インタビュー
「ドミノ・ピザ」というデリバリーピザの会社で、チーフマーケティングオフィサー(CMO)をやっています。
実際にどんな仕事をしているかというと、コミュニケーション企画と実践、それから販促の実践、メニューの開発、ビジネスインテリジェンスの会社への供給。そしてそれらを通じて、ブランド価値を向上させる取組みや、オンラインセールスの最大化を図る取組みをしています。
これでは、わかりにくいよね(笑)
わかりやすく説明すると・・・、
例えば、多聞くんに好きな女の子がいるとするよね。
多聞くんはその子に自分を好きになってもらいたいと考える。好きになってもらうためには、相手の女の子がどんな人を好きなのかを想像したり調べたりして、自分をそのイメージに近づけようとするんじゃないかな。
会社もそれと同じ。
お客さんが「ピザが食べたいな」と思ったときにドミノ・ピザを選んでもらえるように、ドミノ・ピザをより好きになってもらわなきゃならない。
お客さんに「ドミノ・ピザってマジメすぎてつまらないな」って思われているんだったらおもしろいと思ってもらえるようなCMを作ったり、「ドミノ・ピザって和風でおいしくないな」って思われているんだったら、好きになってもらえる商品を作ったり。
どうすればお客さんに好きになってもらえるかを考えて、実際にそれをやっていくのが僕の仕事だよ。
難しいところも楽しいところも同じかな。
たとえば、多聞くんは好きな彼女にとって、他の友達や家族っていうたくさんの人がいる中の1人だよね。その中で自分に注目してもらうためには相当工夫しなきゃいけないし、気づいてもらうだけじゃなくて多聞くんの人となりを理解してもらって、その結果好きになってもらわなきゃいけない。それってとても難しいことだよね。
僕の仕事もそれと同じで、ピザを売っている会社やピザ以外の食べものを売っている会社が他にもたくさんある中で、あえてドミノ・ピザに注目してもらって、好きになってもらうっていうことがとても難しい。
でも、その難しいことを”どうやったらできるのか”っていうのを日々考えるのが楽しいんだ。こういうふうに言ったらお客さんは振り向いてくれるんじゃないかとか、こういう表現をしたら驚いてくれるんじゃないかって仮説を立てて、その想像の通りにお客さんが反応してくれたらとても楽しいよ!
月曜日は、自分のマーケティングチームの人たちとミーティングをやったよ。お客さんに振り向いてもらうためにしようと思っていることをまとめて、どうするかを指示したり、確認したりしたんだ。
例えば、好きな子にアプローチするときは言葉だけじゃダメで、髪型や服を整えたり、デートの場所を選んだりと、いろいろなことをするよね。お客さんに対しても同じで、CMだけ作ったり、インターネットの動画だけを作ったりするんじゃなくて、デートのときに服や帽子、髪型や言葉、場所なんかも整理するように、すべてをよく考えて整えなきゃならない。
ミーティングではその“すべて”とは何なのか、全体を構成する個々の部分で何をしたらいいのか、っていうことをひとつひとつ確認するんだ。
それから、会社を一緒に動かしている仲間である執行役員の人たちに、その内容について説明をして、そのあとは僕のチームに来たいっていう人の採用面接をしたよ。
火曜日から土曜日にかけては、世界各国(オーストラリア、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、日本)のドミノ・ピザのCMOが集まるミーティングに出席するために、フランスへ出張していたよ。ミーティングはもちろん、パリのドミノ・ピザの店に行ったり、集まったCMOたちと一緒にご飯を食べて親睦を深めたり、フランスを観光したりもしたんだ。
例えば多聞くんと同じクラスに、ある女の子が好きな森くんっていう男の子がいたとする。森くんは、好きな子に自分をよく見せようと思ってジャケットを着たり、カッコつけたりしているんだけど、多聞くんや他の人から見ると全然似合っていない。それは実際の彼と、彼が思っている自分との間にズレがあることが原因かもしれない。それってなんだか滑稽に見えるよね。
会社もそれと同じで、社員はお客さんが思っているよりも「私たちの会社ってかっこいいでしょ!」と良く思ってしまいがち。でもそれを前提にして宣伝すると、森くんと同じで滑稽に見えてしまうかもしれないんだ。
僕はマーケティングをするうえで、CMOになる前もなった今もそうならないようにしようと気をつけてきた。だけど、何かをするためには一緒に仕事する仲間に理解してもらわなきゃならないし、「僕たちの会社は、本当はそんなにカッコよくない」と会社を落とすようなことや実際の姿を知ってもらうのは大変で、時には仲間に怒られることも嫌われることもある。
それでも、会社の実際の姿を見誤らないようにしながらやってこられたというのが、CMOになれた理由かな。それが大事だって気づけたことも、それをやってこられる環境だったことも、僕は幸運だったと思っているよ。
これまでのキャリアでターニングポイントになった経験があったら教えて
以前、「日本コカ・コーラ」という会社で働いていたときに、僕が提案したことにどうしても賛成してくれない人がいた。
でもその人に賛成してもらうことは、プロジェクトを進めるうえでとても重要なことだった。何度やり方を変えて説明しても賛成してくれなくて困っていたとき、僕の上司が「相手の気持ちに寄り添うこと」を教えてくれたんだ。
それまで僕は、自分がやろうとしていることの正しさや理論にこだわって、相手の立場や受け取り方を考えていなかった。それに気づいてからはもっと相手の気持ちになって考えるようになって、ものごとをスムーズに進められるようになったんだ。
あの経験がなければ、今の僕はいなかったと思う。
プロの将棋棋士である藤井聡太四段かな。
人と人工知能(AI)が融合し、超越的な知性を発揮するようなこと(シンギュラリティ)が現実に起きようとしている今、将棋とそれをマッチングさせて頭角を表しているのが藤井くんかな、と。
第一世代の加藤一二三さんは棋譜を自分で書く、第二世代の羽生善治さんはデータベースの棋譜、第三世代の藤井さんはAIの棋譜でやっている。そもそも蓄積しているノウハウが違うから、今後、羽生善治さんのような将棋界の大御所にどう対峙していくか、どう勝つのか負けるのかがとても興味深いね。
CMOとして、これからの未来をどうおもしろくしようとしてるの?
最初に言ったように、マーケティングとは、大好きなお客さんに振り向いてもらうためにいろいろなことを考えて、実際にやっていくこと。
例えば多聞くんと森くんが同じ女の子を口説こうと思ったら、まったく同じ口説き方じゃなくて、それぞれ多聞くんと森くんに合った口説き方をしなきゃならない。仮に女の子を口説く教科書があったとしても、そのままやっていてはダメで、自分用にカスタマイズしてやらなきゃいけない。
マーケティングもそれと同じで、今あるマーケティングの教科書は、スーパーで売っているような商品について書いてあることが多い。けれども、スーパーで売っている消費財ではないものを販売している会社や、銀行みたいにモノを取り扱っていない会社にとって、その教科書はとても使いづらいんだ。
だから僕は、どんな会社も使えるようなマーケティングの理論を作りたいと思っている。それは僕1人で作るんじゃなくて、いろいろなCMOやマーケターと議論をしたり、僕自身もCMOの仕事を通して知識や経験を積んでいったりしながら進めていって、僕が定年を迎えるまでには完成させたいと思っているよ!
「屋根がないこと」が好きだね。
外食する時はオープンテラスがあるレストランをなるべく選んだり、車は屋根を開けた状態で乗ったり。空の下っていうのが好きなんだ。
乗っている車はオープンになるコンバーチブルで、雨が降っている日や日差しがすごく強い日以外は屋根を開けているよ。真冬だってきちんと防寒をして乗れば、すごく気持ちいいんだ。
多聞くんもぜひ!
(多聞くん)
ありがとうございました!
とっても参考になりました♪
これからも頑張ってください!
プロフィール
ドミノピザ・ジャパン株式会社 執行役員CMO。
日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。CMOは3社目。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。西友では同社のイメージを一変させるキャンペーンを連発した。ブランドの構造はカテゴリによって違うことに気付き、全てのカテゴリのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませている。座右の銘はたくさんあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです