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2020年、日本を沸かすマーケターに
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2020年、日本を沸かすマーケターに
バスクリン銭湯部の活動として、高橋さんが今後に向けて見据えていることは何なのだろう。
「歴史ある企業だからこそ生み出せる“ゼロから1”があると私は考えています。例えばその一つとして、バスクリンで銭湯を経営することができたら面白いですね。公衆浴場の中には、後継者がいないという理由で廃業するという銭湯も少なくありません。ウチであれば、これまでの銭湯の想いを伝承しながら、今の時代の新しいスタイルの銭湯を生み出すことができるかもしれない。そこで新商品のマーケティングを行ってもいいし、日本のお風呂の歴史をアーカイブで見られるようにしてもいい。外国人の旅行者が、日本の入浴文化にディープに触れられるような、日本の入浴文化の発信基地になったら、すごく面白いはず。
もう一つは、グローバル軸。日本のお風呂文化を海外に広めるため、草の根的に動いていきます。今取り組んでいるのが『HOT JAPAN』というプロジェクト。これは『日本のお風呂を、もっと世界に』とうたい、日本のお風呂文化のユネスコ無形文化遺産への登録を目指しています。2013年に和食が登録されたことは記憶に新しいですが、お風呂文化も同じぐらいの価値があると、僕は思っています。
外国人が観光で日本に来る理由で、第3位が温泉入浴(外国人旅行者のニーズ把握調査:国土交通省)です。つまり需要は多い。日本らしい文化ですから、温泉は各地方にたくさんある。東京には、銭湯が700箇所もある。銭湯は観光地化されていない場所も多いので、ディープな文化体験。温泉や銭湯を通じて、日本のお風呂文化について理解する大きなきっかけにしてもらえれば嬉しいです。」
ちなみにHOT JAPANの活動は、さまざまなお風呂に関係するメーカーがサポートしているという。
「例えばシャワーヘッドの会社さん、風呂のタイルの専門の会社さん、風呂板の製造メーカーなど、いろいろな会社さんが参加されています。
だから1社1社がどうのではなく、業界の垣根を越えて多くの会社、多くの人を巻き込んでいくことも、非常に重要。お風呂業界全体で、日本のお風呂の魅力を世界に伝えていく。それができれば、今後、市場はもっと大きくなる。
一つのメドとしてあるのが、2020年の東京オリンピック パラリンピック。間違いなく世界中からたくさんの方が来てくれるので、そこを目標に日本を『沸かしたい』と思います(笑)」
そして三つ目が、このバスクリン銭湯部の試みを、より多くの会社に広げていくことだ。
「バスクリン銭湯部で活動をしてみてわかったのが、お風呂好きはほとんどの会社に必ずいること。ですから、多くの会社で銭湯部が誕生したら面白いですね。また前回申し上げたような、コーヒーの飲料メーカーさんが『純喫茶部』を作るような試みも、もちろんいい。銭湯は、社員交流や社員の健康増進にもつながるので、会社の福利厚生にも合うと思います。
今、多くの会社が健康経営を意識しています。そこで銭湯部を作れば、社員はもっと健康になれる。そういった企業の取り組みをバスクリン銭湯部のコラムなどに載せれば、健康経営によるイメージアップのお手伝いもできる。特に、かつて僕がいたようなベンチャー企業の健康管理には、とても有効な手立てだと思います。」
バラエティで『銭湯大好き芸人』が特集されたり、銭湯をテーマにしたドラマや映画が話題となるなど、入浴することへの注目度は今、確実に上がっている。
「お風呂の楽しみ方が増えれば市場が広がるので、ウチの会社としても非常に喜ばしいこと。普段シャワーで済ませている人達がどんどんお風呂に入ってくれたら、入浴剤の良さを体感してもらえる機会も増えると思います。
確かに銭湯は、後継者不足、老朽化など、さまざまな理由があり減っていくものかもしれない。でも、必ずしもそれだけじゃない。例えば人と人をつなぐような、家のお風呂とは違う魅力がある。そして銭湯が流行した結果、みんなが家のお風呂に入らなくなるようなこともない。銭湯が好きな人は、お風呂自体がすごく好きな人だったりします。そういう方って自宅で入浴剤を使っている確率も、意外と高いんですよ。
新しい目線で、耕してみたら、このバスクリンという会社は宝の山。宝の知見がたくさん出てきます。だからこそ、この歴史ある会社が今まで積み重ねてきたものの魅力を、しっかりと伝えなくてはいけない。それが僕の使命だと思っているんです」
東京オリンピック パラリンピックまで3年半。日本のお風呂の魅力を引き出し、一人でも多く人に、銭湯やお風呂を体感してもらう。そして、日本を「沸かす」。これが、高橋さんの大きな夢だ。
(終わり)