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2020年を目標に目指す「グローバルトラベルエージェント」像
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2020年を目標に目指す「グローバルトラベルエージェント」像
酒井さんが今、注目するトレンドがインバウンド(訪日旅行)。特に、昨今増加している中国や台湾、韓国といった東アジア圏からの観光客の宿泊需要をいかにフォローするか。それが今後に向けた、大きな経営課題の一つである。
「今現在、訪日外国人の数が年間約1,300万人(2014年度)。そのうち6割近くが中国、韓国、台湾など東アジア圏から来ています。そして今後、東京オリンピックのある2020年に向け、訪日外国人の数は3000万人まで増えると思われます。もちろんアメリカやヨーロッパからも多くの人が来るでしょうが、中心となるのは東アジア、そしてタイやインドネシアなど東南アジア圏からの観光客でしょう。
そんな状況で、いかに彼らを取り込んでいくか。実はこの6月、中国、台湾の旅行代理店と提携し、彼らに向けたサービス『relux グローバルプラットフォーム』をオープンさせました。私達が持つ日本国内の高級ホテルや高級旅館の情報を、中国、台湾の旅行代理店にリアルタイムで提供。現地の代理店は専用のウェブサイトを経由し、reluxのホテル・旅館情報を閲覧し、事前決済で予約を受けることができます。われわれの情報を参照して、現地の代理店が団体顧客などの手配を円滑に入れることができるように開発したプラットフォームで、ビジネスとしてはいわば"BtoBtoC"ですね」
また今年3月には、上海に営業所を開設している。
「中国からの観光客に関しては、基本的にすべて現地の旅行代理店と提携して呼び込んでいきます。こと中国についていえば、私達の重要な集客ツールとなっているFacebookが使えないなど、ウェブ環境の違いが非常に大きい。もちろん直販の可能性も模索してはいますが、しばらく先になるでしょう。
台湾や韓国についてはネット環境が日本とそれほど変わりませんので、直販も並行して狙っていこうと考えています。台湾についてはすでに営業所を開いておりますし、中国語版のFacebookページもオープンさせています。そして韓国についてもいずれ何らかの拠点を設けたり、現地の環境に合わせてローカライズしながら、集客を図っていくことになるでしょう」
今後、直販のルートを切り拓くとすると、海外在住の人達がreluxを通じて日本の旅館・ホテルを直接予約するまでには、言語対応など多くのハードルがあるのも確かだ。
「サイトの言語対応自体は、すでに世界の主要言語で11カ国語分すませています。でも、ただ器を作っただけでは集客できませんので、集客方法については模索中です。
海外から直接予約してもらうようになるには、サイトの構造そのものを作り変える必要があります。国によってサイトのデザインや構造は流行が異なりますので、ただ日本のウェブサイトを翻訳しただけのものでは、なかなか上手くいかない。一から作り直す覚悟が必要ですので、そこについてはもう少し時間がかかるでしょう。まずは現地の代理店と組んで対応し、徐々に直販に向けたインフラを作っていく。そんなイメージですね」
また日本の宿泊施設側も、訪日外国人の受け入れ体制はまちまちだという。例えば京都や東京、大阪などの大都市圏の旅館やホテルは外国人の受け入れに積極的だが、地方の宿泊施設はまだ体制が整っていないことも多い。
「地域によって差がありますね。今、確かに東アジアからの観光客は増えていますが、彼らのいわゆる"ゴールデンルート"は、東京で買い物をして富士山を見て、京都に行き、大阪でまた買い物をして帰る、というもの。そのルートの割合が圧倒的に多いのが現状で、他はまだまだそれほど多くないんです。そのルート上にある宿泊施設はインバウンド対応への意識が高いのですが、他の地域ではまだまだ遅れている。そういう意味で、私達が地方の旅館やホテルに対し何かしらお手伝いできるのではないか、とも考えています」
今後は5年後の2020年を目標に、グローバルカンパニー化を進めていく。
「まず2015年度、つまり来年6月までは、reluxの認知度を高めていきます。とにかく国内需要とインバウンド需要を、しっかり取りにいく。その上で行いたいのが、足回りの強化。すなわち航空会社やレンタカー会社との提携によるパッケージ販売を行い、旅行商品ラインナップの拡大を目指します。これについては、現在調査段階です。
加えて考えているのが出張需要と、シニア層への対応強化です。出張すなわちビジネス利用については、例えば安めのビジネスホテルをつなぎ込むようなことはしません。もう少し単価の高い役員出張や、海外からのゲストのおもてなしなどにチャンスがあると踏んでいます。そして、シニア層。reluxはもともと30代から40代のネットリテラシーが高い層のレジャー需要を想定し、SNSなどを使って集客してきましたが、ソーシャルの外にいるシニア層にはやや違ったアプローチが必要になってきます。それについては現在まだ検討段階なのですが、先ほど申し上げた足回りの強化を上手く絡めていきたい。また、ネット以外の既存のマスメディアを使ったPRも、場合によっては必要になるかもしれません。
目標は2020年に、日本を代表し、世界で戦うオンライン旅行代理店になることです。足回りを強化できたら、そこからは海外ホテルとのシステム連携を行っていきたい。私達の持つ宿泊施設の評価指標を海外にも展開し、全世界の顧客にサービスを広げていければと思います。例えば中国の方が、アメリカのリゾートホテルをreluxを介して予約する、といったことも、十分できる状況にありますから。
2020年は早すぎる、と考える方もいらっしゃるかもしれません。でも私達はベンチャー企業。いかに素早く意思決定と実行をするかに価値がある。例えば他社が2年かけたことを、私達は1年でする。そのためには、現状のPDCAサイクルをいかにスピード感を持って回していくかが大切になります」
他社と明確に差別化できる武器は、何といっても「目利き力」。その強みとともに、さらなる会員数の増加を目論む。
「目利き力の高さこそが、私達のブランド力を支えている。顧客満足度にフォーカスした宿泊予約サイトは、まぎれもなく私達だけです。でも、それがまだまだ知られていないのも確か。ですから、そのブランド力に適合する宿泊施設のラインナップをもっと増やすとともに、より多くの人にreluxを知ってもらうための手をハイペースで打っていきます。
マーケターの仕事とは、例えば旅行先や宿泊施設といった魅力的なコンテンツと、それについての情報をほしい人達の橋渡しをすること。その橋渡しの方法は、かつては4マス広告主体。そこからインターネット、ソーシャルメディアが生まれ、徐々に変わりつつあります。その方法は時代に応じてキャッチアップせねばなりませんが、どういう人達に対し、どんなものをどのように打ち出すか、という基本的な考えは、今もこれからも変わることはない、と思っています」
コンテンツの魅力を欲する人に紹介する方法を、さらに極めていきたい。それこそが、マーケティングのプロとしての酒井さんの矜持だ。
(終わり)
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです