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「モノをサービスに変える」という考えを持つ

武下 真典 たけした まさのり さん (株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

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今、徐々に認知されつつあるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)という言葉。今や世界中に張り巡らされたインターネットは、パソコンのみならず、あらゆる"モノ"を通じた情報伝送路へと進化しつつある。急速なテクノロジーの発展により、かつてSF漫画に出てきたような未来社会が実現しつつある今、マーケターはIoTという新たな時代のうねりと、どのように向き合っていくべきなのか。今回は、さまざまなIoTインテグレーション事業を手がける株式会社エスキュービズム取締役・武下真典さんに、お話をうかがっていく。

文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮


Part.2

 

■大切なのは「メリットの試算」。

 

武下さんは「IoTを導入する際に大切なのは、クライアントのコストダウンなど、明確なメリットの試算ができているかどうか」だと語る。

「僕らはよく『案件化』という言葉を使うのですが、クライアントにとって明らかなメリットが出なければ、案件化しないわけです。いくら最新のテクノロジーを駆使したプロジェクトでも、メリットがなければ結局、役員や社長の決裁が下りない。

僕らがIoTに取り組んで2年ほど経ちますが、正直、日本の企業はどこも慎重になっている印象があります。確かに今、IoTという言葉は流行していますが、企業の経営部門や新規事業担当者の話を聞いていると、モノにセンサー付けるというイメージは持たれていますが、それがどうビジネスを変革するのかというシナリオまでたどり着いていない気がします。逆に言えば、IoTを活用することで実際に大きな収益を上げたり、大きなコストダウンになるビジネスモデルが考え出せればどの企業もすぐに投資するのではないかと思います。なので今はIoTを導入するメリットを試算できていないという課題があります。

 

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今の時代、ほとんどの企業には数多くの競合がいます。海外からは新しいサービスや業種がどんどん入ってきて、国内には既存の競合先の他、ベンチャーもたくさんいる。わかりやすい例で言えば、タクシー業界にはUber、ホテル業界にはAirbnbという黒船が来ている。国内でもシェアリングエコノミーの領域では駐車場予約のakippa、空きスペース活用の軒先.comといった、ベンチャーによるさまざまなサービスが台頭しつつある。海外から来るわ、ベンチャーは出てくるわで、競争が激化。やばいぞ、というのが企業の本音でしょう。

また、消費者がデジタル化している面も大きいです。みんながスマホを持っていて、モノとネットがつながり、企業は消費者のスマホとつながっている。消費者のデジタルリテラシーが上がっていて、彼らは価格ドットコムで検索して最安値で買ったり、オークションサイトを使う。買うよりも借りる。そうやってデジタル化する消費者に企業が追随しないと、競合に負けていく。そういう面でも『やらなきゃ感』は強い」

つまり企業=クライアントは、何らかの差別化をしたい。すでに業務オペレーションの改善などの努力はすませている。でも競合はどんどん入ってくるから、新しい光を見出したい、ということだ。

「そんな時にもってこいなのがIoT。使いようによっては爆発的なコストダウンになるし、海外の黒船もベンチャーもすべて蹴散らせるのではないか。その期待感を持った企業様からの問い合わせが増えています。そしてIoTのムーブメントに盛り上がっているけれど、多くの企業は、まだまだ導入メリットを試算しきれていない。例えば管理職から『IoTで何かやれ』という投げかけがあり、それに対して部下が『いやウチの製品にセンサー付けてもなあ…』『これをすると、既存事業とカニバっちゃうし…』と悩んでいる。今は簡単に言うと、そんな状況です」

 

IoT開発で大事な5つの条件とは
IoT開発で大事な5つの条件とは

 

とはいえIoTは、向こう数年の間で確実に生活に溶け込んでいくだろう。

4~5年後には、IoTという言葉自体が当たり前のものになり、もはやなくなっているかもしれません。おそらく、今の時代に『IT化』『IT活用』といわれているような事例の多くは、実質的にIoT活用に進化していく。今の時代の『ITソリューション』を、これからはソフトウェアの世界だけでなく、ハードウェアを含めたリアルなIoT事例として考える。それができないと、企業の課題解決は完結しないでしょう。今まではウェブの世界で完結するサービスではなく、IoTによってリアルなオペレーションまで変えていくことができる。IoTに興味を持つ企業の多くは、そんな期待感に満ちています」
■モノから考え始めてはいけない。

例えば実際のクライアントに、IoTを導入したソリューションを提案するとしたら、どのようなプロセスを踏んでいくのが理想なのか。

「まずは『モノから考え始めない』こと。やはり重要なのは、お客さんの声を聞くこと。彼らの利便性はどうやったら進化するのか。それをひたすら考えることでしょう。

『モノのインターネット』といっても、今はモノが売れない時代。この流れは確実に続きます。そして最近たびたび『モノからコトへ』と言われますが、顧客体験価値が重視され、すべてがサービス化していく傾向は明白です。例えば車を買わずにカーシェアリングをする人が増えているように。

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例えば、ここにあるテーブル。このテーブルを1つ5万円で売る、というビジネスもあれば、1回5000円で貸し出すこともできます。そしてただ単に貸すっていっても、いろいろな貸し方がありますよね。シェアオフィスに置いて、座ったら課金するとか。

『この机を、サービスにしてはどうでしょう?』。それが、僕らのクライアントさんへの提案の一つの形です。IoTをどうやって始めるか。その一つ目の答えは『モノをサービスに変えてみては?』です。この机を一つ5万円で購入し、何か付加価値を与えて1時間100円で貸す。そうやって、机をサービスとして有効活用するわけです。貸し方もさまざまですよね。1年で貸す、1時間貸すなど、ビジネスモデルによって変化する。簡単に言うと、モノの切り売り。それ自体が、すでにサービスになっているのです。

武下さんは、そこで重要になるのは「課金システム」だと語る。

「今はモノが売れない時代ですが、消費者は必要なモノにはお金を払います。そして消費者は、どんどんデジタル化しています。みんなスマホを持っていて、いいサービスはシェアされる。食事をする時は食べログの点数を見る。モノの最安値は価格ドットコムで調べる。そんなデジタル武装された人達のことを、僕は『わがままな消費者』と呼んでいて、彼らにつき合える支払方法を持たねばなりません。

パーキングでいえば、予約時に決済する、予約はウェブで行って支払いは現地の精算機で現金で行う、法人だったら請求書で後払いにする、というように、支払方法が多くある方が、消費者にとってうれしい。クレジットカードが使えるとありがたいし、交通系ICカードで"シャリーン"とできたら、すごく楽です。

逆に言うとIoTは、課金プラットフォームを上手く構築できたら、勝てる可能性が増えます。確かに課金は、個人情報の取り扱いなど難しい面が多い。そこは大きな課題です。でも僕はもともとEコマースの開発、店舗タブレットソリューションのEC-Orangeシリーズを展開していましたので、ノウハウはそれなりに持っているつもりですが…」

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IoTソリューションの実現において大切なこと、要は『モノの売り方』なのだ。

「今扱っているモノ自体を変えることはないと思います。化粧品店は化粧品。食品店は食品。家具店は家具を売る。ただし、それをいかにサービスへと展開するか。そして、いかに対価を得るか。それがIoTをやる時に大事な二大要素でしょう。

そこから考えると、新しいアイデアは出ると思います。そもそも、いきなり突拍子もないアイデアなんて出ませんから(笑)。

今、自分たちが扱っているモノを、どうやってサービス化するか。そして、そのサービスの対価を得る上で、消費者が支払いやすい方法にしてあげる。それを考えていってはどうでしょう」

 

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プロフィール
武下 真典

武下 真典 たけした まさのり

(株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

1979年大阪府出身。大学卒業後、フューチャーアーキテクトを経て2008年に株式会社エスキュービズムへ。
2014年にEコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orange」シリーズを軸に事業を展開する株式会社エスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役就任。今年10月、組織統合によってエスキュービズムの取締役となる。
著書に『はじめてのIoTプロジェクトの教科書』(クロスメディア・パブリッシング刊 武下真典/幸田フミ 共著)。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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