6
価値を与えてビジネスとして成立させる
さまざまなプロジェクトを多角的にプロデュースする関口さんだが、多くの優れたアイデアはどのように生まれてきたのだろう。どのように情報を収集し、それを取捨選択しているのか。
「単純に好きか嫌いか。それだけです。誰にでも、惹かれるものってありますよね。僕の場合はサーフィンや食、ファッション、あとは犬との生活だったり…。そういったことをきっかけに仲よくなった国内、海外の友達との、たわいもない価値観の共有ってありますよね。『お前の周りで今、どんなことが流行っているの?』というような些細な会話を重ね、価値観の合う人達と情報交流をしていく。そこから『ああ、この考えはこのプロジェクトに活用できるよな』というものが、ふと生まれる。
例え業種や業態が違っても、趣味や趣向が同じ人とはベースとなる価値観が近いので、合う部分が多い。逆に、いくら素晴らしい才能があっても『大好物はファストフードです』と言われると、がっかりする(笑)。要は企画やプロデュースのネタ元って、結局は興味と友達しかない。そしてネタは他愛もない話も含まれ、パラパラと散らかって存在するものでしかない。それらを何となく気にとめておいたら、あるきっかけで『つながった!』となる。そういうものだと思います。
僕の場合、遊びと仕事の境目はそれほどありません。そもそも、嫌いなことをやれと言われてもパフォーマンスは低いですよね。でも、興味のあることはたいてい覚えている。好きなこと、興味があることを貪欲に意識して、結果としてそれを生かせるプロジェクトや機会があったら、好きは強い。好きなことなら、それが仕事かどうかを超えていいパフォーマンスが生まれ、プロジェクトでいい成果が生まれる。そしてそれが続くと『じゃあ、今度はこういう仕事をお願いしたい』というように、好きの延長線上に仕事がくっついてくる」
2012年に手がけた「GARDEN HOUSE」には、関口さんの好きなサーフィンの影響が感じられる。ただし、それはあくまで根っこの部分。サーフィンの根底にある世界観や、自然、環境、人と人のつながり、そして手作りのクラフト感。そういったキーワードをブランディングに落とし込み、そこに自らの好みであるノーザンカリフォルニアのカルチャーのテイストを掛け合わせ、GARDEN HOUSEは生まれた。従来、不動産とは"地球に一つしかないもの"。だから動かない『不動』産であり、その土地だからできることは何なのかを考えるべきだという。
「例えばそれを食に変えれば地産地消、アートに変えるとクラフト感のあるものです。そういう意味で、これからは『ローカル』と『クラフト』がキーワードになる。地元でできる限り手作りしたものを、地元で消費し、地元で循環させる。そういった考えが、さらに大切なものになるはずです。
ローカルとクラフトとは、世の中がデジタル化され、便利で速くなる中でどんどん失われている要素であり、言い方を変えれば個性。そしてその中に、温かいもの、大切なもの、愛おしいものがたくさん含まれている。それを残したり、多少形を変えて継承していくことができたら楽しいし、うれしい。
鎌倉という土地には、そういった温かみのあるものがたくさんある。それを大切にしていかなくてはなりません。例えばGARDEN HOUSEのレストランでは、地元で110年の歴史がある『鎌倉ハム富岡商会』、同じく地元でクラフトビールを作っている『鎌倉ビール』とコラボして、ここでしか味わえないものを提供しています。
ただし鎌倉には、年間1200万人の観光客が来ます。それをどう捉えるか。中には『そんなに来るなら何でもビジネスOKじゃん。鎌倉と名前をつけて、何でも売っちゃおうぜ』と考える人もいる。でも、それは結局、消費でありません。鎌倉の消費です。そして鎌倉が消費されると、ローカルな温かみのあるものまでも消費されてしまう可能性がある。そこには、大きな危機感を覚えています」
関口さんは今、不動産の枠組みにとらわれることなく、食やファッションなど幅広い分野でブランディングを手がけている。マーケットのギャップを捉え、そこに価値を与えるという考え方は、日本国内にとどまらない。
「実は今、ある日本食材に焦点を当てた新業態の開発やブランディングを手掛けています。ご存じですか? 今、国内の日本食市場の規模は10兆円といわれ、毎年2~3%縮小しています。一方、海外の日本食市場の規模も10兆円で、こちらは毎年10%成長している。そして、その中で日本の企業が、どれぐらいのシェアを持っているか。
実は10%未満なんです。言い方を変えると、9割以上を占める海外企業が、日本食をコンテンツとして、毎年10%の成長市場でシェアを取っている。これはどう考えても異常です。そして海外企業が展開する日本食のコンテンツには、日本から見ると正統とはいえない手立てで作られたものが多数含まれています。そんな現状の中でマーケットのギャップをしっかりと捉え、古くから日本にある大切なもの、温かいもの、いいものを残していく。そしてそこに価値を作り、プロデュースして、ビジネスとして継続させていくことが大事です。
僕らは今、アメリカで新業態を立ち上げて、ある老舗店の商品を広めていこうと考えています。アメリカ人がその食材にどんな思いを持ち、ライフスタイルの中にどう取り入れているのか。そしてアメリカ人にとって、日本食のブランド感とはどういうものなのか。僕らはそれをわかっている。でも、老舗店の方はそれを知らない。だから、僕らがそこの部分をしっかりと組み立ててあげることで、日本よりもずっと大きなマーケットに打って出ることができる。つまり、世界的に見ると大きなブームになっている日本食を、僕らなりの目線で編集していくわけです。
この話はあくまで一例です。僕らの考えの基本はURBAN GREEN LIFE。都会でいかに気持ちよく暮らすか、ということで、ベースは東京です。でも、考え方はローカルであるべき。ローカルな視点を常に持ちながら、地域における大切なもの、日本における大切なものって何だろう? という軸を持つ。でも、アクションはグローバルに考える。これからの5~10年はそのような形で、マーケットのギャップを捉えたビジネスを、よりしっかりとした形で確立させたいと思っています」
まだ詳細は記せないが、他にも現在、いくつもの海外案件が進行している。日本人として、日本の価値をしっかりとわかる目を持ち、日本のクリエイティブを海外に展開していく。それこそが、関口さんの考える今後のフェーズである。
(終わり)
1972 年5月10日東京都出身。大学を卒業後、財閥系不動産会社勤務を経て、都市デザインシステムにてコーポラティブハウス事業のコーディネーターとして多くの プロジェクトに携わり、その後、鎌倉の七里ヶ浜にある複合施設「WEEKEND HOUSE ALLEY」全体のプロデュースを行う。
2008年3月に株式会社THINK GREEN PRODUCEを設立。以降、東京都港区海岸にあるクリエイティブスポット「TABLOID」を始め、「MIRROR」「THE TERMINAL」「THE SCAPE(R)」「ANIMA」「GREEN SMOOTHIE STAND」、2012年10月には、鎌倉の複合施設「GARDEN HOUSE」をプロデュース。
建築物の他、ファッションやフードなど、さまざまなジャンルでのプロデュース、ブランディング、オペレーションを行う。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです