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リクルートで得た逆算の発想と、すべてに通じる編集力
現在はよしもとクリエイティブ・エージェンシーのプロモーションセンター長として、台湾をきっかけとしたアジア戦略を手がける永谷さん。彼女が考える吉本興業の大きな強みの一つが、30名近くのスタッフを擁するPR部隊である。
「生み出し、育て、露出させ、さらにPRをかけることができる。その吉本のプラットフォームを上手く使えば、そこにさまざまなビジネスを乗せることができる。多くの企業や行政と連動して、ビジネスを拡大できる可能性が大きく広がります。それはTGCも同じ。つまりTGCは興行ではなく、メディアなんです。
そしてTGCで私が常に見ていたのは、顧客です。例えば『TGCを観たら本当にハッピーなの?』『TGCの楽しさを人に伝えたくなるの?』ということを、ずっと考えていました。思えばその発想は、リクルートで身につきましたね。」
永谷さんは大学卒業後、リクルートに入社。住宅情報誌の営業職から、海外旅行情報誌エイビーロード(当時)の営業企画から編集の道へ。
「当時意識していたのは、いかにして読者の方に実際の申し込みをしてもらうか、ということだけ。例えば読者の方が旅行を申し込もうと思った時、まずはちゃんと問合せをしたくなるか。そしてその場所にいざなうだけでなく実際に読者がアクションできる、細かい旬な、他の旅行雑誌が出していないような情報を載せなくちゃ、といつも考えていました。
リアルなアクションを起こしてもらうために役立つ情報は何か。常に読者の側に立つことを意識し、リアルな読者の行動を妄想していました(笑)これは、とてもいい経験になりました。」
当時は編集という仕事が分からなくて、怒られてばかりだっという。エイビーロードや結婚情報誌ゼクシィの編集を手がけ、臨時増刊号を1冊丸ごと一人で作ったこともあった。
「ハードな日々でしたが、今の仕事につながっているのはリクルートでの編集経験が大きいですね。学んだのは、目的から逆算する発想と想像力。先ほど申し上げたように『これを読んだら申し込める?』『これに申し込んだ人が、どういうことをわかっていたらいいの?』といったことを常に自問自答していました。編集という経験がなかったら、なかなかこういう発想は身につかなかったかもしれません。確かに、ページのクリエイティブとしての優秀さを追求することも大切です。でもそれよりも、この記事は何を伝えたくて、読者に何をしてもらうためにあるのか、という意義を追求することの方が重要なんです。
そういう意味で、必要なのは編集力。つまり積み上げじゃなく、目的から逆算して考えることのできる力。これは、すべてに通じることだと思います。だから、ほしい人材は元エディターですね。
例えばあることをしようと思ったけれど、事情が変わりAじゃなくBになりました、タイミングも変わります、となった時、いかに逆算の発想で考えることができるかが大事。変わるなら今から半年後になるのか、1年後になるのか、半年後ならこのキャストでこういう形でいいけれど、1年後は変わっているかもしれない。それならあえて決めず別の事から先にやろう、といったように、順番も変えなくてはならないかもしれない。そういったゴールから想像する思考のない人は、継続性の高いコンテンツ開発の仕事は難しいと思います。私の場合、その感覚はリクルートで身につけ、TGCで磨きました」