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物件への愛をきっかけに、茅場町で古書店を始める

森岡 督行 もりおか よしゆき さん 森岡書店 店主

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Part.2

 

■自分の思いを超えた驚きが、たくさんあった。

 

 1週間で1冊の本と、そこから派生するグッズや作品を販売する森岡書店。本とグッズ他の売り上げ比率は、週によって大きく変わる。

「至近でいうと、書籍が約3割で物販が約7割という感じでした。でも、数字が逆転するようなケースも多々あります。この近辺はレンタルギャラリーがたくさんあるのですが、ウチの場合、出版社や著者さんからレンタルフィーをもらうケースはごく限られた場合のみになります。レンタルフィーがないと、その分、著者さん作家さんがたくさんのエネルギーを注いでくれるんです」

 扱う本は森岡さんがセレクトを行っているが、開店して1年が経つ今、国内外の多くの著者や作家から売り込みがある。

 

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「新刊を扱う場合が多いです。ここまで10年ほど自分でやってきたので、『売れるだろうな』という野生の勘のようなものもあります。だから、ここを立ち上げてから半年ぐらいは、僕から著者さんや出版社さんにお声がけをして決めていました。そのうちに著者や出版社からたくさんのお声がけをいただけるようになりまして…。

ただし今は経済性が伴わないなどの理由で、どうしてもお断りすることが多くなっています。日本国内だけでなく海外からもたくさんのご連絡をいただくのですが、物理的に無理だったり送料が合わなかったり、日本での販売が難しかったり…」

 

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本とともに販売するグッズ類は、作家や著者が作ったものの場合もあるし、そうでない時もある。基本的に、販売する本にまつわるものと決めている。

「例えば写真集であれば、プリントなどですね。変わったケースでは昨年、トーベ・ヤンソンの『誠実な詐欺師』という小説を販売したのですが、その時は沢田英男さんという彫刻家の方に、物語に出てくる人形をイメージして掘っていただいた作品を販売しました。

これは実を言うと、沢田さんがトーベ・ヤンソンに大きな影響を受けており、この小説モチーフにして作品を作ろう、という話になったという経緯です。やってみると、本に興味を持っている多くの方が来て下さり、それをきっかけに沢田さんのファンになられる方もいらして楽しかった。そういったことなど、この1年はいろいろな意味で自分の考えを超えた、思いもよらぬ驚きがたくさんありました。ですから、作家さんやお客様にはすごく感謝しています
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■空間的な揺さぶりと時間的な揺さぶりを感じられる、東京の近代建築。

 

そんな森岡さんがこの仕事を始めたのは、学生時代から「本の街」神保町が好きだったから。大学を卒業すると、学術書などを扱う神田の一誠堂書店に就職した。

「一誠堂書店の社屋もここと同じで、昭和初期にできた古い建物でした。僕はもともと、昔の近代建築が大好きでして。僕は山形で生まれたのですが、おばあさんが昭和18年ぐらいに学徒動員で東京に来ていて、当時の写真を見せてもらいながらいろいろな話を聞いていたんです。その時の話と写真に写っている建物がすごく面白くて…。自分の頭の中で当時の街のイメージを反芻しているうちに、東京の近代建築に興味を持つようになりました。

東京の近代建築は、東京なのに東京じゃない。ヨーロッパの建物みたいだけれど、場所は東京にある。そんな空間的な揺さぶりと、昔と今という時間的な揺さぶりもある。タイムスリップするような感覚が、とても面白い。学生時代は近代建築や写真集を目当てに神保町に来て、他のジャンルの本も含めてたくさん見ていました。当時、環境問題にも興味がありまして、エコという意味で古書にはひかれるものがありました。近代建築・神保町・リサイクル。就職の決め手はその3つです」

一誠堂書店には8年間勤務した。会社員だった当時は、独立など考えてもいなかったと語る。

「一誠堂は本当に居心地がよくて、定年までいるつもりでした。ところが2006年の1月に茅場町の古い物件を知り合いまして…。そこにはもともと古道具店が入っていたのですが、そのたたずまいにすっかりヤラれてしまった。そして、その店が辞めるという張り紙がしてあったのです。
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その時、この場所で自分で古書を扱ってみたいと思いました。物件ありき。まさにそうですね。物件から広がった妄想で、独立を決めました。独立には勇気が必要ですが、それ以上に物件への愛が勝った。そんな感じです(笑)」

森岡さんは会社を辞めて独立。大好きな写真集を中心に、アートや建築の古書を扱う森岡書店を茅場町で立ち上げた。次回Part.3では、森岡書店にとって大きなターニングポイントとなった、株式会社スマイルズの遠山正道さんとの出会いについて話を聞いていく。

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プロフィール
森岡 督行

森岡 督行 もりおか よしゆき

森岡書店 店主

1974年山形県出身。大学卒業後、1998年に学術書などの古書を扱う一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場町に「森岡書店」を立ち上げる。2015年に現在の銀座一丁目に移転し、「1冊の本を売る書店」としてリニューアル。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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