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ぼんやりとしたものが、輪郭を帯びていく瞬間が面白い
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ぼんやりとしたものが、輪郭を帯びていく瞬間が面白い
ソーシャルメディア全盛の今、消費者の声を拾えるツールが増え、マーケティングリサーチの役割は変わりつつある。今後、マーケティングリサーチはどのように変わっていくのだろうか。2014年の上場廃止から3年。今年3月に再上場を果たしたマーケティングリサーチ会社・マクロミルの西部君隆さんに、今回はお話をうかがっていく。
写真=矢郷桃
西部さんは最近の消費行動の傾向を分析し「価格に関するシビアな行動が減ってきている」と語る。
「しばらく前までは、一にも二にも価格、という感じでした。とにかく安いものを、という考えですね。でも最近は『多少高くても…』という消費者が増えている気がしています。これは経済環境とほぼ一致している感じですね。いいものにはお金をかけてもいい、と皆さん考えている。その一方で、出費を徹底的に絞るカテゴリーもある。個人の中での二極化が起きていることはすごく感じます。『倹約するけれど、使うところには使う』という傾向が、今は顕著になっています」
そんな西部さんにとってのマーケティング。それは「モノが自然と売れる状況を作ること」であるという。
「それができれば理想的です。そのためにリサーチをして、モノを買ってくれる人を理解することが、私達の仕事なのかなと。
個人的に一番興味があるのは、やはり消費のメカニズムです。
お店にAという商品とBという商品が並んでいて、Aを買った人に『なぜBでなくAを買ったのですか?』と質問することはできます。でも、それを理屈で正しく説明できる人はたぶんいない。たまたま利き手の前にあっただけかもしれないし。違うかもしれない。でも、きっと潜在的な理由が何かある。それを解明することはリサーチャーの永遠のテーマですし、今も昔も一番の関心事です。
買った商品がAかBかは、荷物を持たずに空いている手が左右どちらかによるかもしれないし、店内で『蛍の光』が流れている時と『ロッキーのテーマ』が流れている時では、消費行動が変わってくるようです」
デジタルマーケティングの活用が注目を浴びている昨今だが、マーケティングの原点に立ち戻り、感性の重要性も改めて認識しておきたいところだ。
「これからデジタルがもっと身近になったとしても、例えばにおいや味覚に関するインタビューやアンケート調査はきっとなくならない。どんなにおいか、食べてみて、飲んでみてどうか、という感性を磨くことは、リサーチャーの一つの差別化要素としてあるのではないかと思っています」
西部さん自身としては、今後どういったキャリアを築いていこうと考えているのか。
「今は一人のリサーチャーであると同時に管理職でもありますから、まずは組織をよりよくする。みんなが楽しく仕事できて、長く働きたくなる会社にする。そのためには売上をもっと上げたいし、人をもっと採用したい。でも、そればかりではダメ。僕はやはりリサーチャーの仕事が好きなんですよ。マネジメントだけでなく、まだまだリサーチャーとしてのスキルも上げていきたい。
僕がこの仕事で一番楽しいと思うタイミングが、どこかぼんやりとしたものが次第に輪郭を帯びていく時。それが『これは思ってた通りだ!』となるか『あれ?こうだったのか』となるか。その瞬間が面白い。仮説を立てて検証していくことの繰り返しの作業が、次第に形になっていくのが、一番楽しい。そして、そのリサーチ結果によってクライアントのビジネスがドライブするのなら、それほどうれしいことはない」
リサーチの仕事に向いているのは好奇心が強い人。何事にも前のめりになって、どんどん疑問を解明していける人。きちんと論理で話を組み立てられる人。それが適した人材だと考えている。
「調査というと、昔は地味で暗くて、堅いイメージがありました。僕もこの業界に入る時はそう思っていました。でも今はだいぶイメージが変わってきましたね。もしかすると、ウチの広報の成果かもしれません(笑)。
日本ではまだまだ、リサーチャーのプレゼンスが低いですよ。特に欧米では、日本よりはるかに高い評価を受けている仕事です。この仕事のステイタスをもっと底上げするのは、僕の夢でもあります。今後はテクノロジーの発達で、取得できるデータはさらに多様化していく。難易度は高いですが、この仕事はまだまだ面白くなると確信しています」
リサーチャーが提示するのは、あくまで「ファクト」。
クライアントの意思で変わるものではなく、調査会社が好き勝手にいじるものでもない。起きている事象を正しく分析し、数字の裏づけと説得力のあるしっかりしたファクトを出すことが一番大事で、クライアントが最も求めていることであるに違いない。
(終わり)