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「感情の数値化」をしたい
メインサイトを持たず、Facebook、Instagram、YouTube、Twitter などSNSのプラットフォームから直接、情報を発信する分散型メディアは最近、徐々にメジャーな存在となりつつある。今回は動画メディアの運営、動画マーケティング事業を行う株式会社トピカ代表取締役・麓俊介さんのお話をうかがう。
写真=三輪憲亮
麓さんはもともとプログラマー。中学1年でプログラミングを始め、新卒でECサイト開発・運営会社に入社。その後、スマホアプリディベロッパーのポケラボに移り、プランナーに転向。ソーシャルゲーム『運命のクランバトル』など、多くのヒット作を手がけた。現在展開する分散型動画メディアGOHANにおいても、当時得たノウハウは思いのほか生きている、と語る。
「ユーザーへの接し方や物事の考え方、情報の伝え方、コンテンツの作り方…あらゆるノウハウが集約されているソーシャルゲームは、インターネットサービスにおけるtoCモデルの最高峰だと思います。実際に多くの場面で、ソーシャルゲームで学んだことを生かしています。いかにユーザーに喜んでもらうか。そのために何をすべきか。そして、それらをいかにスピーディに行うか。そこが徹底的に考えられたモデルなので、ソーシャルゲームで得た知識はどの業界に行っても通用します。仮に僕が飲食業界に転職したとしても、むちゃくちゃ生きるでしょうね。どういうモノ作りをすればユーザーに喜んでもらえるか。彼らの感情の琴線をいかに震わせるか。それを常に考えてきましたから。
コミック雑誌で例えるとわかりやすいのですが、漫画の面白さの一つが、ページをめくる時の場面の切り替えです。例えば『?』の次には『!』を用意する。左のページの下のコマで『何?』という絵で終わり、めくった右のページに、それに対する驚きの答えが出てくる。要は、次のページをめくりたくなるロジックを作るわけですね。動画にもそういう面があります。例えばGOHANの最初のカットでは、あえて、何の食材を使っているのかわからないような映像にして『この名前のレシピって、いったいどうやって作るんだろう』という興味を引いていく。
例えば『オニオン豚野郎』という名前のレシピがあります。オニオン=タマネギはすぐにわかりますが『豚野郎』って何だよと(笑)。それを動画でどう表現していくのか、気になりますよね。そこで、最初にでき上がりを見せる。そして『あの衣に包まれているモノの中身って、いったい何だろう?』と思わせるわけです。その?を受け、実際に作りながら種明かしをしていく。手品のようなもので、?から!を作っていくわけです」
そして、もう一つのソーシャルゲームと似ている点が、数値の分析だ。
「ソーシャルゲームにおいては、インストールしてくれた人の数、続けてくれている人の数、課金してくれた人の数を見て、どこで離脱しているのかを見る。そして、なぜ嫌になったのかを検証し、ひたすら改善を繰り返していきます。
このサイクルは動画メディアもまったく一緒で、何人が見てくれていて、どこで見るのをやめているのか。なぜ、見るのをやめているのか。そして、この問題を次はどういう方法で解決するかを突き詰め、解決法が決まったら、次の撮影、明日の投稿から変えていく。そのスピード感も同じ。ソーシャルゲームの場合も朝に前日の数字を見て、昼にどんな策を打つかを決め、夕方に開発し、夜にリリース。そんなサイクルでやってきました。つまり"その日暮らし"を繰り返すうちに、いつの間にかよくなっている。そんなイメージです。
だから、ふわっとしていていいんですよ。大事なのは"こうあるべき"を決めすぎないこと。外から見れば『明確なゴールはないの?』と聞かれるかもしれませんが、僕はそれでいいと思っています。だって僕らは、1年365日テーマパークを営業しているようなもの。毎日何万人、何十万人の人が見に来てくれて、休みはない。"その日"がよくないと、明日は来てくれません。その日をよくしなければやっていけないのだから、ユーザーの反応が正。まさに、そういうことだと思っています」
麓さんは昨年に会社を辞め、間もなくトピカを創業した。
「特に何も考えずに辞めまして。次はどこかエキサイティングな世界でやりたいと思った時、自分にとって最もふさわしい場所は、市場の軸と自分のスキルの軸が交わるポイントだと考えました。つまり、伸びている市場で自分のスキルが最大限生かせるポジションを探したわけです。ただ自分のやりたいことに突き進んでいくのではなく、マーケットがきちんとあって、しかも伸びる可能性がある場所ということですね。
僕はもともと、そこを考えないと進めないタイプ。ヒットするロジックが見えないと、動けない。もともとエンタメが好きで、システムを理解するスキルも企画力もある。その上で今、何が伸びているか。それを考えた時、当時すでにゲームは伸びが鈍化していて、動画がこれから来るとわかった。それなら、自分のスキルを生かせる動画メディアを立ち上げる。それは自然の流れでした。
僕は結局、人の感情を知りたい。人が何を思ってその商品を選ぶのか。何を思ってそのゲームをインストールするのかを知りたい。まさにマーケティングであり、僕がしたいことは『感情の数値化』。それができれば、僕の理想の未来が実現する。例えば、僕が好きなものがすべてデータ化されていれば、テレビをつけた時、僕の好きな番組が必ず放映されている。そんな世の中がきっと生まれる」
感情を数値化というゴール。そこに向かうため、まず最初にすべきと思ったのが、人を集めることで多くの人の感情を理解することだった。
「じゃあ、人が集まる場所って何だろう。それを考えた時、動画メディアならば、僕らのようなこれといったリソースがない会社でも多くの人を集められる。そして、人の気持ちをより多く知ることができる。そう考えたことも、GOHANというオウンドメディアを作った背景でした」
そして今年6月、トピカは動画の企画・制作からメディアの運用・分析までを一気通貫で行う動画マーケティング支援サービス「トピカワークス」をリリース。GOHANを短期間で大きく成長させた動画メディアの運営ノウハウを、クライアントに還元することが狙いだ。
「まずオウンドメディアとしてGOHANを立ち上げ、タイアップ広告によって収益構造を作る。そして、次のフェーズで並行して手がけているのがトピカワークスです。GOHANを運営する中で蓄積していく知見やデータ、ノウハウや最新トレンド情報などを、クライアント様に提供していきます。国内有数規模の動画メディアを自社制作していることから得られるデータやトレンドなどを、ダイレクトに還元できることが強みです。
分散型の動画メディアを自ら手がけて思ったのが、開発と運営の一体化がマストだということ。そこが切り離されていると意思伝達のスピードが上がらず、伸びにくい。でもそこが一体化されていれば、なぜそのコンテンツを投稿するのかを伝えやすく、どんな数値を目指すかのコミットも行いやすい。結果、PDCAを高速で回すことができる。
ウチのように、自らフラッグシップ的なメディアを持ってる会社が他社の運用をサポートするケースは、ほぼありません。本来はあらゆるリソースを自社メディアに割き、収益化して、どんどん事業を展開していく方が絶対にいい。でも僕たちのゴールは、ユーザーの感情を理解し、コンテンツとユーザーのマッチングを最適化すること。そのための手段として、他社とも一緒にやっていきたい。そして、そこでなるべく多くのデータをためて、資金も得て、さらに次の事業を展開していく。それが僕らの目指すことです」
最終回となるPart.4では、トピカワークスの具体事例とトピカのこれからについて、話を掘り下げていく。
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