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銭湯を、多くの人が世代を超えてつながり合える場所に

高橋 正和 たかはし まさかず さん (株)バスクリン

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Part.2

 

■「裸のつき合い」には不思議な力がある。


ちなみに高橋さんによると、お風呂の効能は3つあるという。

 

「まずは温熱作用。体を温めることでコリがほぐれ疲れが取れる。もう一つが水圧作用。体に水圧がかかることで足にたまった血液が押し戻され、血液の循環が促進される。そして、浮力作用。お風呂の中では、体重は浮力で地上の9分の1程度になります。日常生活において、人間の体には体重によって強い負担がかかっているのですが、それから解放されるので、脳もリラックスできるようです。お風呂に入っていると、いろいろなアイデアが浮かぶことってありませんか?これはまだ実証されてはいませんが、脳が負担から解放されるから、アイデアやヒントが生まれやすいのではないか、と推測されます」


日本の入浴文化を絶やしたくない。そんな思いの中で銭湯の減少を食い止めるには、どんなことができるのか。自ら都内の銭湯を巡りながら,高橋さんがまず考えたのは「発信の場」を探すことだった。

 

特に興味を持っていない人達や銭湯に行ったことない人達に、銭湯の魅力を伝えていきたいと思いました。そこで話を持ちかけたのが、「バスクリン銭湯部」とちょうど同じころに立ち上がった、『東京銭湯-TOKYO SENTO-』という、銭湯に特化したメディア。もともと、いろいろな銭湯を紹介するようなサイトはいくつもありますが、ちょっと古かったり、はじめての人にはポイントが分かりにくかったりします。銭湯がどんどん減っている現状を考えると、これまでと同じ伝え方ではダメだと思いました。

 

東京銭湯-TOKYO SENTO- Webサイト
東京銭湯-TOKYO SENTO- Webサイト

 

もっと違う形で、銭湯の本来の魅力を伝える場がほしい。そう考えた時、僕らと同世代のデザイナーの方が作っている『東京銭湯-TOKYO SENTO-』さんはぴったり。今までに伝わってない価値を伝えられると思いました。僕らにとっては貴重な場となりますし、銭湯のプラットフォームづくりをはじめた彼らにとっても、(株)バスクリンの若手の同志がいることはプラスになる。それぞれの相乗効果を考え、コラムの発信の場として選ばせていただきました。実際のところは、お風呂っていいよねという共感でつながったという感覚ですね。」


部活動として都内の銭湯を回りながら、コラムを書いていった高橋さん。幼いころからお風呂が好きで、夏でも毎日入浴。実家に帰れば父親や甥っ子と一緒に、中学時代から通い続ける銭湯へ。

 

銭湯へ行くと、普段、家ではできない会話ができるんです。例えば湯船に入りながら、母親にはしないような男二人だけの会話をするとか、銭湯でしか生まれない心のつながりがある。『裸のつき合い』には、不思議な力がありますよね。服を脱いでお互いが裸になれば、恥ずかしさがなくなる。どんなに外見を装っても、裸になればみんな一緒。お風呂に入っている時に出会った気さくなおっちゃんが、じつはあとで偉い社長さんだと分かることも(笑)。そんな風に、子供のころからの経験で、銭湯は人と人のつながりを作る場所だということはわかっていました。

例えば近所のおじいちゃんおばあちゃんが『あんた、どこから来たの?』とか、ベテランの番台さんが『また来たね』なんて声をかけてくれたり、小さな子供がちょっかいを出してきたりする。これも銭湯ならではですね。今の世の中で、人と人がつながる手段としてSNSは大きいけれど、生身の人間同士のつながりは確実に減っている。銭湯にはつながりを作る部分がまだまだ残っていますし、なくなることで、人と人のつながりも失ってしまうのはもったいないし、悲しいことです

 

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しかし、あらためて都内の銭湯を回ると、銭湯が減り続けている理由の深い部分が少しずつ見えてきた。

 

「銭湯が衰退している理由はいくつか推測されています。主に施設の老朽化や経営者の高齢化、家のお風呂が増えた、といったところですが、僕は、一番は銭湯が持つ“力“が発揮されなくなっていることだと思います。簡単に言えば今、つながりが生まれにくくなっている。どういうことかというと、今の銭湯はベテランの常連客がいる一方、新しい人がやや入りにくい状態になっているんですよ。しかも番台のおじちゃんは職人気質で、コミュニケーション下手な人が多かったりするのでなおさらのこと。

銭湯は本来、ベテランの人も新しい人も、いろいろな世代の人が集まってコミュニティを作っていました。でも今は、決まった人達同士のつながりしか生まれない場所になってしまっているような気がしました。僕は銭湯を、もっと世代を超えたいろいろな人がつながり合える場所にしたい、そのためにはどうすればいいのかを、ずっと考えていました。

 

■銭湯がどんどん『自分事』の場所になっていく。

 

 銭湯はどうしたら再び、人と人がつながり合う場所になれるのか。高橋さんが考えたのが、銭湯に図書館を掛け合わせるという取り組みだ。

 

「ヒントとなったのが、神戸の岡本商店街など、全国さまざまな場所で行われている『まちライブラリー』という取り組みでした。岡本商店街では町の図書館がなくなってしまい、美容院やカフェなど各店舗が『まちライブラリー』となって図書館にあった本を持ち合い、貸し出しています。場所によって、村上春樹さんの本だけを集めるなど特徴を出しており、そこにファンが集まるなど、人のつながりが生まれている。

お風呂にも本にも、人と人をつなぐ力がある。それなら本と銭湯を組み合わせたら面白いのではないか。常連が居座っている銭湯でも、本のもつつなぐ力を上手く借りたら、さまざまな人達がつながり合えるはず。そんな考えで昨年3月『銭湯ふろまちライブラリー』という企画を、世田谷区のそしがや温泉21さんと共同でスタートしました」

 

『まちライブラリー』の「みんなの感想カード」
『まちライブラリー』の「みんなの感想カード」

 

イベントに集まった多くの人が1冊の本を寄贈することで、銭湯の中に図書館を作る。そんな試みだ。

 

「家に長年眠っている本、本当に気に入っているお勧めの本など、持ってきた理由はさまざまですが『この空間に合いそう』とか『お風呂を出てから読んでもらいたい』といったように、皆さんよく考えて下さっていますね。このプロジェクトでは、寄贈する人が本の後ろに、この本をなぜ持ってきたか、などの思いを書いたメッセージカードを挟み、読んだ人はそこに感想を記せるようになっています。

銭湯とは通常、入浴して帰るもの。でもここでは、入浴して、出てきたら好きな本を読み、本を借りて帰り、また次に来るときに返してお風呂に入る。そして都度、本の感想を記す。それを繰り返すうちに、本棚が自分の居場所のきっかけになり、新しい人にとってもどんどん銭湯が『自分事』の場所になってくる。そして本を置いた人は、次にまた誰かに読んでほしいと思うし、借りた人も、次にどんな人が借りてどんな感想を持ったか、などが気になってくる。はじめて1年が経ち、実際に、待合スペースの雰囲気が変わり、小さい子ども連れのお客様が増えたり、新しいコミュニケーションが生まれている、そんな変化を感じています。

 

この試みは今後、もっと広げたいですね。そしがや温泉21については、オーナーさんに小さいお子さんがいるので、おのずと絵本など児童向けの本が増えていった。でも、これを他の銭湯でも展開すれば、またぜんぜん違った特色が出るかもしれない。2号店、3号店をはじめたいという声もでてきています。また、これらの取り組みを通じて、「バスクリン銭湯部」を応援してくれる人も徐々に増えてきており、ひいては弊社のファンが広がるという意味でも、これからがとても楽しみです」

 

 次回Part.3では高橋さんのこれまでのキャリア、そしてバスクリンという会社が持つ大きな可能性について、話を聞いていく。

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プロフィール
高橋 正和

高橋 正和 たかはし まさかず

(株)バスクリン

1986年千葉県出身。学生起業~ベンチャーでの経験を経て、2012年に株式会社バスクリン入社。ダイレクトマーケティング部に所属。
2015年4月に「バスクリン銭湯部」を立ち上げ、部長となる。温泉入浴指導員、スキンケアアドバイザー、サウナ・スパ健康アドバイザーなどの資格を保有。銭湯部の活動を通じて、日本の文化である「FURO」の魅力を伝えることに尽力する。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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