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最も大切なのは、やり遂げる=納品するという意識
多くのことを学んだリクルートを2003年に退職し、エフモードへ転職。紙媒体の編集者から転身し、エフモードでは携帯電話のコンテンツ事業に携わる。女性向けのファッションポータルサイトの制作を手がけ、Eコマースの仕組みやマーチャンダイジングについて理解を深めた。そして2005年にブランディング社(当時ゼイヴェル)に入社。東京ガールズコレクション(TGC)のプロデューサーに就任する。
「いち編集者の仕事とプロデューサーの仕事はまったく違うので、簡単に比較できることではありません。その上であえて言うなら、リクルート時代との大きな違いは、背負い方ですね。そして、1日で終わる空間イベントである分、目標値から逆算する発想方法はより強くなったと思います。
編集の仕事は毎月の締切があり、そこに向けて一つの媒体を作る作業があり、読者が何を好んでいるのかが軸。それに対してTGCは、日本のトレンドを発信するイベントであり、それぞれ異なるクライアントのニーズに応えるためにマーケティング、ローンチ、CRM、販促を行っていく。そしてプロデューサーですから、ブランドのこと、キャストのこと、演出や製作、予算のこと、それぞれに統括を立てていますが総合的にすべてを見ていかねばならない。その背負い方はまったく違いましたね。
TGCの立ち上げに際しての手法としてはまず、とにかく大きくローンチさせました。「知ってもらう」ことはとても重要。認知されないと何も始まりません。そこからマーケットを女の子達のために育てていく、というものでした。最初はブランディングから。すべてをマゼンタ100のピンクのイメージで統一。そして、ガールズイベント、ガールズスタイル、ガールズファッションというように、「ガールズ」という言葉を徹底的に使いました。英語だけど、日本語としての「ガールズ」というテンション、雰囲気、レイヤーを作る。そういったブランディングをしていきました。
そして、携わるスタッフ全員にしっかりと協力してもらうためには、やる理由が必要です。だから『今回は〇〇を実現する』『この企業と〇〇な取り組みをする』というリリースを先に打つ。リリースにより世の中と約束することによって予定を実現させていく。例えば一見意外とも思える『紳士服メーカー』とのコラボ。ただ単に紺のスーツを着たモデルにランウェイを歩かせるだけでは弱い。正直、何をやっているのかがわかりにくいですよね。そこでまず『就職難の今、TGCは就活を頑張る女の子を応援します。だからTGCは紳士服メーカーとコラボします』と宣言する。その上で、オリジナルのスーツを作らせていただくなど、具体的な戦略を作り上げていったわけです。
そうやって、TGCはどんな風にも形を変えられる、あらゆるタイアップが可能なコンテンツはTGC、TGCは女性向けのマーケティングだったら何でもできる、という土壌を作っていきました。そのような形で、事業目的とPRから逆算してコンテンツを作ることができた。それが、勝因だったと思います」
永谷さんがTGCのプロデューサーをすることで学んだ最も大きなことは、「きちんと納品する。やり遂げる」という意識だという。
「完成させたものを納品する。それ自体は簡単ですが、きちんと着地させることは難しい。1日のイベントですから、すべてが成功で終わることはありません。時には切り捨てることもある。『AとBとCとD、すべて上手くいかせたいけれど、そうもいかない。でも今回、この中でAとBは絶対にやらないと次につながらない」といった判断をしながら、きちんと納品する。プロジェクトを進めていく上で、変更が出たりとか、予算が足りないとか、やむを得ないこともいろいろある。でも、とにかく最後までやり切る。精神論のようになりますが、その姿勢がすごく重要だと思います。
また、すべきことをしつつ、よりベターな形で納品すること。期日を守るのは重要ですが、それだけでなく『実は期日を1カ月早めれば、こういう案件があってここに相乗りできる。そうするとこういった形での新たなPRもできるし、他にもこういったことができる』といった提案のできる柔軟性と物事を俯瞰で見る力も大切です。
そして、結果を出すだけでなく、出た結果をしっかりと「見る」こと。どこがよかったのか、どこがダメだったのか、結果をしっかりと見る。何がダメだったのか、何がよかったのかを見ないと、人が育たないし、事業としてチャレンジもできません」
TGCのプロデューサーを経て、現在は吉本興業のアジア戦略に携わる永谷さん。今のキャリアは決して、昔から計画的に思い描いてきたものではない。今すべきことを全力でやり遂げ、納品する。それを積み重ねた結果、今がある。
「常に私は流されてきたんです。大きな成功をしたい、高いキャリアステージに昇りたい、という意識は昔も今もまったくありません。目の前にあることに取り組み、やり遂げて出した結果を見る。そして見えたものに対し、もっとこうした方がいいんじゃないか、という取り組みを繰り返す。その結果、今に至っている。ですから、この先に見据えているキャリアは今、特にないんです。でも、これを繰り返すことで新たなコンテンツメディアが形になっていくのではないでしょうか(笑)」
(終わり)