくれている』ということだった。
「『球場に来て、何を楽しんでいますか』『何を楽しく思い、もう一度球場に来たのですか』といったことも聞いているのですが、アクティブ・サラリーマン層に特に多かったのが『勝つのはもちろん楽しいがそれ以上に、野球場の非日常の雰囲気の中、友人や同僚と、プレイをああだこうだ言ったり、自分達なりの野球論で野球談義をしながら、ビールを飲むのが楽しいから』という回答でした。
コアな野球ファン、ベイスターズファンの方々は、こちらがしっかりと情報を発信していけば、それを自ら取りに来て下さる。もちろん、そういった方々に球団は支えられているわけですが、今の課題は、その外にいるライト層を増やすこと。そこを考えていかないと、数字が伸びないですし、そういった層が増えることは同時にスタジアムの雰囲気がよりいっそう一般の方々が楽しめる空気に変わっていくと考えています」
ディー・エヌ・エーによる球団買収前、来乗客の居住地は横浜の中心部に集中していた。それを広げていくのもまた、明確な戦略である。
「どの駅から何線に乗って球場に来たのかについても、リサーチし続けています。以前は球場近辺の中区、西区から来てくださる方々が中心でした。横浜市はとても広いのに、物理的距離の近い、横浜のごく一部にチームへの関心が狭まってしまっていた。
私も元々横浜育ちです。小学生の頃の自宅の最寄り駅は横浜駅からは相当に離れた相鉄戦の終着駅。それでも私が子供のころは、横浜大洋ホエールズの帽子をかぶり、電車に乗って友人や家族と横浜スタジアムまでよく行ったものです。また、成人して間もない'98年、ベイスターズが日本一になった時には、横浜から、神奈川県の藤沢市に引っ越していましたが、そこまで熱狂が伝わってきていました。
それなのに私が就任した当時には、相鉄線に乗ってもベイスターズの帽子をかぶっている子供を見ることはほとんどなくなってしまっていた。それは、どういうことか。おそらく、昔はもっと大きかったマーケットが、チームの成績などさまざまな要因で、中区、西区などの物理的に近いエリアにシュリンクしてしまっていたのです。
子供のころ熱心に横浜スタジアムに通い、成人したころにベイスターズの日本一を喜んだのが、われわれの世代です。また日本一になったころ、地元の横浜高校が松坂大輔投手を擁して全国優勝したことも大きかった。
横浜に住んでいるわれわれ世代、すなわちアクティブ・サラリーマン層は、野球に強い関心を持っている。彼らにもう一度、『ああ、昔は横浜スタジアムに行ったな。久しぶりに行ってみたいな。一度子供も連れて行ってあげたいな』というように、野球観戦の楽しみを思い出してもらいたい。それが、われわれの今考えているマーケティングです。つまり"隠れファン層"ですよね。彼らの心の中に眠っている潜在的なプロ野球観戦欲求を、再び呼び起こしたいということです。その結果、今は横浜の中心部だけではなく、南や西の新興住宅街にまで、お客さんの居住範囲が広がってきました」
では、ターゲットとなったアクティブサラリーマン層に再び球場へ足を運んでもらうため、池田さんはどのような戦略を考えたのか。
次回は、その具体的なコンセプトについて話を聞く。