“Withコロナ時代の食生活”、追い風となるか。 ユーグレナ食品・新ブランディング戦略
2005年に設立された株式会社ユーグレナ。
バイオ燃料開発などの新規事業や最先端の研究知見、また、18歳以下のCFO(Chief Future Ofiicer)採用など話題に事欠かない同社だが、忘れていないだろうか?
「ユーグレナは飲み物です。(そして食べ物です。)」
今年はユーグレナ社のヘルスケア事業部が展開する食品ブランド、その中でも“摂取方法”としては王道中の王道、ドリンクブランドの大刷新が行われる。そのリブランディングに関して、同社のリーディングブランド部の部長に聞く。
ユーグレナがどう“ロマンな食材”なのかのおさらい
「ユーグレナ」が社名を指す“固有名詞”であり、ユーグレナ社独自の素材だと認識している人も多いかもしれないが、誤認なさらず。
ユーグレナ、和名「ミドリムシ」は生物の名前でもあり、ユーグレナを乾燥・加工した食品素材を現す“普通名詞”でもあり、ユーグレナの養殖・加工・販売を行う競合企業も存在する。
ユーグレナ(出典:株式会社ユーグレナ)
ユーグレナは、藻の一種で、葉緑素を持ち光合成をする植物でもあり、かつ、自身で光合成のための日光を求めて移動する機能を持つ、動物という側面もあるがゆえ、地球上の生き物としても最多級である59種類と驚異的な栄養素を含むスーパーフード中のスーパーフードだ。「植物なのにタンパク質豊富、動物なのに食物繊維がいっぱい」、といえばわかりやすいだろうか。
出典:株式会社ユーグレナ ホームページ
創業者の出雲社長は学生時代に訪れたバングラデッシュで、米の自給率は高いが、カレーや米を肉・魚・野菜という生鮮食品を調達できないゆえに「おかずなし」でしか食べられない結果、栄養失調に陥ってしまうという食事情を目のあたりにした。「1食品で包括的な栄養を、しかも生食ではなく保存できるものにして届けたい」という想いから、周囲への熱心な情報収集の末、見出されたのがユーグレナだ。
ユーグレナは、食物連鎖の最下層に位置し、またその栄養価の高さゆえにバクテリアやプランクトン、昆虫などにとってのエサで、クリーンな環境で培養しても、外部から他の微生物がわずかでも侵入すれば、たちまち食べ尽くされてしまう。その壁を「ユーグレナ以外は生息できない環境をつくる」という逆転の発想で乗り越えたユーグレナ社は、2005年12月に、ユーグレナの屋外大量培養に世界で初めて成功した。
ユーグレナ社におけるヘルスケア事業のポジション
ユーグレナでは、バイオ燃料事業、ヘルスケア事業、ソーシャルビジネスを展開し、それぞれの事業領域における社会課題の解決を目指す。
そのなかでヘルスケア事業は、もっとも生活者に近い位置にあり、『人と地球を健康に』という経営理念を、毎日摂取するもの(食品)、塗布するもの(化粧品)を通して体現できる事業領域として重要視されている。
商品を通じてユーグレナ社を知ることで、同社の目指す健康寿命の延伸や気候変動対策などのSDGsを自分事として捉えていただけるきっかけにしたいという願いも込められる。
旧来の自社ドリンク商品は、“がっつり通販”ブランド風
「ユーグレナの緑汁」「飲むミドリムシ」
主に自社通販サイトにおいて食品や化粧品など幅広く販売を拡大してきた同社の中でも、ミルクや豆乳、水で溶いて飲める粉末状のユーグレナ、及び、そのまま飲めるユーグレナドリンクはユーグレナの栄養素の恩恵を“そのまま”届けられる主力製品の1つでもある。
従来の販路は、健康感度の高い消費者へターゲティングした通販、及び一部のスーパーマーケット等。
粉末状のドリンクの製品は、以前から消費者の認知度の高かった「青汁」と同カテゴリーとして手に取ってやすくするため「緑汁(みどりじる)」というネーミングで、ポジティブな意味での「いかにも効きそう」な通販ドリンク系のブランディングを行っていた。
また、液状のそのまま飲めるドリンクも、「緑汁」のトンマナを踏襲した「飲むミドリムシ」(以後、「飲むユーグレナ」に変更)という、直球“成分がっつり”アピールなネーミングであった。
しかしこの春から、大手スーパーマーケットやドラッグストアなど一般流通への販路拡大とともに、これらドリンク製品の「マスブランド」としての大刷新をはかっていく。
出典:株式会社ユーグレナ
本年3月より、順次入れ替えがはかられている新ブランド名は「からだにユーグレナ」
パッケージも白地にグリーンのドットと可愛らしく、モダンで親しみやすいイメージ。
同社リーディングブランド部部長に、新ブランドのコンセプトを伺った。
「からだにユーグレナ」ブランドは、健康意識の高い女性やビジネスパーソン、お子さまのいるファミリー層、健康を維持したいシニア層に向けて、「からだの根本から健康のベースを高める」ことを提案する新しいアプローチ(ポジション)のブランドです。
石垣島ユーグレナは弊社が2005年に世界で初めて屋外大量培養に成功以来、健康食品等に活用されておりますが、同時に機能性研究を進めるなかで次々と健康に関するメリットが解明されてきています。
そのなかでも今回特に、栄養豊富なだけでなく、睡眠の質向上、ストレス緩和、免疫機能が高まることがヒト試験で確認されました。
世の中には様々な優れた健康食品・素材がありますが、『1つでこんなにもパワフルなスーパーフードはないのではないか、この機能を一部の健康意識の高い方だけではなく一人でも多くの方に届けたい』と考えています。」
出典:株式会社ユーグレナ
左の旧ブランディングは“健食感”で確かな効果を感じさせる。右のドットの新ブランディングは、スーパーマーケットの棚でもぱっと視線を集め、トータルなヘルスサポートをしてくれる商品であることが伝わる。
ブランドリニューアルにあたっての課題は?
リニューアルにおける課題は、「便益認知」であった。調査で明らかになったのは、ユーグレナを『知らない、もしくは、聞いたことはあるけど何に良いか分からない』という声の多さ。
「便益が多くあるという強みが、戦略上では逆に弱みになってしまっていて、『色々出来るけど一番の強みが分からない』という状態を招いてしまっていました。
“お客さまが求めている”且つ“ユーグレナの強みが生かせる”ことを原点に立ち返って洗い出し、対症療法的アプローチではなく、そもそも不調を招かない、“体の根本から健康のベースを高めること”を強みとして定義しました。栄養補給や、短期的なブースト剤とも違う、長期的視点で健康を底上げする新しいアプローチです。」
RTBを強固にするために、ユーグレナの考える健康の定義を下記のように再設定し、「からだにユーグレナサイクル」と名付けたそう。
「不調が顕在化するのは、“栄養が不足する→疲れやすくなる→免疫が低下する”という負のスパイラルに陥っているから。ユーグレナはこの負のスパイラルを正のスパイラルに変えることができます。それが、“つくる・はたらく・まもる”の【からだにユーグレナサイクル】です。
これを1つで叶えてしまうのが「からだにユーグレナ」の強みであり独自性です。」
出典:株式会社ユーグレナ
ユーグレナ社はビジネスを通じて社会課題を解決することを志しておりますが、そのなかでヘルスケア事業は何を成すべきか、何が出来るのかを模索していました。健康に関する社会課題と言えば、昨今「健康寿命の延伸」が重要なテーマとして挙げられてきました。
健康寿命を延ばすためにも、正しく免疫が働く強い身体を作るためにも、幼少期からの栄養バランスが重要ですし、睡眠、ストレス、免疫など、対症療法ではなく健康のベースとなるものをしっかりと築くことが重要です。
それはまさに、日々機能性研究で明らかになってきているユーグレナのポテンシャルと合致すると考えています。
ポップに大幅に刷新されたパッケージ。
どんな視点で刷新を?
「『健康食品』というカテゴリーになると、摂取率は20%を切ります。
一部の健康意識の高い方だけでなく、より広い方々に手に取っていただき、取り入れていただきやすいブランドを目指し、デザインに反映しました。
パッケージデザインは、デザインがハードルにならないことを配慮しつつ、『からだの根本から元気になる』というコンセプトを伝えるため、人の体は37兆もの細胞からできていることに着目。湧き上がるような細胞の力をドットで表現し、店頭でデザインが同質化しないよう考え抜きました。
但し、まだブランドとして完成されていません。『一人でも多くの方へ』ということを実現するために、今後、価格、味、チャネルはもっと強化していかなければならないと考えています。」
今後の販売戦略とプロモーション戦略は?
「ひとりでも多くの方に手軽に・気軽に健康手段を提供したいと考えていますので、販路は毎日接点を持つスーパーやGMSでも積極的に拡大していきたいですし、ECも強化していきたいと考えています。
また、課題である『便益認知』を高めていくことを目的に、TVCM投下(エリアは限ります)やPRなども積極的に実施予定です。」
ユーグレナのヘルスケア事業が今後目指すものは?
「『健康寿命を延ばすこと』を目指した提案をし続け、『健康のニュースタンダード』となりたいです。
健康寿命というと年配の方向けのように聞こえてしまいますが、子供時代の健康格差が将来的な寿命と健康寿命の差を招くことが指摘されていますので、年代関係なく、一人でも多くの方の健康不安を、気軽に・手軽に払拭し、やりたいことに思い切りチャレンジできる社会を後押ししていきたいです。
また、新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大という事態に直面し、人々の日々の健康と食生活への意識が底上げされたのも明らかだと思います。
『健康の大切さを改めて感じた』、『食生活や生活習慣の改善など、根本的な健康の改善につながる行動をとるようになった』という方は多く、何かあってからではなく健康な身体をベースから作ることへの関心がより強まってくると予想しています。そういった方にベストなソリューションを提供していきたいと考えています。
さらに、まだ若い会社ですが、『ファクトにしっかり基づいた商品開発』に重点を置き、『安心・安全』な健康手段を届けていきたいと考えていますし、バイオ燃料を手掛けているユーグレナらしい環境配慮型の商品開発にもチャレンジしていきたいと考えています。」