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「レンタル移籍」で「二刀流人材」を育てる
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「レンタル移籍」で「二刀流人材」を育てる
働き方が多様な形に変化しつつある今、新たなコンセプトとして話題になっているのが企業間の「レンタル移籍」。プロサッカー界にある、期限付きで選手を移籍させるこの移籍制度にヒントを得て起業したのが、ローンディールの原田未来さんだ。今月は人事関連サイト「日本の人事部」が主催する「HRアワード2016」人材開発・育成部門で優秀賞を受賞した原田さんの「企み」をうかがっていく。
文=前田成彦(Office221)/写真=三輪憲亮/撮影協力=PR TIMES
プロサッカーで活用されているレンタル移籍制度。これは、選手が所属クラブとの契約を保持したまま、期間を定めて他のクラブへ移籍するというもの。このシステムにヒントを得て生まれた人材育成プラットフォームがローンディールだ。長期的な関係で育まれる組織と個人の絆と、流動化によって生まれる人材の創造性。この二つを両立させる、新たな働き方の仕組みを作ることが狙いだ。
「もっと簡単に言うと、出向プラットフォームですね。人を育てたいと考える企業が人を必要とする企業に人材を出向させ、経験を積ませることが目的です。今までは出向というと、資本関係のある会社の間で行われる印象がありますが、もっと多様な形です。
また出向という言葉には、まだまだマイナスイメージもあります。『片道切符の島流し』みたいなやつですね。そういった固定観念に引きずられたくないので、あえて『レンタル移籍』という言葉を使っている面もあります」
語るのは、株式会社ローンディール代表・原田未来さん。例えば、大手企業の社員が一定期間、ベンチャー企業に貸し出される。その経験はおそらく、事業開発の現場を経験する素晴らしい機会となるに違いない。ベンチャーという、変動性と不確実性の高い環境。それを理解し、その中で結果を追求する。その経験は、大手企業の仕事でも確実に生かされるはずだ。
「今は主に、新規事業の担当者やリーダー候補として期待される人材の育成にご活用いただいています。受け入れ先は、ベンチャー企業を中心に100社以上。その中から、人材育成に最適な企業の情報を提供します。職種は事業開発やエンジニアなど幅広く対応しており、レンタル期間も3カ月~12カ月で週3日勤務からと、柔軟に設計できます」
ビジネスモデルとしては、まず、使用料など初期費用は無料。受け入れ企業はレンタル移籍期間中、一人当たり毎月10万円を支払う。そしてレンタル移籍させた人材の人件費は、貸し出した企業の負担となる。
「ローンディールに掲載される新しいプロジェクトの情報をSNSなどからチェックいただき、エントリーする形になっています。貸し出す側の企業は、レンタル移籍期間中に取り組む業務内容を事前に設計。プロジェクトを通じてどんな成長を期待できるかを明確にします。そして人材のケアとして、レンタル期間中にメンタリングを実施し、レポート作成などを行い、期間中の経験を言語化。再現性を高めていきます。」
現在、最も多いケースは、大手企業からベンチャー企業へのレンタルだ。
「今は、大手さんが新しいことをする必要性に直面している。ですから、まずはそこにアプローチすることが多いですね。大手では学べないものは何か。その要素は、ベンチャー企業の中に最も豊富にあるのではないか、と考えています」
では実際に、1人の人材がレンタル移籍に至るまでのプロセスはどのようになっているのか。
「まずは、貸し出す側の企業の人事部門や事業部門で決めていただきます。そこから人選を行い、行き先を選んでいきます。人選は『行ってこい』と指名する場合と、社内公募をかける場合があります。僕らとしてはなるべく公募をかけ、意志のある人を選んでいきたいと思っていますが、そこは企業の考え方に合わせています。最も大事なのは、レンタル移籍させた人材が成長すること。ですから僕らも面談に同席して、キャラクターなどをしっかりと見定めた上で、誰をどこに貸し出すかのアドバイスを行います。
ピックアップした人材にどんな経験をさせるか。それは一人一人違います。もう少しマネジメントを経験させたい、もっと違う世界を見せてやりたいなど、さまざまなパターンがある。
ですから、育成方針から雰囲気まで含めた人材の特性までをしっかりと見させていただき、一人当たりに最大3社ぐらいに候補を絞ります。その上でレンタル先に面談に行っていただき、決定する。そんなプロセスです。
まだまだ実績が少ないのでマッチング率は申し上げられませんが、面接で不合格となるケースもそれなりにあります。やはり、受け入れ側も本気で選んでほしいですからね。『人件費をかけずに人が来てくれるなら、多少ダメでもいいや』という考えでは、いい経験になりません。ですから『もし合いそうもなければ、落としてもらって構いません』と言いますし、貸し出す人材にも、落とされる覚悟を持ってもらっています。あくまで、第一義は人材育成ですので」
従来の大手企業の人材育成は、年次に応じて研修を行うことが主体。そういった現行のアプローチだけでは、限界があると考えている。
「入社1年目はこの研修、3年目ぐらいでこの研修、管理職手前でこの研修という形ですと、同じようなタイプの人ばかりが生まれていく。画一的な、いわゆる昔の日本企業の人の育て方が悪いとは思いません。でも今の時代は、確実に別の要素も必要になってくる。それを補うのが企業間のレンタル移籍だと思います。
私が思うベストは、大手企業とベンチャーの『二刀流』。大企業の中で物事を進めていく力を持つ人が、ベンチャー的発想を身につければ強い。今はやりの言葉ですが、そういった二刀流が、今の日本には必要。もっとイントラプレナー(社内起業家)的人材を増やしていくことが、大事だと思います」
次回は受け入れ側のメリット、そして人材のケアについて、話を掘り下げていく。