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明日につながるおいしいものを、お腹いっぱい食べたい

神宮司 希望 じんぐうじ のぞみ さん UPBEET!Founder/Omiso Co-Founder

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キャビンアテンダントから転身し、オリジナルのエッグベネディクトやパンケーキで人気を博した「エッグセレント」を立ち上げ、4店舗まで拡大させた神宮司希望さん。この3月にエッグセレントから身を引いた彼女が今、手がけているのは、プラントベースのスイーツと味噌玉。その背景にあるものと、彼女の核となる思いについて話を聞いた。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■制約の中で、おいしいスイーツを作ることが楽しい

 

レストラン「eggcellent(エッグセレント)」は、オーガニックの卵を使ったオリジナルのエッグベネディクトやパンケーキで人気を博す朝食専門店だ。キャビンアテンダントから転身し、この店を立ち上げたのが神宮司希望さん。それまで日本になかった「朝食を楽しむ文化」を広めた立役者の一人である。彼女は6年間の経営で六本木ヒルズ、表参道、羽田空港、白金の4カ所まで店舗を増やし、この3月に卒業。現在は新たなステージへと歩を進めている。

 

eggcellent在籍当時

 

「辞めてから正直、100年ぐらい経った気がします(笑)。それくらいいろいろと考え、経験し、自分と向き合った試行錯誤の日々でしたが、2カ月ほどアメリカやヨーロッパを旅して、やっといろいろ見えてきたところです」

 

 現在、日本ではUPBEETというブランド名でプラントベース(植物由来)のスイーツの商品開発を行い、ロサンゼルスでは味噌のおいしさを伝えるスタートアップ「Omiso」の共同創業者として奮闘している。特に今、注力しているのが、ヘルシーなプラントベースのスイーツ。もともと欧米で、ヴィーガンに向けて作られたものだ。ヴィーガンとは、徹底した菜食主義を貫く人達のこと。動物愛護精神のもと、肉や魚はもちろん卵、チーズ、バター、はちみつなども含めて、動物性の素材はいっさい口にしない。

 

https://www.upbeet.tokyo/

 

「乳製品・卵・牛乳・バター。スイーツによく使うこれらの食材は全部ダメです。そして私自身、グルテン入りのものをたくさん食べると体が重くなる感覚があるんです。自分が体にいいと信じたものを伝えたい気持ちがあるので、グルテンも避けています」

 

 とはいえ、実際に乳製品・卵・牛乳・バター、グルテンのすべて使わずに、スイーツを作ることなど、本当に可能なのだろうか。

 

「これができるんですよ。実はアメリカやヨーロッパンではヴィーガン向けやグルテンフリーの食材が当たり前になっていて、卵の代わりにはこういう食材、乳製品の代わりにはこれ、というものがすでにいろいろあるんです。

 

例えば今、アメリカで注目されているのが、植物性タンパク質で作ったハンバーガー。中でもビル・ゲイツも投資している『インポッシブル・バーガー』は全米で大人気。食べると、ちゃんと肉汁を感じることができます。おいしいと感じる肉汁とはどんなものなのか、どんな食感が求められているのか、といったことをすべて科学的に解明して作っているんです。こういったヴィーガン向けやグルテンフリーの新たな食材は、欧米ではすでに確立されたものになっています。

 

 

私は前職で、卵を使った商品開発をたくさん手がけてきました。でもヴィーガン向けには、今まで当たり前だった材料が使えない。膨らませるための卵もグルテンも使えない。コクを出すためのバターも使えない。しっとりさせるための牛乳も使えない。私自身はヴィーガンではないのですが、そんな制約の中でおいしいスイーツを作ることがもう楽しくて…。今、まさに新しいチャレンジをしているところです

 

■同じものをコピペできない

 

 生まれてこの方、食べることが大好き。食は神宮司さんのライフワークそのものだ。大学卒業後、航空会社の客室乗務員として、国内外の路線に乗務。その経験で知った世界の朝食文化を、日本でも広めたい。そう考えて2013年にオープンしたのが、エッグセレントだった。

 

「最初はお店を持つことがすべてでした。自分の店にお客さんが来てくれることにワクワクして、もう本当に楽しくて1店舗目、2店舗目と作っていきました。でも飲食事業の成長・拡大は、店舗を増やし続けること。私も3店舗目を出したその日から、4店舗目のことを考えるようになっていました。

 

eggcellent店舗

 

つまり上手くいったお店をどんどんコピー&ペーストすることで、利益を生んでいくわけです。でもその仕組み自体が、あまり得意じゃなくて…。同じものをコピペできず『もっといいものあるじゃん!』って、つい違う店に変えてしまうんです(笑)。

 

上手くいったお店をコピペして店舗が増えていくと、もちろんできることも多くなるのですが、できないことも増えてきます。例えば、農家さんと直接やり取りをして仕入れていた食材が、規模が大きくなりすぎたことで使えなくなったり。それぞれの店舗のシェフが農家さんとやり取りして仕入れるのは手間がかかりすぎるから、顔の見えない大きな青果店に一括して頼まざるを得なくなったり。

 

確かにこれが企業の成長だとは思うのですが、私にとってはそれが喜びとイコールになりませんでした。4店舗目を出した4年目のころから『このまま走り続けるのは私の得意とするところじゃない』と思い始め、徐々に準備をしてこの3月に退職しました」

 

 自分が本当に好きなこと、本当にやりたいこと、心からワクワクできることは何かを、あらためて考えた。その中で、食に携わり続けることだけは決めていた。

 

 

「エッグセレントを立ち上げて6年間、食に携わることができて本当によかったと思いますし、お客さんと触れ合うビジネスも大好き。それを深掘りして、これからの飲食事業の形を考えました。その中で思ったのが、体にいいものをお腹いっぱいになるまで食べたい、ということでした。

 

今日もそうですが、私は朝起きてからずっと『今日は何を食べようか』とばかり考えているんです(笑)。1日のスケジュールの中で、お昼に仕事でここに行くからこの店に寄ってみようとか、計画を立てるんです。これはキャビンアテンダントのころからそうで、1カ月のフライトスケジュールが出ると、その横にどこで何を食べるかを全部書いていました(笑)。

 

食べることは私のライフスタイルの中で、今も決して欠かせないことです。その中で常に考えているのが『自分の心と体にいいものを食べたい』ということ。たくさん食べたいし、健康も害したくない。明日につながるおいしいものを、お腹いっぱい食べたい。

 

 

残念ながら日本では、それを外食に求めることが難しい。おいしいものと体にいいものはどこか違うし、体にいいものではお腹いっぱいになれない。でもそういうものはなかなか手に入らないから、納得のいく食材から自分で作ったお菓子をいつも持ち歩いていたんです。そこから、徐々に考えを深めていきました」

 

 ヴィーガンではない神宮司さんが今、なぜプラントベースのスイーツの商品開発をしているのか。その根底にある考えとはどのようなものなのか。次回Part.2では、きっかけとなったアメリカへの旅と、その一方で手がける「OMISO」の事業について、話を掘り下げていく。

 

撮影協力:EVERYDAY MEALS(三軒茶屋)

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プロフィール
神宮司 希望

神宮司 希望 じんぐうじ のぞみ

UPBEET!Founder/Omiso Co-Founder

鹿児島県生。大学卒業後、航空会社に入社、世界中を飛び回る中で朝食の素晴らしさを実体験し、2013年11月に「eggcellent(エッグセレント)を六本木ヒルズにオープン。取締役COOとしてその後4店舗まで拡大させる。
2018年に退職し、ヴィーガン向け&グルテンフリーのスイーツブランド「UPBEET」を立ち上げる。一方ロサンゼルスでは、味噌玉を販売し、日本の発酵文化の魅力を伝えるスタートアップ「Omiso」の共同創業者を務める。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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