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集客につながるコンテンツを開発して収益を生む
コーポラティブハウス事業で得たものに基づいて、プロデュース型の不動産事業を行うこと。関口さんはそれを都市デザインシステムにおける次のフェーズとして、新たな事業モデルを模索していく。そしてチャレンジしたのが、CRE=コーポレートリアルエステート、つまり企業が所有している不動産の有効活用だった。
「最初に手がけたのが『赤坂GROW』というプロジェクトでした。プルデンシャルファイナンシャルグループが所有していた物件の跡地を、12世帯の住宅兼スモールオフィスにする、というプロジェクトです。テーマは『東京リラックス』。『刺激でリラックスしませんか』というコピーで、多くのクリエイターが一つのモノ作りに携わっていきました。実際、建築だけでなくインテリア、グラフィック、グリーン、プロダクト、ファニチャー。さまざまな分野のクリエイターを集めてモノ作りをしていき、結果、多くの雑誌に取り上げていただいて話題になり、クライアントからも面白いと評価を得ることができた。そして収益的にも、周辺相場が15千円ぐらいのところを18千円ぐらいでリーシングでき、そのシリーズは4つほど続きました。僕はそこで、建築の価値作りにはハードだけではなくソフトも大きく寄与するという考えを掲げ、不動産リート向けの開発事業を行っていきます。
今まで不動産とは、まとまったお金を持つ人の投資対象でした。しかし不動産リートという市場が形成されたことで、不動産を小口証券化し、投資できる市場が生まれた。つまり不動産が金融商品になることで、不動産ディベロッパーだけでなく、金融機関も市場に参入。それにより、不動産開発がいろいろなビジネスモデルに変革していった。その流れの中で、CREで得たノウハウを不動産リート向け開発事業に転用すれば、より多くの収益を得られるのではないか、と考え、チャレンジしていったわけです。
その代表的なものが,鎌倉の七里ヶ浜にある複合施設『WEEKEND HOUSE ALLEY』です。僕はこの仕事を手がけるにあたってソフトをさらに広く解釈して、ソフトとはデザインだけでなく、オペレーション、つまりその場所で何をするのかを含めて重要だと考えました。その場所には何が必要なのか。飲食なのかファッションなのかサービスなのか、それともさらに他のものなのか。そこを突き詰めることなんです」
不動産リート向け開発事業については、軽井沢における西武グループの取り組みを例に出すとわかりやすい。もともとは特に何もなかった軽井沢の土地を安価で手に入れ、プリンスホテルを作る。すると、宿泊客を中心にたくさんの人が集まってくる。それにより周辺にトラフィックが生まれるので、商店を作る。そしてマーケットが生まれる。西武グループはその段階で、もともと押さえていた土地を別荘や商店として分譲したり、マンションを作って売る。彼らが展開していたのはそんな事業である。
「その場所にコンテンツがあれば、トラフィックが生まれる。するとコンテンツの価値があることで、賃料そしてさまざまな収益が生まれるわけです。
家賃とは何をもって支払われるか。専門用語で収益還元と言いますが、例え一等地の素晴らしい立地にあるカフェでも、どうしようもなくまずい店ならお客さんは入りません。すると商売が成り立たず、収益が上がらず、家賃も払えなくなる。つまり金融上の解釈では、その土地の価値は利回り上ゼロです。一方、山奥に、すごく景色がよく素晴らしい料理を出す店があったとします。そこには多くの人が来て、たくさんの料理を食べる。その結果家賃が払えたとすれば、この山奥の土地の方が価値はある、ということになります。
狙うのはこのギャップです。それを、僕は鎌倉の七里ヶ浜でやってみたわけです。土地を買い、そこにBillsというレストランを作ってトラフィックを起こした。もともと決して土地代の高くない場所にたくさんの人を呼び、事業を興した。その結果、家賃を通常のマーケットプライスよりも高く設定できたんです。そして、それだけの家賃を取れるという前提で不動産の価値を上げ、土地建物代を上乗せして売却しました。
そんなビジネスモデルで事業を展開し、結果的にとても上手くいきました。そこで不動産の価値作りについての確信めいたものを得て、独立したわけです」
「不動産ビジネスはハードだけでなく、ソフトも重要である。ソフトのプロデュースに価値を見出していくべきだ。そして集客につながるコンテンツを、オペレーションも含めて開発していこう」
2008年に自らの会社を立ち上げて以降も、不動産リート向け開発事業によって得た考えを軸に、関口さんはさまざまなプロジェクトを仕掛けていった。
「例えば初期に手がけた代表的なものが『TABLOID』。もともと、産経新聞が夕刊フジを印刷していた工場だった場所なんですが、港区海岸の首都高速のすぐ隣で、特に利便性のない立地。それをどうするかと考えたところ、分譲マンションにしても売れない、オフィスには中途半端。それならもとのまま違った用途にコンバージョンしようと、イベントホール、シェアオフィス、スモールオフィス、スタジオ、カフェの複合業態にリノベーションしたプロジェクトです。
ニューヨークのソーホーやロンドンのサウスバンクのように、すでにある建物をコンバージョンすることで、クリエイターの発想を刺激し、新たなモノを創造する場を目指しており、僕らはその全体のディレクションを手がけました」
ところで第1回で記した通り、THINK GREEN PRODUCEという社名には、GREEN=緑という直接的な意味合いにとどまらず、環境に配慮したプロデュースをしよう、という思いが込められている。モノ作りに際して、本当に必要なものなのかを考えていく必要があるということだ。そして自然環境への配慮や循環性といったことを、もう少し柔らかく、人間的に表現したキーワードを最近打ち出したと語る。
「それは『URBAN GREEN LIFE』という言葉です。世の中、みんながライフスタイル云々と言います。じゃあ僕らが提案したいライフスタイルって何だろう? と考えた結果が、この言葉。僕らは建築や不動産を、土地や建物といったハードだけじゃなく、ソフトも含めてプロデュースする会社。じゃあその会社が提案するライフスタイルとは何か。その答えがこの言葉なんです。つまり、都会にいながら自然やコミュニティーを大切にして、さまざまなコンテンツを開発していこう、というものです」
そのバックボーンにあるのは、関口さん自身が東京生まれ東京育ちであるということ。それは決して切っても切り離せない、THINK GREEN PRODUCEの大切な軸である。
「僕は、東京は世界一の都市だと思っています。GDPも人口密度も、経済規模もコンテンツもクリエイティブも。そんな大都会の中でいかに気持ちよく暮らすか、という僕の大切な価値観を、ワンワードに落とし込んだわけです」
最終回となる次回は、そんな関口さんの多くのプロジェクトに対する発想プロセス、そして今後に向けて見すえているものについて、話を聞いていく。
1972 年5月10日東京都出身。大学を卒業後、財閥系不動産会社勤務を経て、都市デザインシステムにてコーポラティブハウス事業のコーディネーターとして多くの プロジェクトに携わり、その後、鎌倉の七里ヶ浜にある複合施設「WEEKEND HOUSE ALLEY」全体のプロデュースを行う。
2008年3月に株式会社THINK GREEN PRODUCEを設立。以降、東京都港区海岸にあるクリエイティブスポット「TABLOID」を始め、「MIRROR」「THE TERMINAL」「THE SCAPE(R)」「ANIMA」「GREEN SMOOTHIE STAND」、2012年10月には、鎌倉の複合施設「GARDEN HOUSE」をプロデュース。
建築物の他、ファッションやフードなど、さまざまなジャンルでのプロデュース、ブランディング、オペレーションを行う。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです