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ターゲットを絞り、ブランドのDNAを再構築する
2006年から2008年まで、諸事情によりスニッカーズはコミュニケーションをストップ。渡邉さんが入社した2008年はその最終年だった。ブランドマネジャーとして入社した渡邉さんは2009年からのコミュニケーション再開に当たり、スニッカーズのDNAの再構築に着手する。
「まず、ターゲットは16~24歳ぐらいの男性。食欲があり、よく食べる層ですね。これは昔からの基本路線で、世界的にも共通です。その中で、特に大学生ぐらいの年齢の男性をブルズアイとして捉えました。
また調査したところ、スニッカーズを食べている時の気分は、普通のチョコレートよりもハンバーガーや唐揚げ、カップラーメンなどと近いようでした。スニッカーズについては、マーケティングを他のチョコレートと同じように考えていると、見えない面も多いですね」
スニッカーズといえば、'80~'90年代にオンエアされた数々のCMと「おなかがすいたらスニッカーズTM」というキャッチコピーを思い出す人は多いだろう。
「私が入社したころは、それらのCMを見て育った人は30~40代になり、若い人からは忘れ去られていた状況でした。つまり、早急なブランドの若返りが求められていたわけです。
そこで、若い人にどうやったら刺さるかを、大学生の男子を中心に調査。グループインタビューをしたり、時には大学生達と一緒に行動しながら、彼らの考え方を徹底的に探りました。そしてスニッカーズの今後のDNAとなるものを半年間かけて作り、それを20ページほどの資料にまとめることができました。今、スニッカーズが右肩上がりで売り上げを伸ばしているのは、このDNA作りの作業をきっちりできたことが非常に大きいですね」
調査を進めていくうちに出てきたキーワード。それは「仲間」だった。
「大学生の男の子達は、学校やバイト先などで、それぞれ設定されたキャラを演じている。コミュニティの中で、自分が演じているキャラクターがあるんです。そして、その中で空気を読みながら行動している。つまり"KY"になりたくないんです。
そんな毎日で唯一、素の自分になれるのが、バカげたことを一緒にやる仲間だったりするわけです。昔からの地元の友達、大学の同級生…素になれる仲間がいて、そこにいる時が心地いい。そして仲間と一緒にいろいろなことを一生懸命やることで、お互いの絆を深めていくんです。
それはもちろんスポーツで優勝を目指すことでもいいし、『水の上を走っちゃおう』みたいな、バカげたことでもいい。そしてそういう時に、お腹がすいていてついていけないとか、何かを食べに行っている間に面白いことが起こってしまうのは嫌。とにかく、みんなで一緒にいたい。
そんな中でスニッカーズは、きっと存在感を発揮できる。その場でがぶっと食べてエネルギーを補充し、みんなの時間についていく。そのために欠かせないものになってほしいと思いました」
綿密なDNA作りの結果、生まれたのが2009年春にオンエアが開始された、若い男子達が噴水でサーフィンをするCMだった。この時に使われたキャッチコピーが「食い尽くせ! 遊び尽くせ! スニッカーズ」だった。
(WINDOWSの方)
「このCMが『バカげたことでさえ一生懸命一緒にやることで絆を深める男仲間』というコンセプトを明確に打ち出した、最初のコミュニケーションでした。
実は調査を進めるうちに、昔のCMの印象がとても強いことを実感していました。スニッカーズというと、雪山などのエクストリームな環境で食べるような、日常からかけ離れたイメージが当時まだあった。それを、若い人達の日常に戻したいと思いました。『おなかがすいたらスニッカーズTM』という古くからのキャッチコピーはブランドの資産である一方で、スニッカーズというブランドを若い人達や彼らの日常生活から、かけ離れたものにもしていました。」
そして、今の大学生の男子達に強くある「KYになりたくない」という意識に訴えかける狙いで2011年に作られたのが、当時お騒がせ女優のイメージが強かった沢尻エリカさんを起用したCMだった。