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トータル戦略までをコンサルティング
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トータル戦略までをコンサルティング
ここからは久保さんの他、海外事業部で実際の案件を手がける坂口礼子さん、そして鈴木茉唯さんにも加わっていただき、日本企業の海外展開(アウトバウンド)について、実例を交えながら紹介していく。2013年の事業部発足当初、ビジネスは海外企業の日本進出案件が中心。日本企業の海外進出については相談こそあるものの、ビジネスとして流れるまでには至らなかった。そんな海外事業部にとっての大きなターニングポイントが、ある通販サイトの東アジア展開をサポートしたことだった。
「おつき合いがあった通販サイトから『香港・台湾での展開が上手くいかない。販売額が期待値ほど伸びていないので、引き上げてほしい』との相談をいただいたのがきっかけです。弊社でアカウントの中身を分析。言語対応をやり直し、リスティング広告とディスプレイ広告でサイトへの誘導をかけるなどの、広告運用をさせていただきました。
まず最初に行ったのは言語対応です。ご相談をいただいた当時は、日本向けのサイトで利用されているリスティング広告で登録しているキーワードを香港・台湾向けにそのまま翻訳して展開しており、登録ワードのローカライズがし切れていない印象があった。そこで現状のアカウントの中身を、あらためて香港・台湾それぞれの繁体字に翻訳を実施。広告文も細かくカスタマイズし、全体のパフォーマンスを上げていきました。
台湾と香港は基本的に繁体字を使うことは同じですが、香港は英語もよく使われるので、英語対応も必須です。そして台湾で使われるのはほぼ繁体字だけですが、地方によって言葉の使い方が微妙に違う。これは最初困りました。クライアントさんに台湾出身の方がいらして、弊社にも台湾の言葉がわかるスタッフがいる。そして現地の媒体も含め3社で言葉をチェックしたのですが、台湾の中でも方言がいろいろあり、それぞれの言葉使いに関する認識が合わないんです。結局、ターゲットの中心が台北になるので、台北で使われる口語的な表現方法に統一しました。これには苦労しましたね」
また、特に日本と違ったのがバナーのデザイン。2014年に海外事業部のメンバーとなり、現在チームマネージャーの坂口礼子さんは語る。
「日本では通販サイトのブランドとして広く認知されているので、例えば無地の背景にサイト名のロゴを大きく入れたような、ブランド押しのものが多くクリックされます。しかし検証してみると、白バックに商品8種類を載せたデザインと、従来の日本風のデザインの2パターンでは、前者の方が圧倒的にクリック率、獲得率のすべてが上でした。現地では日本ほどの知名度はありませんので、ブランド名を大きく出すよりも、このサイトで何が買えるのかをしっかり見せてあげる方が、訴求力が高い。それがはっきりとわかりました」
取引がはじまった初月から売り上げは順調に伸び、前年比140%まで売り上げを伸ばした。この経験はクライアントだけでなく、海外事業部にとっても大きなノウハウの蓄積となった。
「初動の言語対応がスムーズに行ったことが一番大きく、そこが効果に貢献した一番の部分だと思います。海外への出稿ができるインターネット広告代理店を探すことは、お客様にとっては難しいこと。パートナーの選択肢が少なくて何が正解なのかわからないような状態からご相談いただき、海外の販売エリア拡大に貢献できてよかったと思います。
この仕事を手がけて感じたのが、思った以上に当たり前が当たり前ではない、ということ。ブランドが広く認知されている日本では当然のことも、一歩外に出てみると、知られていないのが当たり前になる。そのギャップは意外なほど大きい。それを再認識した上で、プロモーションを構築することが大事だと痛感しました。この経験は、とても大きな気づきになりましたね」(坂口さん)
「振り返ると、海外事業部として非常に大きな意味のある仕事でした。日本国内で培ったスキルがしっかりとした手応えとなり、ノウハウとして蓄積される結果になった。どこの企業でも今後、香港・台湾へのプロモーションを実施する時にぶつかるであろう問題をこの時すべてクリアにできたのは、非常に大きかったです」(久保さん)
通販サイトの仕事で培った経験をもとに、徐々に仕事の幅を広げていった海外事業部。現在はリスティング広告やディスプレイ広告以外にも、さまざまな施策を行っている。例えば現在進めているのが、あるセレクトショップの訪日インバウンド対応。この案件を担当するのが、今年1月から海外事業部に加わった鈴木茉唯さんである。
「一番の狙いは、中国・香港・台湾から訪日観光客の店舗誘導です。具体的に行ったのはリスティング広告と、現地のガイドブックへの情報掲載。そして今考えているのがインフルエンサー施策です。
インフルエンサー施策は特に台湾では有効です。台湾の方は日本に来る時の情報源として、個人のブログを見ることがよくあります。台湾には、日本に関する情報を頻繁にアップしているブロガーさんがたくさんいらっしゃるんです。そういったブロガーさんを店舗にお呼びし、商品を購入したり店のコンセプトを理解していただき、それをブログに書いていただこうと考えています。台湾の他にも中国、マレーシア、シンガポール、インドネシアなども、インフルエンサーの強い国と言われています」(鈴木さん)
「日本ではステマといわれることもありますが、台湾ではポピュラーな手法です。皆さん、ブロガーが金銭的メリットを受けながら記事を書いていることを知っており、その上で『この人が書いているのなら』と信頼している。台湾はもともと『世界一ブログを読む時間が長い国』といわれ、口コミを気にする国民性があるんです」(久保さん)
2013年から大型案件の実績とノウハウを着々と積み上げてきたことで、クライアントへの提案のバリエーションが多様化。インターネット広告代理店の枠を超えた、コンサルタントに近い取り組みが増えている。
「今は紙媒体なども含めて、多彩な提案ができていると思います。例えばリスティング広告などはすぐにできることですが、その他にもブロガーさんを利用した店舗誘導などの新しい取り組みを、クライアントさんと一緒に相談しながら進めています。アウトバウンドは同じ事例が過去にないケースがほとんど。そのため、従来のインターネットを利用したプロモーションを超え、オフラインを含め、トータルで戦略までをプランニングせねばなりません」(鈴木さん)
「ご相談いただくクライアントさんによっては、ターゲットとする国すら決まっていないこともあります。『海外に進出したいのだけど、どこの国で何をすればいいのかな?』『ウチの会社、これから海外で何をしたらいいんだろう?』というような"ふわっとした"相談をいただくこともよくあります。日本国内ではターゲットやポジショニングを細かく分析しているのに、海外についてはそういうものがないクライアントさんも、正直多くいらっしゃる。
そういう場合は、現状の主力商品についてやこれまでのプロモーション内容などをヒアリングしつつ弊社の持つ情報と照らし合わせ『こういう目的ならば、この国がいいのでは?』というようなコンサルティングから行っています」(久保さん)
また久保さんによると、アウトバウンドのプロジェクトを成功させるには、しっかりとした戦略設計がカギとなるようだ。
「例えば『サイトにもっとたくさん人を呼んでほしい』というオーダーをいただくことはよくあります。弊社としては、それは問題なくできる。でもそこで大事なのは、その先に何を見ているか。そこをしっかりとすり合わせできていないと、例えば『オーダー通りにPVは増えたけれど、売り上げはあまり変わらないね。じゃあ、やめようか』となってしまう。
きちんと最終目的までを考えて戦略を設計し、スタートすることが大事です。国の選定からしっかりと考え、どんなものをどういうユーザーに、どれくらい買ってもらいたいのか、使ってもらいたいのか。その考えをしっかり整えることです。
そして、どれだけ柔軟にローカライズできるか。例えばサイト自体は、画像もフォントもすごくカッコいい。でも、獲得率が上がらない。そんなケースは非常によくあります。言語対応も含めてしっかりとしたマーケットリサーチに基づき、適切にローカライズすることがカギになる。
弊社としては、初期段階から白紙の状態で相談していただく案件の方が、上手くいきやすい印象があります。最初は"ふわっと”していても、いいのだと思いますよ。
むしろよくないのが、決めつけすぎてしまうケース。例えば『中国でBaiduを利用して、これぐらいの金額でこういうプロモーションを展開したいのだけど、よろしく』というようなオーダーです。
社会の状況もインターネットの利用のされ方も、日本と海外ではまったく違います。日本で王道とされる方法が、その国でも使えるとは限りません。海外での認知度から考えても、日本国内のマーケティングよりもずっと前段階からプランニングしていく必要があるんです」
最終回となるPart.4では海外企業の日本向けインバウンド対応、そしてオプト海外事業部のこれからについて、お話をうかがっていく。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです