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「これからの街の本屋」という新たなトライアル

内沼 晋太郎 うちぬま しんたろう さん NUMABOOKS 代表
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Part.3

 

■魅力的な新刊書店を経営するためにも、他の収益源が必要だった。

 

 内沼さんが2012年、博報堂ケトルとの協業で下北沢に作ったのが「本屋B&B」である。ビールの飲める本屋として知られるここは、博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんと内沼さんによる共同経営。コンセプトは「これからの街の本屋」。2010年代に成り立つ新刊書店の新たなビジネスモデルを構築しようと考えたプロジェクトだった。

 

「嶋さんと一緒にお仕事させていただくようになったのは、2010年ごろから。2011年には雑誌『BRUTUS』の特集「本屋好き。」の編集を一緒にお手伝いして、全国の書店を取材して回りました。そんな中で、自分達が大好きな『街の本屋』を、どうにかしてこれからの時代に成り立つものにできないか、と考えるようになりました。

この2010年代に、街の新刊書店をどう成り立たせるか。都心で2030坪の物件を借りて新刊書店をやっていくこと自体が、既に非常に難しいことになってしまっていました。取次に相談に行ったら、新規参入は都内でも数年ぶりと言われる。それは、もはやある意味ビジネスモデルとしては崩壊しかかっていることを意味します。でも、僕らはそういう、街の小さな本屋が好きだった。そして、どうにか成り立たせたいと思いました。僕らはお互い本の仕事に携わってきましたが、新刊書店の経営においては完全な素人です。でも、だからこそできることがあると考えました」

 

新刊書店としては、紙の本を1冊でも多く売らねばならない。だがもしかすると「これからの街の本屋」にとっては、それだけが仕事ではないのかも。そう考えて決めたことが、①ビールなど、ドリンクを販売する②毎日必ず、イベントを開催する③本を並べる本棚など、家具を販売する の3つだった。

 

 本屋B&B Webサイト(http://bookandbeer.com/)
本屋B&B Webサイト(http://bookandbeer.com/

 

 

「基本的に、本は委託商品であり、販売のリスクが少ない代わりに利益率は低く全国どこでも同じものを、定価で販売しなければなりません。一定の売上があれば非常に安定したビジネスと言えますが、一方で売上のベースが下がってきたとき、商品でも価格でも差別化がほとんどできないんです。品揃えで特色を出そうとしても、その人件費に見合う売上を上げるのは至難の業です。

だから大手はどんどん大型化して面積を増やし、単純に『在庫何十万冊』とその冊数を売りにしてきました。たくさん売る店ほど仕入の面でも優遇されるので、結果、小さい店は仕入も厳しく、どんどん家賃などの経費が重くのしかかっていきます。それでもなんとか成り立たせようとすると、人件費を削って、売上がきびしい月は返品を増やして、店として『売りたい』本よりも短期的に『売れる』本を売る、という方向に流されていき、店の魅力がどんどん失われていく悪循環に陥りがちです。

 

そうならないために、本以外に複数の収益源を持つことで、新刊書店を成り立たせようというわけです。だからもちろん、飲み屋がやりたいわけでも、イベントスペースがやりたいわけでも、家具屋がやりたいわけでもありません。あくまで目的は、魅力的な新刊書店を経営すること。きちんと人の手をかけて、狭いスペースに選び抜いた本を、丁寧に売っていくこと。そのためにこそ、本を売ることと相性のいい、他の収益源を考えることが必要だったわけです。

2010年代に魅力のある本屋とはどんな存在なのか、とあらためて考えてみたとき、『この本がほしい』という指名買いのニーズに応えるならば、Amazonをはじめとするネット書店が一番です。

 

リアルの書店の勝ち目は、『何かはわからないけれど、何か面白いことがほしい』と思う人達に来てもらい、彼らの知的好奇心を満たすことです。実際にその空間に訪れることで、世界の広さに触れる。まったく買おうと思っていなかった本を買ってしまう。イベントに参加して、ビールを飲んで、本屋という空間を丸ごと楽しんでもらう。その根本を支えるのが、妥協のない本のセレクトです。その人件費を安定的に生み出すために、本以外の収入源を確保することが重要になってくるのです。

また、ビールやイベントは、本の売り上げとの相乗効果があります。イベントは基本的に著者や編集者などを招いて行うため、そこに来るお客様はもともと本が好きな方が多い。なのでイベントの集客が多い日は、自然と本の売上が上がります。ビールを売ろうと考えたきっかけは、実は僕も嶋さんもビールが好きだから。『本って、酔っ払うといろいろ買っちゃうよね』という話を、よくしていたんです。だったら自分たちで売ったほうがいいだろうと(笑)」

 

B&B内観3
本屋B&Bの内観

 

■今までは本の『周辺』をぐるぐると回る存在だった。でも…。

 

ちなみに本屋B&Bのオープンに際し「客層の明確なターゲットはなかった」という。

 

「どんな店にするか。それを考えたのは、場所を決めてからなんです。実は、もともとは浅草近辺で物件を探していました。浅草は観光客も多い一方、昔から住んでいる人もたくさんいて、独自の歴史と文化がある街であるにも関わらず、本屋は多くありません。でもSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSの福井盛太社長に相談に行ったときに、僕らが行きやすい場所にした方がいい、というアドバイスをいただき、方針を変えました。新刊書店は毎日品揃えが変わります。それで、僕と嶋さんの日常の行動範囲になるべく近いエリアで探していて、たまたま下北沢で今の物件に巡り合ったわけです。

下北沢は若者の街、サブカルの街というイメージが強いですが、実際に住んでいる人には老若男女、さまざまなタイプの人がいます。北口には住人が通うスーパーマーケットの上に三省堂書店があり、B&Bがある南口には、ヴィレッジヴァンガードの東京進出一号店があります。だからぼくたちが考えたのは、三省堂書店ともヴィレッジヴァンガードとも違う、その2つだけでは満足できない人に向けた書店を作ることでした」

 

2012年7月のオープンから約2年半が経った。今になり、書店という「場」を持ち、その魅力を高めることで、さまざまな可能性が広がっていくことを実感している。

 

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ブック・コーディネーターと名乗って10年ほど仕事をしてきた僕は、いわば本の『周辺』をぐるぐると回ってきました。出版業界の外に軸足を置いて、そこから内側に働きかけるような形で仕事をしていたんですね。でも本屋B&Bという新刊書店を立ち上げ、ど真ん中の既存の流通システムの上で、きちんと収益的にも成り立つ店を作ることができた。やっと内側にもう一つの軸を置いて、少しは胸を張って言えることができてきたという感じです。

ここまでやってみてわかったのは、書店という「場」の魅力を作ることで、さまざまな可能性が広がっていくということ。魅力が高まることで、本を売ることとはまた別の収益源も生まれていく。

 

ウェブメディアであれば、とりあえずローンチしてマネタイズは後から、アクセスが増えてくればいくらでも可能性がある、という考え方は一般的ですよね。それと似て、本屋もメディアなのだなとあらためて感じています。たとえばいま、早朝の英会話スクールを開講しているのですが、これは最初から想定していたわけではなく、B&Bという場所の魅力が高まってきた結果、『ここで英会話をやりたい』という人が後から出てきて生まれました。場の魅力が高まれば高まるほど、そういった新たなビジネスが誕生する可能性もある。

ところでよく聞かれるのですが、本屋B&Bの2号店を作る予定はいまのところありません。
目的はあくまで、成り立つ新刊書店のモデルを作り、それを長く続けること。
先ほど申し上げたのはあくまで兆しのようなもので、本当の場の魅力というのは、数年やそこらで簡単に作れるものでもない、と思っています
ので」

 

最終回となるPart.4では、内沼さんが今、新たに手がけている場作り、そして読書用品ブランドのビジネスの詳細について、話を聞いていく。

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プロフィール
内沼 晋太郎

内沼 晋太郎 うちぬま しんたろう

NUMABOOKS 代表

ブック・コーディネーター/クリエイティブ・ディレクター。
1980年生まれ。一橋大商学部卒業後、企業勤務を経て東京・千駄木の「往来堂書店」に勤務。
2003年、本と人の出会いをプロデュースする「ブックピックオーケストラ」代表となる。
’06に自身のレーベル「numabooks」を設立。
2011年には読書用ブランド「BIBLIOPHILIC」のプロジェクトメンバーとして立ち上げに携わり、’12年には博報堂ケトルとの協業で、下北沢に「本屋B&B」を開業。
他にも数々の本にまつわる企画や、横浜のシェアスペース「BUKATSUDO」などのクリエイティブ・ディレクションを手がけている。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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