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それを効果的に使える場所を探す
現在、インド進出企業向けコンサルや事業開発業務の他、シンガポールをはじめアジアでレンタルオフィスを展開するクロスコープと組んでのレンタルオフィス運営など、多方面で腕を振るう繁田さん。そんな彼女の元には当然ながら、インドに興味を持つ企業からの相談が絶えない。
「必ずしも、どんな会社もインドに出てくればいい、とは思っていません。例えば、高齢者対策が得意な会社がインドに来ても、あまり意味はない。その会社が持っている強みがインド市場にマッチするならば、来ればいい。インドで強みを発揮できそうな会社には『どうせ来るのなら、早く来た方がいいですよ』とアドバイスしています。
確かにみんな『インドは難しい』と言います。もちろんこれまで申し上げてきた通り、日本とはすべてが違う社会ですから、大変なことも多々あります。でも、決して不可能な市場ではない。確かに時間がかかることや、決められたプロセス通りに物事が進まないことも多い。でも『できる』か『できない』かで言えば、間違いなく『できる』。そんなマーケットです。
比較するものでもありませんが、中国のような"やりにくさ"はありません。正直に言って、中国は反日運動が起こったり、政府がさまざまな規制をかけてビジネスがやりづらくなるようなことがある。その点、インドはフェアです。日系だから、外資だからといって何か面倒なルールを飲まされることもない。外資も内資も条件はほぼ同じです。何もかもが組織的に動かないので、全員が均等に大変ですが(笑)。
インド社会はまだ日本のように成熟しておらず、今、さまざまな物事がすごいスピードで変わりつつある状態。新しい商品、新しいサービスが、これからどんどん受け入れられることになるでしょう。そんな今こそ、無数のビジネスチャンスが生まれます。ですから、インド市場にマッチする会社ならば、必ず、メリットはある」
そんな繁田さんにはこれまで、女性起業家ながらの苦労はなかったのだろうか。
「ぜんぜん、ないです(笑)。逆に、得をしていると思いますよ。絶対に忘れられないですから。なぜかというと、たいていのインド人は、日本人の名前を聞いても男か女か判断できません。日本人は普段男性しか会わないのに今回は珍しく女が来た、となると、必ず覚えてくれますからね。
そんな風に、得することはあっても損は何もない。女性起業家だからこその大変な経験といっても、何一つ思い出せない。『男だから』『女だから』と言っている時点で、ダメなのかな、と。
ただし、性別による得意不得意はありますよね。例えば女性の方が気づきが細やかだったりとか。そういう得意分野を上手く生かせば、それでいいと思います。そして、その結果何をするかだと思います」
繁田さんは会社の今後については、まだ深く考えていないと語る。
「会社の規模拡大を図るよりも、新しいものを作り続けたい。今は主に調査やコンサル、そしてテストマーケティングなどを行っていますが、チャンスが見えている業界がいくつかあるので、そちらの事業を新しく手がけたい。コンサルではなく、事業そのものですね。
まだ詳細をお話できる段階ではないのですが、農水産を含めたビジネスです。今後、食糧危機の可能性はあると思いますし、インドはもともと農業大国。そして海にも囲まれていて水産業も伸びています。ただし、なかなか高い壁があるので、そこはしっかり時間をかけたい。そもそも『日本で1日で終わることが、インドでは1週間かかる』と言われていますからね(笑)。それでも昔と比べたら"インド時間"はグローバルスパンに近づきつつあるのですが」
インドには今後やりたいことも、やれることも、まだまだたくさんある。そう実感している。
「5年6年先のマーケットをしっかり考えたら、アイデアはたくさん出てきます。それを自分がやるのか、日本の会社にやってもらうのか、インドの人達にやってもらうのか。いろいろなフォーメーションが考えられます。
最近特に、ビジネスの多くの部分で深い専門性が必要になっている。付け焼刃程度の知識では、対応できませんから、いろいろなことを浅く広くできる人を社内で育てるのはあまり意味がない。今の時代、あらゆる求められていることに対応できる人は、ほとんどいません。それならば、プロジェクト単位で扱う商材やサービスに関する専門知識を持つスペシャリストを社外から呼んでくる方が、ずっと効率いい。
当然ながらウチには、インドに関するノウハウや人脈という太い軸がある。それにパートナーが持つ農業、漁業、通信など、さまざまなジャンルの専門知識をかけ合わせていけば、間違いなく、インドで面白いことができる。ですから、スペシャルな分野を持っている個人や会社とのコラボレーションが理想的だと今は考えています」
日本はこれから少子高齢化の波にさらされ、今後はより多くの企業が成長著しいアジアなど、海外に活路を見出すことになる。そんな状況の中、日本企業はどのようなスタンスで今後のビジネスに取り組むべきなのか。
「いくら市場がシュリンクしているからといって、日本でのビジネスがゼロになることはない。国内でもアイデア次第で、できることはたくさんある。そして海外に進出する場合、例えば消費財であれば、日本企業は安いものをばらまくのは苦手ですよね。きちんとしたクオリティのプロダクトをある程度の金額をかけて作る方が得意です。そのように、まずは自らの特色と向き合うこと。そして、自分達の強みをどこに持っていけば最も効果的なのかを、まずは考えるべきだと思います。
それは私達にもいえることです。2006年から携わってきて、インドに関する知識とノウハウについては有数の存在だと自負しています。ですから、私達も強い部分をしっかりと押し出して、ビジネスを進めていきたい。実は以前、アフリカ進出を打診されたことがあり、少し考えたのですが、やめました(笑)。今はまだ、そういう時期じゃありませんからね」
10年ぶりの政権交代により、高揚感に包まれるインド経済。今後も確実な伸びを見せることは間違いない。そんな状況の中、繁田さんはしっかりとインドに根を張り、新しい展開を模索していく。
(終わり)
1975年愛知県出身。東京大学卒業後、’99年インフォプラント(現マクロミル)入社。
’02年に同社取締役就任。
’04年に同社海外取締役に就任するとともに、上海に海外子会社インフォブリッジチャイナを設立し、薫事兼総経理就任。
’06年に同社を退任。インフォブリッジホールディングスを設立し、中国事業の他に、インドでのマーケットリサーチ事業を開始。
2008年にインドの調査会社Market Xcel Data Matrix社に資本参加。
2011年にInfobridge India Pvt.Ltd.をニューデリーに設立。日系企業の進出サポート、マーケティング支援事業などを開始。現在、デリー在住。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです