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「ツール×人」で新たな仕組みを作り出す
MAツール「KAIGAN」をリリースし、中小企業のBtoBマーケティング支援事業を手がけるタクセル株式会社。KAIGANはツール使用料金を無料化し、MAアシスタントによる運用代行をリーズナブルな価格で提供。中小企業のBtoBマーケティングというブルーオーシャンを切り拓くとともに、地方在住者に向けてMAアシスタントという新たな職を創出する。そんなタクセル株式会社の代表取締役・田中亮大さんの企みをお聞きする。
写真=三輪憲亮
20代半ばにして、 モチベーション開発プログラムで日本一のセールスを記録。その後、のちに日本最大となる経営者動画メディア「日本の社長.tv」を展開する株式会社ディーノシステムに、役員として参画し全国展開の営業統括を行った。
「本とCDの販売事業が軌道に乗ってからは、楽しく過ごしていました。そんな時に友人から『そんなことをいつまでやっているんだ。もっと社会にインパクトを与える仕事を一緒にやろう』と誘われて入社しました。でも入ったら、二つの点で驚きました。まず一つは、日本の社長.tvのポテンシャルの高さ。以前売っていたCDと本の120万円のセットと比べたら、こんなに売りやすいものはないと感じたこと。もう一つは、こんな売りやすい商品を売ることに苦労していたこと。それがなぜ、こんなに売れていないのだろう? 正直そう思いました。
調べてみたら、理由は簡単。名刺やアポイントのリストは営業マンごとに属人的に管理されていて、社内で共有されていない。そして、一度アポが成立しなかった社長さんに対する追客も行っていなかった。もっと言えばそもそも、もらった名刺をほったらかしてデータ化していなかった。結局、日本のほとんどの会社の現状は、このようなレベルなんですね」
当時は、インサイドセールスとか、マーケティングオートメーションとかいう言葉知らなかったですが、振り返ると、まさに、インサイドセールス、マーケティングオートメーションを実施し、福岡から非対面で全国の開拓を行っていった。
「まずはインターネットをクローリングし、コーポレートサイトを持つあらゆる会社をリサーチしました。すると、まともに活動している会社のサイトが60万件ほどありました。そこで、その会社の問い合わせ先メールアドレスに情報を送り、時にはファックスをし、反応があった会社に電話。反応がない会社には定期的に情報発信。それを仕組み化し、データを管理していきました。要は以前と同じやり方です」
営業統括役員として全国展開を指揮し、参画から2年あまりで約5000社の新規開拓に成功。その後、ディーノシステムの元社長とともにインサイドセールス用のWeb会議システムを開発、販売するベルフェイスという会社を立ち上げた。
「僕はベルフェイスの副社長後に、販売会社の社長になりました。僕らは完全なインサイドセールスのプロ集団。前職での実績としっかりしたノウハウがありましたので、ベルフェイスの販売拡大にそれほど苦労はありませんでした。立ち上げから有名企業への販売が続々と決まり、すぐに約200社に導入していただきました」
急成長するスタートアップでのビジネスはとても刺激的だった。「世界を変えたい」という志のもと、時には寝食を忘れ、夢中になって働いた。そんな時に結婚し、子どもが生まれたことで仕事、そして生き方に対する価値観が激変した。
「おそらく僕が世界を変える前に、子どもは成人してしまう。まずは身近な人を大切にしたい。子どもを幸せにしたい。大事な成長期を一緒に過ごしたい。そんな気持ちが強くなりました。そこで発想を大きく転換。新しい働き方を模索するようになりました。これは本当に大きかったです」
場所にとらわれない、新しい働き方を生み出したい。そのための具体的なアクションを起こすには、まず自分自身が時間の使い方を変えた。そして、これまで培ってきたインサイドセールスのノウハウを上手く活用すれば、リモートワークの新しい雇用が生まれ、それを地方でも展開できると思った。
「時間と場所の両方にとらわれない働き方ができれば最高ですが、それができるのは一部の限られた人だけ。実際はなかなか難しいと思います。でも、場所だけにとらわれない働き方であれば、一般の人でも実現できる。そこで、リモートワークを駆使しインサイドセールスの代行事業を、自分が代表を務めるべルフェイスの販売会社で始めました。
僕らは日本の会社の働き方を変えていきたいし、僕らがやっていることは必ず、IT業界における次のビジネスモデルになる、という確信がありました。でも場所にとらわれない働き方を推進していくと、会社の企業風土、事業ドメインが変わってくる。いわば経営方針の大きな転換となるため、ベルフェイスという箱を変えようと考え、新たに自分でタクセルを設立したわけです」
こうして確立されたタクセルのスキーム。MAツール「KAIGAN」の導入とともにMAアシスタントによるインサイドセールスの運用代行サービスを提供し、リード(見込み客)の創出・育成・管理を行う。そして同時に、MAアシスタントによるリモートワークの職域を広げていく。
「多くのB to B型の中小企業にとって、まだまだMAツールの導入で手いっぱいという面が大きい。でも本来、大事なのは運用であり、求められるのは営業センス。気合と根性で頑張っている人だからこそ、ツールを使いこなせる資質がある。やはりコミュニケーションは、人にしかできないことですから。だからこそ、彼らに新しいやり方を伝えていきたいと考えています。
そしてMAアシスタントの職域を広げ、リモートワークで働く人をもっと増やしていきたい。具体的にはプランニングができる人、コンテンツが作れる人、システム設計ができる人。彼らがリモートワークからスキルアップしていく状況を、早く作り上げたいです」
そのために大事なのは、KAIGAN導入企業をもっと増やすこと。それがMAアシスタントの経験値を上げ、彼らのキャリアアップにつながる。そしてこのサイクルを上手く回すことで、次世代のマーケターを育てていく。それが田中さんの「企み」だ。
1985年山口県出身。大学卒業後、外資系製薬企業に入社するも2009年に独立。アメリカの能力開発プログラムの販売員として独立。プッシュ型セールスを行わない独自のマーケティング手法で日本一の販売実績を挙げる。
2011年に日本最大の経営者動画メディア「社長.tv」を運営する福岡のベンチャー企業に役員として参画。インサイドセールスにて、5000社以上のクライアントを新規開拓する。
2015年には、インサイドセールス専用ウェブ会議システム「ベルフェイス」の開発会社を共同設立。販売会社の社長に就任。
2016年にタクセル株式会社を設立。MAツール「KAIGAN」をリリースし、中小企業のBtoBマーケティングとセールスの支援を行う。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです