ベンチマークせずにいられない、資生堂ウーノのメンズメイクPR戦略
資生堂のメンズブランドといえば、真っ先に思い浮かぶのが「ウーノ」だろう。
ヘアケアやスキンケアのみならず、2019年に発売された男性用BBクリーム「フェイスカラークリエイター」を皮切りに、メンズアイブロウ、メンズリップと、メンズメイク用コスメを展開しているウーノのメンズメイクに関する戦略PRが、日本男性のメイクに対するパーセプションチェンジを力強く牽引している。
お手本と呼ぶにふさわしい、ウーノの“ロジカル”に詰める戦略PR
お馴染みの、パーフェクトな美肌とルックスで”理想の男性上司“を演じる竹野内豊さんと”公私ともに全力投球“な部下を演じる窪田正孝さんのシリーズ新CMが公開された。新作では、いよいよミドル層の男性においても市民権を獲得しつつある“男性用BBクリーム”「フェイスカラークリエイター」を、まさにミドルエイジ上司の竹野内さんが窪田さんに勧めるという内容。
このウーノの男性用BBクリームは累計出荷100万個を突破しており、国民的ブランド「ウーノ」が男性用BBクリーム文化の裾野を拡大したといっても過言ではない。
ウーノ フェイスカラークリエイター(ナチュラル)(男性用BBクリーム)
チューブから出すと白いカラーのクリームが、顔に塗り拡げるとスキントーンになるという処方で、初心者でも塗りやすい。石鹸で落とせるのも、メイク習慣がない男性に配慮してのこと。
つい数年前には、「男性が化粧なんて…」と抵抗感を覚える男性も多かったメンズメイク。男性たちにメンズメイクが “化粧”ではなく“身だしなみ”の一環なのだと受け入れられる素地を作るうえで、日本男子ならばきっと誰もが何かしらのアイテムを手に取ったことのある「ウーノ」のメンズメイクアイテムの発売、そしてそのマーケティングコミュニケーションの貢献は非常に大きかった印象だ。
ウーノのプロダクトプロモーションにおいては、もちろんアイコニックなトップスターの起用によるシリーズCM展開や若手芸人起用の動画コンテンツという名門らしいブランデッドコミュニケーションの力も大きいながら、注目したいのがその両輪として走らせた戦略PRだ。
“日本国民の新しい美容需要は資生堂が切り拓く。” を体現
日本人のあらゆる“美の追求”のスタンダードを切り拓いてきた資生堂ならでは…、と感服したのが、メンズメイク用のコスメの需要自体の底上げのためにウーノが実施した“従来の固定概念を覆す”ためのPRの手法を駆使したコミュニケーション。
ウーノではBBクリーム、アイブロウ、健康的に唇が薄っすらと色づくリップを展開しているが、プロダクトそれ自体の売り込みに終始せず、まずもってターゲットの購買行動を阻害していた「メイクは女性のためのもので、男性がする必然性がない」という先入観を払拭し、そもそものターゲット拡大をなしえた手法を見ていこう。
“ガジェット×生体検証”で意図的に“男子ウケ”狙った実験PR
合理性を好む(ことが多いと言われる)男性に対して “男性がメイクをすることのメリットをロジカルに説得する”ためにウーノが実施したのが、メンズメイクが相手に及ぼすポジティブな心理的効果を“可視化”する実験”。
昨年秋には、メンズメイクの「3種の神器」とも称すべき基本の3アイテム(BBクリーム、アイブロウ、色付きリップ)を使用して男性が肌を美しくし、眉を凛々しく描き、唇を健康的にすることで相手の心理に及ぼすポジティブな影響を、相手の脳波・心拍の変動により可視化。
ナチュラルメイクをした男性を見る相手側の脳波・心拍の状況をセンサリングし、その掛け合わせで合理的に感情を数値化するガジェットを用いた。ガジェットに数値で明確と、男子の好物のコンボ。
その結果、相手を最初に見たときの第一印象も、ミーティング全体を通しての印象も、メイクをしているほうが有意に高評価である傾向があり、メイクをした男性に対して相手が「心地よく、心が沈静化した状態=リラックスした感情」を持つ傾向があると明らかになったという。
メンズメイクが相手の心拍・脳波に及ぼす実証実験風景(提供:資生堂)
メイクをした顔を見る相手側の反応を“定量的”に可視化することによって、「カッコイイ」「清潔感を感じる」などの感覚的・定性的な反応とは別に、男性がメイクをすることで相手の感情にポジティブな影響を及ぼすことを客観的に証明した。
そしてこの実験は、コロナ禍において促進されたリモートでの対面を前提に行われた。
リモートコミュニケーションでは、平面の画面でみる顔まわりの印象、表情、声など、相手の人柄を察知する情報量がリアルで会うよりも限定されてしまう。顔まわりだけが画面に映るリモート会議の中で、顔の第一印象だけで自身のキャラクターや存在感を示すことはこれからのビジネスマンの必須課題ともいえる。そこでもメンズメイクが一役買うことは容易に想像できる。
今年の春は、さらにメンズメイクが、「その人が持つと推定されるビジネスマンとしての能力レベル」にまでポジティブなバイアスをかけることをストレートに検証している。
男性がメイクをする前・した後の画面を見せ、第一印象で相手に与えるビジネスマンとして求められるの7つの印象(「一緒に仕事をしたいか」「リーダーシップがありそうか」「気軽に仕事の相談ができそうか」「スマートそうか」「仕事の指導をしてあげたくなるか」「(どちらから)製品を買いたいか」「顧客の前に出しても安心か」)がどう変動するかを、男女ビジネスパーソン1200人に定量調査。
「男性はメイクをすると、オンラインで対面するビジネス相手に平均で約10倍ポジティブな印象を与えられる」ということを実証した。
リモート会議におけるメイク前・メイク後の写真(提供:資生堂)
「第一印象が約10倍ポジティブになる」という驚異的な数値をみて、メンズメイクというツールを無視できなくなるビジネスマンは多いのではないだろうか。
実験検証には自然なメンズメイクの第一人者で新聞やテレビなどへの出演多数のメイクアップアーティスト 高橋弘樹氏を起用。
“化粧していると感じさせない”、まさに身だしなみとしてのメンズメイクの体現に細部までこだわり、検証用メイクを作る。少し補正するだけで、“その男性のいいところを惹きだす”。ある意味メンズメイクには化粧の本質が詰まっているともいえよう。
コロナ禍で男性たちがPCに写る自分の顔を客観視するようになり、「マズイ…」と思う機会が増えたことも後押ししてメンズメイクは社会的なムーブメントになった。
情報番組のみならず、“堅め”な報道番組でも度々メンズメイクがビジネスに及ぼす効果について紹介されている。そしてその多くの機会において、情報の発信元は資生堂ウーノだった。「ファンシーでファッション性が強いもの…」、そう男性に敬遠されがちなメイクという行為が、実はビジネスマンが成功や日々の充実を手にする上で非常に合理的な行為であることを、斬新な実証と戦略PRの手法で浸透させた。
一部のファッショナブルな男性のものであったメンズメイクを、まさに全日本男子がスタンダードで取り入れるべき“身だしなみ”の一環との認識に押し拡げた資生堂ウーノのコミュニケーション。ますます群雄割拠となっていくメンズコスメのマーケティングにおいて、まさにベンチマークと呼ぶべきストラテジックPRの模範のような事例だ。