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クラウドファンディングが、日本企業の商品開発のスピードを速める
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クラウドファンディングが、日本企業の商品開発のスピードを速める
クラウドファンディングを資金調達という側面から考えると、例えば銀行やベンチャーキャピタルとはどのような違いがあるのだろうか。
「気軽さ、そしてチャレンジングに支援ができることに尽きます。確かに銀行もベンチャーキャピタルによる支援も、非常に有力な手段。でも個人や中小・零細企業が新たに何かを始めるとしたら、ハードルはなかなか高いのが実情です。
でもクラウドファンディングのハードルは、誰でも超えられるレベル。個人でも小さな会社でも構わないし、もちろん大きな会社でも気軽に活用できます。そしてプロジェクトのジャンルも問わず、事業計画書の提出も求めません。もちろん、最初にお金をいただくこともありません。
もちろんプロジェクトの審査はしっかりと行いますし、集めたお金を不当に使わないか、謳ったことをちゃんと実行できるか、などはしっかりとチェックします。でもハードルとはそれぐらいのものですし、私達はどんなチャレンジでも応援します」
そんなMakuakeの特徴が、それぞれのプロジェクトに対し「キュレーター」という担当がつくこと。キュレーターには得意分野があり、それぞれの業界に関する資金集めやリターン設計の個別ノウハウを提供する。プロジェクトを社会に周知させ、少しでも多くの金額を集めるためには、どんな形でPRを行っていけばいいのか。キュレーターはそれをプロジェクトの発案者と二人三脚で考えていく。その熱量もまた、銀行やベンチャーキャピタルとの違いだろう。
「プロジェクトは基本的に、まだ世の中に出ていないもの。触ってみることもできません。ですから多くの場合、お金集めの最初の火種はもともとの顧客やファン、知人などから作っていく方向で考えていきます。そしてまずは、そこに多少なりとも盛り上がりが出てくるのを待つ。そこから、例えばメディアから取材が入ったりすることで、徐々に流れができてくる。そういった要因で金額が伸びると、それまでまったく知らなかった人からも『これは面白そうだ』と支援が入り、さらに伸びる。
加えてキュレーターと広報チームで連携し、こちらからも積極的にメディアに働きかけたり、プレスリリースを出したりもします。そういった形で全体の流れを見ながらサポートしていくのがキュレーターの役目。プロジェクトを成功させるため、コンサル的な動きもします。なぜなら私達にとっても、これはビジネス。集まった金額の中から一定の%を手数料としていただくので、金額が伸びてくれないと困りますから。
もちろん、ビジネスとしては手離れがいい方がありがたいんです(笑)。こちらが何もせずともプロジェクトがどんどん入ってきて、あまり手をかけずとも動いていくのが理想かもしれません。でも、最初からすべてお任せで上手くいくかというと、それもイメージしにくい。私達もノウハウを積んでいきたいですし、プロジェクトの発案者にも支援いただいた方にも喜んでいただき、Makuakeでお金を集めてよかった、Makuakeでお金を集めたい、と思っていただきたい。そうしないと大きな事例は生まれませんし、次につながっていきませんので」
メディアと連携したPR戦略。それは、サイバーエージェントというインターネット企業が運営するMakuakeならではの大きな強みの一つだろう。
「サイバーエージェントはもともと広告代理店事業から始まっていることもあり、プロモーションやマーケティングという発想の下地が社内にある。かつインターネット企業ですから、お金を集めて決済するまでをオンライン上でスムーズに完結させるノウハウと技術力もある。
クラウドファンディングを初めて知った人達が、いかに気軽にプロジェクトの魅力を知り、決済までを簡単に行えるか。Makuakeを浸透させる上で、それが非常に大事だと思っています。実際に使っていただくとわかるのですが、すごく簡単。サイト自体もとても見やすい、という評価もいただいています。まだみんなが知らないシステムなので、いかにわかりやすく、親しみを持たせることができるかを重視した結果です。
そういったサイトの設計も、さまざまなコミュニティサービスやゲームを立ち上げてきたサイバーエージェントの強み。そしてPRという面でも、アメーバブログの他、バイラルメディアのSpotlightなど、多くの人にリーチできるインフラもある。そこも弊社ならではのアドバンテージと考えています」
Makuakeがローンチされる2013年までは、1千万円クラスのプロジェクトは少なかった。企業のテストマーケティング、プロモーション、ブランディングという方向性でのクラウドファンディングの活用。その扉を開いたことは、Makuakeの大きな功績だ。例えば今話題のIoT(internet of things)分野のガジェット「Qrio Smart Lock(キュリオ スマート ロック)」。スマートフォンと連動させることで、簡単に鍵の開け閉めができ、SNSのメッセージ機能を使って家族や友達と鍵をシェアできる、というもので、Makuakeは金額によって6つのコースを設定。支援者には商品を割引で提供した。
「これは、ソニーとベンチャーキャピタルのWiLの合弁会社Qrioのプロジェクトです。日本では多くの場合、モノ作りができる人は大企業の中にいます。優秀な開発者が企業の中にいるにもかかわらず、優れた商品が市場に出るまでのスピードが他国と比べ、明らかに遅い。これが、アメリカなどとは大きく違う点です。アメリカのようにフリーの人材がたくさんいる状況だと『とりあえず出してみよう』となるのですが、日本の企業は、社内でクリアせねばならないポイントがあまりに多すぎて、商品開発のスピードで負けてしまう。
この部分が変わらないと、日本から新しいものが生まれる機会はどんどん減っていきます。日本のメーカーさんとお話していてよくあるのが、Kickstarterで億単位のお金を集めている商品を見て『これ、僕ら3年前に試作品で作っていたものと同じ機能なのですが…』というケース。こういうのは正直、とても残念ですよね。でもMakuakeは、その状況を変えるツールになり得る。なぜならクラウドファンディング上であれば、売るかどうかは決まっていない試作品として出すことができるから。実際に製品としてリリースするかは、反応を見てから決めればいい」
また、商品開発におけるABテスト的活用法もある。
「例えばLED電球『Siphon』。これは、昔ながらのガラスを使い、発光部分をフィラメント状にしたLED電球です。LED電球は省エネ・長寿命という意味で非常に優れたプロダクトですが、一般的に販売されているものはデザイン的に今一つのものが多い。そこで、オシャレで美しいLED電球を作りたい、というコンセプトで開発されたものです。
詳しくはサイト(https://www.makuake.com/project/siphon/)を見ていただきたいのですが、ここではリターンにおいて、同じような値段感で異なるデザインのものを用意。それにより、どのタイプが人気が出るかなどをリリース前にテストできてしまうのです。また、これは利用規約に書いているのですが、支援者の属性などもデータとして提供できます。そのため、性別などのベーシックなデータならば取得可能です。
そして実は、ニーズについても新しい発見がありました。もともとは店舗向けに考えていた製品だったのですが、実は一般家庭向けのニーズが多くあることがわかったのです。
かつてこういうことは、量産して市場に出さないとわからなかった。でもクラウドファンディングを上手く使えば、エンドユーザーの反応を量産前に見ることができるし、例えば『~個支援してもらえたら製造します』という方法もあり得る。つまり企業の採算を圧迫する大きな要因である、在庫リスクが軽減されるかもしれない。これは特に中小・零細企業にとっては、非常に助かる。そしてこのプロジェクトは、中小企業でも多くの金額を集められる、という好例になったと思います」
では、プロジェクトを成功させるためにはどうすればいいのか。次回は資金を集めるプロジェクトと集められないプロジェクトの違いを示しつつ、坊垣さん自身のキャリアにも迫っていく。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです