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ワクワクするモノやサービスが生まれる場所
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ワクワクするモノやサービスが生まれる場所
どんなことでも、新しい活動を始めるには資金が必要だ。インターネットそしてSNSの普及・発展に伴い、昨今ポピュラーになりつつあるのがクラウドファンディング。これまでは社会貢献的プロジェクトを支援するものとして考えられていたこの資金調達方法は、実はマーケティング的側面でも大きな可能性を持つ。中でも今、右肩上がりの成長を続けているのが、2013年にスタートした「Makuake」だ。今回はそんな注目のサービスを手がける、サイバーエージェント・クラウドファンディングの取締役・坊垣佳奈さんのお話をうかがう。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
例えば、都内某所にある「Roast Horse」。ここは、石釜で焼いた最高級のローストホースを堪能できる超人気店。だが店名をインターネットで検索しても、店の詳細どころか住所を知ることすら難しい。なぜなら、ここは「日本初の会員制馬肉専門店」。オープンから1年間、お店に来ることができるのは、新規オープンを支援したサポーターとそのサポーターの紹介者だけなのだ。Roast Horseは、そんな驚きのシステムで運営されている。
「正直、経営側からすればリスキーに感じる面もある。でも、それだけの価値提供をできれば十分成り立つし、逆に『自分達だけしか行けないんだ』というプレミアム感にもつながる、と考えています」
語るのは、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング取締役、坊垣佳奈さん。Roast Horseがオープンするに当たり、資金調達を手助けするためのプラットフォームとなったのが、同社が手がけるサービス「Makuake」だ。
「実はこのプロジェクトは、目標金額の3百万円をわずか9時間で達成し、3日後には目標金額を5百万円に引き上げました。最終的には1週間で約550万円を調達。これ以上集まると、会員さんの予約すらままならない。そんな事情からやむなく強制終了となりました。事前に期間を設定しているので、前倒しで終了させるのは本来NGなのですが、特例措置ということで、何度も告知をした上で閉じた経緯があります。
お店は会員さんの予約が殺到していて、現在は2カ月以上待ちだそうです。そんな風に多くの人が行ってみたい店になり、それが会員のステイタスを押し上げる。つまり私達のサービスを、顧客とのWin-Winの関係性を関係を築くためのツールとして使っていただくことができた。そんな好例だと思います」
ちなみに、これまでで最高の支援者数を集めたプロジェクト。それは童話『赤ずきん』をイメージしたアイシャドウを製品化したい、というものだった。
「これは完全に、想像以上の成果でした。発案されたイラストレーター・TCBさんのファンを中心に、10代の女の子からびっくりするほどの支援があったのです。私達も正直、10代の感覚はわからない。だからプロジェクトの開始当初は結果がまったく読めず、大きな驚きでした。
決済はクレジットカードが基本なのですが、カードを持たない10代の女の子達からこれだけの指示を集めたのですから、すごいことです。日本におけるクラウドファンディングの事例で最も多くの人も支持を集めたプロジェクトは、10代の女の子達が支援したものなんです。そんな事実も、クラウドファンディングのこれからの可能性を物語っている気がします。
これら二つの事例においてもそうですが、Makuakeは一つのコミュニティなのです。プロジェクトのアイデアに反応して下さるのは、本当の一般の人達。そしてプロジェクトをどういう形に設計するとどのような反応があるかを知り、アイデアをブラッシュアップすること=マーケティングそのものですよね。つまりクラウドファンディング自体がマーケティングであり、プロモーション、ブランディングである、ということなのです」
坊垣さんの言葉の真意を深く知るためにも、クラウドファンディングの定義と成り立ちをおさらいしておこう。クラウドファンディングは、英語で書けばCrowdfunding。不特定多数の人達(=Crowd)が他の人や組織に対し、主にインターネット経由で資金の提供などを行う(=funding)ことだ。
「日本で本格的にクラウドファンディングが始まったのは、2011年ごろ。東日本大震災とも関係していますが、当時、震災復興や社会貢献プロジェクトが寄付サイトなどで生まれていました。その中のお金を集める手段の一つとしてスタートした、といわれています。
そしてクラウドファンディングは、資金提供者へのリターンの形により『寄付型』『投資型』『購入型』の3つに分けられます。寄付型の場合、支援者は何円でもお金を出せますがリターンはありません。それに対し、投資型は文字通り投資。資金提供者への金銭のリターンが伴い、お金を出せばその後の収益に伴った分配を得られます。そして購入型は、資金提供に対して何かしらのモノや権利をリターン。金銭を得ることはありません。
今、日本においては、購入型が最もポピュラー。そしてMakuakeが手がけるのは、購入型のプロジェクトです。投資型は将来の参入可能性はありますが、法律の制限もあり現在は考えていません。ちなみに私達の場合、法律的にはECサイトの範疇で運営しており、集まった金額は売上として計上されます。先行予約販売や受注生産の形に近くハードルが低いので、より使っていただきやすいと考えています」
日本におけるクラウドファンディングのマーケットサイズは、資金調達額で月額約2億5千万円ほどだが、今後伸びていくのは間違いない。そして今は、Makuakeの他にREADYFOR?、CAMPFIREといったサービスが存在。その中で大きなシェアを持っているのがMakuakeとREADYFOR?だが、色合いは大きく異なる。社会貢献的意味合いの強いプロジェクトを手がけるREADYFOR?に対し、2013年8月にローンチされたMakuakeは「新しいモノやサービスが生まれるプラットフォーム」としての認知を広げようとしている。
「海外に目を向けると、クラウドファンディングの市場規模は実に大きい。中でもアメリカのKickstarterというプラットフォームは、大きなマーケットシェアを持っています。実際に見ていただくとよくわかるのですが、彼らが手がけるプロジェクトは社会貢献よりも、プロダクトやガジェット寄りのプロジェクトが主体。ここから、今までになかった新しいモノやサービスがどんどん生まれているんです。今、アメリカで話題になっているモノ、面白いと感じるサービスのほとんどはKickstarterから、と言っても、決して過言ではありません。
日本では、クラウドファンディング=資金調達/社会貢献という意味合いで解釈されがち。でも実は、マーケティング、プロモーション、ブランディングという視点から考えても、非常に優れたサービスなのです。現にKickstarterには、モノやサービスを世に出したり量産する前にユーザーの反応を見る、というテストマーケティングや、それらをリリース前から話題にしておくためのツールとして、数多くの事例があり、Makuakeでも同様の事例が多数発生しています。
そこから考えると日本はアニメーションやゲームなどコンテンツビジネスが強く、モノ作りにも優れた実力がある。つまり、この流れは間違いなく日本でもっと大きくなる。ですから私達Makuakeは『新しくて面白くて、ここに来るとわくわくするモノやサービスを生み出す場所』として機能していきたい。その可能性は大いにあると読んでいます」
資金調達にとどまらず、マーケットリサーチそしてテストマーケティング、プロモーション、ブランディング(ファン作り)までを幅広く網羅するクラウドファンディング。
第2回ではそのさらなる可能性と、ますます成長を続けるMakuakeの魅力について迫っていく。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです