日本の企業にはまだまだ少ないCMOの存在意義とマーケターの価値を上げるために、CMOやマーケティング部門の責任者はどんな職業なのか & 活躍している人を紹介。読んで欲しい読者はこれからの日本の未来を背負う若者たち!

CMOって?

Chief Marketing Officer (チーフマーケティングオフィサー)= 企業におけるマーケティングの最高責任者。部署ごとに存在する様々なマーケティング要素を横断的に統括し、企業の売上拡大とブランド力の向上をドライブさせていくポジション。その具体的な役割は企業によって様々ではある。

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インタビュー

  • 自己紹介をお願いします!

  • 多聞くん、よろしく!牛丼の吉野家とCMOっていう肩書の対比が面白いでしょ(笑)?
    マーケティング、商品開発、出店戦略等々に至るまで、すべてに顔を突っ込んでいく。これが社長から僕に与えられたミッション。要するに、CMOって「社長の夢実現担当」なんです。
    CMOの前は企画本部・宣伝広報部長というポジションだったんだけど、それだと宣伝・広報以外の活動には首を突っ込みづらい(笑)。

     

    僕の定義では、商売の川上から川下まで、すべての工程がマーケティング。だから、CMOがすべてに首を突っ込んでいくのは当然のことだと思っているんだ。その上で、マーケティング施策は自分たちで考えなければいけない、というのが僕の持論だ。日本でマーケティングが未完成の時代は、広告代理店、エージェントに知識と人材が集約していた。だから、20世紀の高度成長期はエージェントありきで企業の様々な取り組みがあったと思う。

     

     

    だけど、現在のような低成長時代はアイデアまでお願いしたらダメだと思う。クリエイティブを考える脳味噌まで外に頼んだらいけないんじゃないか、と僕は思うんです。マーケティングの取り組みの例は後に話すけど、僕は広告代理店を創業したり、いろんなキャリアを積んできた。だからこそ、エージェントに依存せずに自分でマーケティング戦略、施策を考えていけると思うのです。

  • この仕事ってむずかしい?楽しいことは?

  • この仕事って、CMOという立場って、すごくワクワクするんだよ。なぜワクワクする仕事なのかって? 「築地一号店物語」というCMを作ったときのエピソードで説明しますね。

     

    築地市場の移転に伴って、吉野家の一号店が幕を閉じることになった。せっかくだから吉野家らしいCMを作ろう。クリエイターたちと考えたのが「昭和レトロの世界観を描いてくれる監督に撮ってもらおう」ということ。そこで挙がったのが『ALWAYS 三丁目の夕日』を手がけた山崎貴監督。そして、昭和レトロと現代をつなぐキャストとして菅田将暉くんに出てもらえないか、という案も出た。
    予算を考えたら、確固たる地位を築いている監督にお願いはできないよね。菅田将暉くんにオファーはできないよね……エージェンシーに頼る20世紀型のマーケティングなら、そこで考えは止まってしまうんだ。

     


    結果はどうだったか? 山崎監督は吉野家のロマンに乗ってくれた。そして、山崎監督が菅田くんを口説いたら、二つ返事で出てくれた。エージェントが聞いたら「そんな禁じ手、やらないでくださいよ」って怒り出すでしょう。

     

    だけど、最高だと思うものがあったら、古いしきたりや組織の壁を壊して、ビジョンを達成するためのストーリーを考えていく。考えるのはタダですからね(笑)。だから、僕は妄想マーケターと自称してるんだ。この低成長時代だからこそ、アイデアをジャンプさせなきゃいけない。そして、そのジャンプしたアイデアは妄想からしか生まれないんだ。

     

    今もね、映画『銀魂』を手がける福田雄一監督にCMを撮ってもらっている。福田監督はCMを撮ったことがなかったから、普通に考えたら無理な話だと思う。だけど、僕はビジョンを設計して、それに必要だと思ったら、臆することなく直電するんだ。誰それの人脈を伝って……なんて考えるのは20世紀型のマーケティング。21世紀型はもっとスピード感が必要。結果、「牛丼は吉野家以外に浮気したことない」という福田監督も意気に感じて、監督を受けてくれた。

     


    ビジョンをしっかり設計できたら、ジャンプしたアイデアも妄想も、ちゃんと形にできるんです。人に頼らずに勇気を持って直電した結果だけどね……ほら、CMOって、すごくワクワクするでしょ?

  • 例えば、この1週間はどんなことをしていたの?

  • 上海に出張に行ってました。現地のグループ会社の吉野家(中国)投資有限公司でマーケティング会議に参加してきたんだ。中国全土に吉野家の店舗は500店舗ほどある。本社のCMOとして、今後の戦略に関する情報交換をしてきた。しかし、中国の街で進むIT化には目を見張るものがありました。手を上げてタクシーを止める人なんていないし、フードのデリバリーも電話する人なんていない。すべてスマホで、ワンストップで行われている。


    日本のニュースでもスマホ決済などが取り上げられるけど、実際に目で見て体験するとまったく違いますね。あのスターバックスですら、新業態はシアトルの次に上海に出店するというのもうなずけたね。
    帰国後は年間販促キャンペーンの戦略を立てたり、デジタル関係で吉野家全体のデータベースプラットフォームの設計を行ったり。

     

     

    そうそう、吉野家ファンの陶芸作家さんとテイクアウト容器の打ち合わせもやったな。今、吉野家はいろんな企業や文化人と共創を進めているんだけど、その仕込みも僕が自分で企業や文化人に電話をかけ、企画書を持っていっているんだ。「企画を持ちかけたんですが、うまくいきませんでした」という人がいるけど、それはそこまでの熱量だった、ということ。僕は自分で電話をかけて、あきらめないであがき続ける。CMOだからアポを人に任せる、ということはしないんだ。

  • どうしてCMOになれたの?

  • 僕が広告代理店を経営していた十数年前のこと。ある外食企業に飛び込み営業をかけた。飛び込みといっても、その会社を研究して、マーケティングに関する提案ができるぐらいまで考え抜いていたんだ。
    そうしたら、その会社の経営企画室長が「うちの広告を任せるから、全部やってくれ」と言ってくれて、顧問契約を交わすことになった。その会社は吉野家ホールディングスグループの一員である「はなまるうどん」(株式会社はなまる)で、経営企画室長が今の吉野家ホールディングスの河村泰貴社長だ。

     

    河村社長との御縁から吉野家のCMOを務めることになったんだけど、はなまる時代に僕が河村社長から与えられたミッションは「予算はないけど売上を上げてほしい」というものだった(笑)。予算がないならどうするかな。あきらめる? 低予算で何とかする? 僕は、当時付き合っていたスタークリエイターたちに「予算はこれだけしかないけど、面白いことをやりたいんだ」と頭を下げて頼んだんだ。

     

    そこで出来上がったのが「まるごとダイオウイカ天を発売する!」というエイプリルフール企画だ。ネタが拡散してバズっただけじゃなくて、しっかり店の売上にもつながった。店舗によっては400%の売上増につながったところもあったほどだ。NHK特集で話題になったダイオウイカを見かけてネタにしたんだけど、クリエイターたちは本気になってくれた。撮り下ろす予算がないから、デザイナーが自ら日本海に行き、フンドシ一丁で写真を撮ってくれた。そんな作り手の熱量が面白さにつながったと思うんだよね。

     

     

    ここまでスタッフが意気に感じてくれたのは、きちんとビジョンを提示できたから、予算がなくても最高のクリエイティブを作りたい、という志があったから。予算がないなりにどうやってブレイクさせようか全精力を傾けたからだと思う。予算がないなら脳味噌を使え! ビジョンをしっかり提示しろ。僕の持論は、こうして出来上がってきたんだ。

  • これまでのキャリアでターニングポイントになった経験があったら教えて!

  • 多聞くんは知らないかな? 国内はもとよりアジアなどにチェーンを広げた「ヤオハン」というスーパーがあった。僕が最初に就職した会社なんだけど、在籍時は今で言うダイバーシティの走りを体感したね。何といっても部下の全員が外国人、全員が女性、全員が年上ということもあった。だから、「○○は部下がやるもの」「女性だから○○」といった既成概念は一切ない。できる人が、やれることをやる。そんなシンプルなルールが身についているんだ。

     

    そして、ターニングポイントになったのは、そうして勤めていたヤオハンが倒産したことだ。上場企業が無くなるなんて概念になかったので倒産して初めて気づいたことは、会社に籍さえ置いていたら給料は天から振ってくる――そんな風に思っていた概念が根底からくつがえった。それまでの仕組みは決して安泰じゃないし、何かに依存していてはやっていけない。自分の脳をフル回転させ、あらゆることに取り組んでいかなくちゃいけない。今のCMOの活動につながる気づきがあったんだ。

     

     

    もう一つ、ある研究所でコミュニケーション、広告、マーケティングを研究していた時にもターニングポイントがあった。


    当時、CS:カスタマーサティスファクション(顧客満足)がキーワードとして注目されていたんだけど、様々な企業の事例を研究し、CSの前にES:エンプロイーサティスファクション(従業員満足)も欠かせないんじゃないか、という結論に達した。ハーバード大やスタンフォード大から同様の論文が発表されていて、我が意を得たりと思った。それは、コミュニケーションや広告は従業員のために半分があって、顧客のためにもう半分がある――僕が考える50/50の理論だ。

     

    先日、ソフトバンクとタイアップした「SUPER FRIDAY」の企画では4日間で数百万人ものお客様がいらっしゃった。渋滞や大行列がニュースにもなったけど、国内の吉野家1200店舗がきっちりオペレーションできたのは、同じ方向を向いて業務をこなせたから。スタッフにもこのキャンペーンの意義を理解してもらったから、凄まじい数のお客様にサービスできたんだ。社内にしっかり周知、理解を得なければ、顧客に向けた施策も打てない、ということです。
    会社が潰れるという経験と、研究を通して得た50/50の理論――それがターニングポイントだし、今の僕の血肉になっていると思うね。

  • 今、気になってるヒト、モノ、コトは?

  • めちゃくちゃ気になって、動向をウォッチしているのが「P&Gマフィア」の人たちだね。マフィアというとちょっとヤバそうだけど(笑)。そんな物騒な話じゃない。P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)の出身で、ビジネスで大活躍している人たちのことだ。

     

    たとえば、USJをV字回復させたことで知られる森岡毅さん、Facebook Japan社長の長谷川晋さん、日本コカ・コーラ副社長の和佐高志さん、日本マクドナルドでマーケティング本部長をされている足立光さん、スマートニュース執行役員マーケティング担当の西口一希さん、吉野家戦略顧問の伊東正明さん……みんな、P&Gの出身なんだ。

     


    P&Gでは、入社してすぐ売上の責任、そしてプランニングを任されるという。いきなり最前線に回されてサバイバルした人材だけが米国本社へ行くことができる。まさにエリート中のエリートだから、目覚ましい成果を上げるのも当然かもしれない。

     

    そんなP&Gマフィアの面々とは個人的にも面識があって、いろいろと意見交換をすることもあるんだけど、彼らが言うのは「ビジネスで大事なのはコミュニケーションを設計していくこと」、ということだ。これは10年来の僕の持論でもあったから、大いに共感しているね。

  • これからの未来をどうおもしろくしようとしてるの?

  • 世の中のトレンドを洞察し、マーケティングの力で世の中を豊かに、幸せにしたい――その結果、「吉野家を世界一にしたい」と思っています。

     

    どの領域で世界一を目指すかって? 「外食業界で世界一」と言うのが分かりやすいと思うけど、これからの時代はそんな単純にはいかないと思う。たとえば、中国では無人のスーパーも出てきている。今後、無人の外食サービスもきっと出てくるだろう。外食という概念が揺らいでいく中、もっと大きな視点で考えていかなきゃいけないと思うんだ。

     

     

    来年、2019年で吉野家は創業120週年を迎える。創業したのは料亭の職人で、高級な料理を食べ残されるのがもったいない……そんな思いから、安く、おいしい料理を大衆に提供したい、と牛鍋屋を始めたんだって。それがこの会社の原点。その原点から、安心・安全な食を大衆に届けきた120年がある。


    だから、飲食店以外のサービスを提供しても吉野家ブランド=安心・安全と思ってもらえるんじゃないかな。120年の歴史を大切にしながら、未来のビジョンに向けてクリエイティブを作っていく。それはすべてマーケティング活動だ。その中に、CMOとしての僕の活動があると思っているね。

  • 趣味や好きなことはなんですか?

  • ジムでのトレーニングにハマっています!
    僕は学生時代にはラグビーに夢中。そう、バリバリのラガーマンだったんだ。ただ、この30年ほど体を動かす機会もなく、運動に関しては怠惰な生活を送ってきていたんだです。
    だけど、最近「人生100年時代」って言われるでしょ? 僕は90歳までバリバリ現役で働きたい。そのためには、ガタがきている体じゃまずい……ということで、体幹のトレーニングを始めたら、すっかりハマってしまったというわけだ。

     

     

    そして、多聞くんと同じぐらいかな? 中学生、高校生の子供がいるんだけど、その子どもたちと触れ合う時間、子育ても大なひとときだ。


    仕事で忙しいのによくそんな時間が取れるね? って言われるけど、僕にとっては一日の24時間が仕事だし、24時間がプライベート。なぜなら、私の仕事の定義が、“マーケティングで世の中を豊かに幸せにする”ことだから、僕が進みたい道、やりたいことのすべては仕事、プライベートに密接に関わっているから。僕にとっては活動のすべてが仕事だし、活動のすべてがプライベート、とも言えるんだ。

(多聞くん)

ありがとうございました!
とっても参考になりました♪
これからも頑張ってください!

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プロフィール
田中 安人

田中 安人 たなか やすひと

(株)吉野家 CMO

株式会社グリッド 代表取締役社長。大学卒業後、ヤオハン・ジャパンに入社。経営企画に携わる。ヤオハン倒産後に広告制作会社の在籍、広告代理店の起業を経て株式会社グリッド設立。吉野家ではCMOとしてマーケティングの統括を担当しつつ、コミニュケーションコンサルタントとして、マーケティング領域で多数の業種、業界をコンサルティング。公益財団法人日本スポーツ協会スポーツ広報委員として、日本におけるスポーツの未来設計も担う。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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