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12月の東京を、ダンスミュージック一色に
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12月の東京を、ダンスミュージック一色に
昨年12月に東京・渋谷で初めて開催された、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。このイベントをオーガナイズするメンバーの一人が、ソニー・ミュージックエンタテインメントのローレン・ローズ・コーカーさんだ。ライブとともにカンファレンスや楽曲制作のワークショップを行うTDMEの狙いは何なのだろう。日本在住10年、日本のダンスミュージックシーンを知り尽くす彼女の「企み」をうかがう。
写真=三輪憲亮
今回取り上げている「ダンスミュージック」とは、EDMを中心としたクラブミュージックを指す。ダンスミュージックは今、世界的ブームの中にあるのだ。
「この約5年ほどで、ダンスミュージックのマーケットは何倍にも大きく成長しました。例えば70年代にロックが流行し、90年代にはヒップホップがブームになりました。この流れが今、ダンスミュージックに来ているのです。
例えば、今のアメリカのビルボードチャートを見ると、ダンスミュージックの要素を取り入れたポップスが多くを占めています。これは、10年前にはあり得なかったことです。だからこそ、流行の波に乗っている今は大事な時期だと思います。そして、この流れは確実に日本にも押し寄せるでしょう」
ダンスミュージックと切っても切り離せない関係にあるのがイベント(ライブ)だ。日本でも、東京・お台場で9月に開催された「ULTRA JAPAN」「RAINBOW DISCO CLUB」など、世界でも評価される大きなイベントが開催されている。
そんな背景で「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」は昨年、誕生した。もともとのアイデアは、ソニー・ミュージックパブリッシング ライセンス部外国ライセンス課 兼 開発部アーティストマネジメント課 兼 インターナショナル部の倉本博史さんらによるもの。
Part.1でも紹介した通り、その大きな特徴が、ライブに加えて「カンファレンス(国際会議)」「セッションズ(音楽制作)」の全3パートで構成されている。
「ライブにたくさんの人が来て盛り上がるだけでなく、音楽ビジネスに関連する人達が集まるビジネスカンファレンスも開催します。この形は海外では定着しつつあり、特にダンスミュージックの世界では年々、イベントの規模が大きくなりつつあります。一方、日本にはそういったライブ+国際的カンファレンスというイベントはありませんでした。そこで生まれたのがTDMEなのです。
TDMEのベンチマークはオランダ・アムステルダムで行われる「Amsterdam Dance Event(ADE)」とアメリカの「South by Southwest(SXSW)」です。ADEは20年の歴史があり、巨大なイベントに成長しています。アムステルダムの街全体がイベントの舞台になっていて、来場者数は約40万人。それに加えて、音楽ビジネスに関連する人達が数千人来て、ビジネスカンファレンスやパーティを行います。
日本の音楽マーケットは世界2位の規模。音楽レーベルもメディアもしっかりしていて、良いスタジオがたくさんあり、優れた機材メーカーもある。確かに日本の音楽マーケットは邦楽が8~9割を占めるなど特殊な面もたくさんありますが、TDMEをきっかけに日本のダンスミュージックがもっと世界で認められ、ビジネスがさらに活性化される可能性は大きいと思います」
TDMEのカンファレンスには、レコード会社や広告代理店、IT企業の他、有名ブランドのマーケティング担当者なども来場する。
「2016年のカンファレンスでは、ユニリーバ・ジャパンの方に、テレビCMや動画にどのように音楽を使い、それをブランディングに役立てているかを話していただきました。またセッションズでは、ある会社のCM映像にバックグラウンドミュージックをつけるというコンテストを行いました。公募でさまざまな若いDJが曲を作り、その中からトップ4を呼んでステージで、勝敗を決めるというものです。他にも海外のアーティストと日本のアーティストでコラボして曲を作ってもらうなども行いました」
TDMEのスタッフにはバイリンガルがそろい、カンファレンスやセッションすべてに同時通訳を入れるなど、海外から来た人でもイベントを楽しめるよう工夫されている。
「海外のアーティストやビジネスパーソンが、日本のアーティストやビジネスパーソンと自由に会い、話すことができます。昨年は外国人の参加者が約13%。みんながフレンドリーで、フラットに話す。これはADEやSXSWではよくある光景です。ダンスミュージックはもともと様々なジャンルとコラボしやすいジャンルですから、TDMEを様々な活動が生まれる場にしていきたいです。
また、海外からの観光客の誘致も大きな目的です。私達は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の"ナイトライフエコノミー"を、もっと元気にしていきたい。例えば、アムステルダムやラスベガスは、観光客がエンタメにたくさんのお金を使います。でも、日本に海外から来る観光客のお金の使い道は、食事やショッピングがほとんど。エンタメにはほとんど使っていません。それは、さまざまな問題があったから。
例えばライブのチケットは英語で買えないし、そもそも情報が少ない。昨年までは風営法で、クラブの深夜営業も禁止されていました。今後は、この状況を変えていきたい。海外から来た観光客に、もっとバーやクラブに来てもらって、日本の音楽とナイトライフを楽しんでほしい。
渋谷を会場としているのは、そういう意味もあります。日本のカルチャーの中心地ですし、スクランブル交差点は今や世界的アイコン。そして何より、いいクラブがたくさんあります。本当はタイトル通りに、TDMEを東京全体でやりたいのですが…将来そうなったら最高ですね。
12月第1週は、東京中がダンスミュージック一色。そしてTDMEを、世界中のダンスミュージックファンが人生で一度は行ってみたい憧れのイベントに育て上げたい。そしてTDMEをきっかけに、世界中の人達が日本という国にもっと注目するようになってくれたらと思います」
次回Part.3では第1回の反省と収穫、そしてTDME開催の最も大きな狙いについて、話を掘り下げていく。
アメリカ出身。シカゴ大学卒業後、2008年に日本へ。イベント会社勤務を経て2012年にソニー・ミュージックエンタテインメント入社。洋楽アーティストの物販やキャンペーンの他、新規事業を中心にさまざまなプロジェクトに携わる。昨年12月、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」を手がける。今年のTDMEは11月30日から12月2日の3日間、渋谷ヒカリエを中心に複数会場で開催予定。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです