Vol.5
「オンガクの明るい未来;マーケティングは音楽を救う?」
さていよいよiPHONE5s/5c発売されましたね。そして狼が来ると言われ続けて遂にドコモがiPhone発売!ジョブズが無くなってからアップルの新製品情報は早い段階からリークされているようですが、当然の事ながらライセンシーは発表前にそれを公表することは出来ません。
今秋はいよいよ三つ巴のiPhone顧客の獲得合戦が始まる訳ですが、気になるのはスマホ移行時のSPモードの混乱のような従来の基本サービスのコンバージョンがうまくいくのかどうかですね。僕もiPhone4S(au)とドコモFOMAの2台を稼働させていますが、ドコモ5Sに集約するかどうか?悩ましいところではあります。
ところで新しいiOS7にはiTunes Radioは日本では未対応です。これはiTunes Matchと同様に技術的な問題ではなくレンタル市場の大きい日本の音楽ライツ・流通の仕組みによる所ですがこれは本論でも触れていますのでそちらをご覧ください。
今回のiPhoneが3キャリアからリリースされることで報道でも伝えられる通り、国内のスマホ端末メーカーは厳しい状況に追い込まれることは否めません。かつてブラックベリーで一世を風靡したRIMが凋落したようにこれは市場原理からいうとiPhoneでさえも2020東京オリンピックの時に今のシェアを保ち続けることには誰も根拠を持って同意できないでしょう。
デジタル端末・家電市場はその浸透期間を含めて3年で全てが変わってしまうことは今までの歴史を見ても明らかでそのスピードはさらに加速しています。ハッカーは常にiPhone・iTunesの先の世界を構想し、スポティファイを超えるプラットフォームを考えそれは試行錯誤を重ねて市場にリリースされます。
ただ利益確定を急ぐあまり不完全な商品がリリースされると、その対応リスクは非常に大きく、さらに重要なのは顧客の信頼を失うということです。3G携帯で必要十分とする顧客は現状ではまだまだ多いのが実情です。
イノベーションの速度を止めてはいけませんが、市場に投入するメーカー、キャリアは200%の信頼性を担保することが結局は事業の継続安定につながります。株の売買益で巨額な利益を得る投資家から見れば短期に次々と製品を投入して収益を上げたいところですが、スマホは基本的に2年契約が基本と為っている中で半年ごとに新しいモデルが出てくるというのは、やはり信頼性を確保するには期間が短すぎます。このあたりは今回のテーマから外れてくるのでこの辺にしておきますね。
さて、本論です。
ここまでこの10年前後の音楽マーケットを巡る産業構造の変化(あるいは不変化)を見て来ました。
海外ではフィジカル(CDやDVDなどパッケージ)とデジタル音楽配信のPANDRA(パンドラ)やSPOTIFY(スポティファイ)など端末にデータを保存しない(ストリーミング)配信で、月額(あるいは週額)固定(サブスクリプション)に移行しているのに対して、日本ではフィジカルが健闘し米国を抜いて世界一のマーケットとなると同時にストリーミング・サブスクリプションサービスはグローバル市場で出遅れてしまったことを見て来ました。
欧米に見るデジタル音楽サービスの変遷;アップルは王者で在り続けるか?
欧米におけるこうしたデジタル事業サービスの変遷はBCGマトリクス(成長率を縦軸、シェアを横軸)に当てはめると、とてもクリアになります。
欧米の場合こうしたIT事業はハッカー(プログラムに精通し革新的アイデアを備えたタレント)によってビジネスシードが具体化します。時にその革新性故にそれまでの産業構造を破壊する力を持つこともあります。初期のP2Pファイル交換は映画や音楽の著作物を著作者に対価を払うことなく流通させ大きな問題になりましたが、そのP2Pテクノロジーは後のクラウド技術にも応用され現在のストリーミング配信の付加を減らすために重要な役割をしています。
図1のクエスチョン領域では日本ではあまり耳にすることのないrdio(http://www.rdio.com/)やSongza (http://songza.com/page/intl/) といったパーソナライズラジオやレコメンド配信サービスに並んでGOOGLE ALLACCESSといったサービスが並んでいます。これらはまだサービスインから時間が経っていないか、未だ市場で継続的に収益を生んでいない事業グループです。文字通り海千山千というわけです。そこからそのまま消えてなくなるサービスもあれば、そこに新たな投資家を迎えて一挙にシェア拡大を狙うスター領域へといくつかのサービスは駒を進めます。
スポティファイはその成長率とサービスの質の高さで北欧から全世界へ驚くべきスピードで拡大しました。さて先駆的なPANDRAはすでにシェアNO1で2億人のユーザーを抱えています。しかしながら彼らの最大の課題はその収益性です。人海戦術で高いレコメンドの信頼を得る一方で多額の投資とコンテンツホルダーに支払うロイヤリティの高さから2013年第4四半期でも純損失3810万ドルを計上しています。
図でキャッシュカウ領域に入れるのはシェアを確保しクリティカルマスに近付いて成長率が落ちているということでこの領域に入っていますが、キャッシュカウ(シェアを独占し安定的利益を得る事業)という意味合いでは異論があるかもしれません。ここで取り上げた音楽ストリーミング事業は一様にこうした収益性の課題を抱えています。
イノベーションのジレンマ(※1)
さてこうした中でアップルはiTunesに続いてiTunes Radioを発表しました。iTunesというデジタルエコシステムでデジタルコンテンツのグローバルなリテイルシステムを構築したアップルですが、こうした放送型ストリーミングサービスを新たに追加することは自らのダウンロード型のストアモデルに打撃を与えます。アップルはiTunesで今までのフィジカル音楽流通に破壊的イノベーションを齎しました。このiTunesによってipodはデジタルオーディオのシェアを拡大し、さらにその後のiPhoneへ繋がります。
iTunesはiOSをベースにその市場を拡大しましたが、ストリーミング型配信はそもそもOSに依存していません。アップルの取った戦略は各国の通信キャリアにノルマを課し、EDS(現地部品調達システム)でアジアから大量の部品を調達し、次々と新しいデバイスを投入することでハードで莫大な利益を生み出しました。ipodやiPhoneの革新性はiTunesというデジタルエコシステムに支えられグローバルでその地位を確立したのですが、iTunes Radioは最初に時代を破壊的に変革したアップルの自己否定にもつながります。
iTunes Radioが今一つ大きな革新性が伝わってこないのはまさしく同じ領域で革新性を打ち出せないアップルのイノベーションのジレンマなのかも知れません。
巨星のジレンマ SOMY,MICROSOFT,APPLE
市場を席巻したアップルに対抗してマイクロソフトはZUNEというコンテンツプラットフォームサービスをSONYはMUSIC UNLIMITEDというサービスを投入しました。ZUNEはすでにサービス終了を発表しておりSONYのMUSIC UNLIMITEDは度々クラッカーの攻撃を受け、アップルの後塵を拝しています。
SONYは自ら映画、音楽会社(メジャー)を擁し、それらの収益性は依然高くSONY全体の収益を支えています。投資家からはこれらエンタメ事業をスピンアウトさせアップル同様にフラットに全メジャーレーベル・スタジオからコンテンツを調達できる分離案が今年提示されましたがSONY側はこの申し出を断っています。
BCGマトリックスで言えばスターからキャッシュカウに残れる事業は上位数社でしょう。例えキャッシュカウに残ったとしてもそれは新たな変革者(イノベータ)によって負け犬領域へ追いやられてしまいます。キャッシュカウで利益が最大化するほど自ら構築した収益システムを破壊することが難しくなる。これがイノベータのジレンマでしょう。
(続く)
イノベーションのジレンマ(※1);
HBSのクレイトン・クリステンセンが提唱した変革によって業界トップになった企業が新興企業の前に
力を失うという理論。