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「価値を作れる人間」になりたい

山口 絵里 やまぐち えり さん (株)FUN UP 代表取締役

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素材を組み合わせるだけで誰もがアクセサリーを作ることができ、購入や販売もできるサービス「monomy」が人気を集めている。企画したのは、株式会社FUN UP代表取締役の山口絵里さん。「モノづくり×IT」で日本の製造業をリプレイスしようと考える彼女の「企み」をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.3

 

■お店に足を運んでも欲しかった商品がない、という状況をなくしたい

 

monomyの「モノ作り×IT」というコンセプト。世界一周の旅で「モノの価値」を理解した山口さんは、ITビジネスのベースとなる知識をどのように身につけていったのか。

 

「高校時代に親にパソコンを譲ってもらい、インターネットを使っていました。音楽をダウンロードしたり、いろいろなことを調べたり、自分でサイト作ってみたり。もともとそういうリテラシーは高くて、好きでしたね。そしてネット販売が出てきた時、将来これを使って何かできないかを考えるようになりました。

 

ファッション関係で起業したい。そう思うようになったのは、21歳で世界一周の旅に出たころです。当時から経営者になりたいと思っていて、旅から帰ったらすぐにでも会社を作りたかった。でもお金もないし、ましてやノウハウも人脈も経験もない。それなのにいきなり起業するのは、明らかにリスクだと感じました。

 

まずは経験がないから、経営の知識を得たい。そこで、小さな規模で経営を勉強させてもらえる会社はないか、探してみました。すると、旅に出る前に名古屋で通っていた小さな英会話スクールから、マネージャーを探していると聞いたんです。お金をかけずに経営を体感できるチャンスだと思い、社長に『お金はほとんど使いませんし、売り上げを伸ばして収益を上げます。事業の決裁権を持たせて頂けるなら給料がなくてもいいです』と頼み込み、入りました。22歳の時ですね。

 

英会話スクールのマネージャー時代。毎月第2土曜は先生達も参加するパーティーを実施していた

 

生徒数を増やすため、いろいろなことにトライしました。無料のクラスを作ったり、クラスの内容なども変更したり、新しいコースを作ったり。生徒さん全員のスケジュールやプロフィールを1人1人ヒアリングし直してしっかりと管理し、会費支払いのシステムも作り直しました。その結果、生徒数が半年で倍、8カ月で3倍になりました。そうやってオペレーションやマネタイズ方法を考えることは、当時から好きでした」

 

その後はバイヤーや商品開発、Eコマース事業の立ち上げを経験。

 

「昔も今もずっと思っていることなのですが、今の時代に各店舗が常に在庫を沢山持つ意味って、何でしょうか? ショップの店員時代、毎日段ボールが届き、服を出して1枚ずつたたみ、サイズ別に分け、ストックして棚卸ししていました。でも、店舗に置いている在庫は本当は必要ないんじゃないか。少なくとも、試着用に各サイズ1,2枚ずつあれば十分ではないでしょうか。

 

だって、みんな店には試着をしに来ているわけです。家電だってそうですよね。まずは価格.comで見て目星をつけてから、家電量販店で実物を見て、ネットで買う。そんな人も多いですよね。つまり、お店で買わなくたっていい。例えば渋谷のアンテナショップに試着用の服を1枚ずつ置いておき、お客さんはそれを試着し、よかったら買って現物は家に郵送。メーカーは都心から少々遠い土地に安く借りた倉庫に品物を保管し、そこから発送。今の時代ならば、それでも翌日には届きます。そんな仕組みができれば店に在庫を持つ必要がないし、管理の手間も省ける。そうすれば差額を消費者に還元でき、商品はもっと安くなるはずです。

 

 

例えば渋谷のアンテナショップにカフェを併設して、買った場合はお茶代はなし、とするとか。そうなると、買い物の形が変わりますよね。お店の雰囲気=ブランドの世界観で、それをステータスにする考えは確かに理解できるのですが、お店に足を運んでも現物がない、という状況をなくしたい

 

でも当時の私がそれを実現するには、デジタルに関する知識が足りませんでした。確かにEコマース事業を自分で手がけたけれど、まだまだでした。名古屋には学ぶ場所が少なすぎる。そこでお金を貯めて東京へ出て、再び専門学校に入り直しました

■フォルダを開けるのがすべての入り口

 

学校を3カ月で卒業した後は、広告代理店のWEB制作部に入社。コーディングからディレクションまで、基本をひと通り学んだ。

 

「当時は海外の服やバッグなどを大量に仕入れ、地方の倉庫で販売、ネットでも買える、今では当たり前のファストファッションモデルを目指していました。早く起業したくて、在職中から貿易会社の人などにいろいろと相談し、どれぐらいの価格のものをどれだけ輸入したらいくらの利益が出るのか、どうやって保管するのか、関税はいくらか、といったことを調べました。するとやっぱり、ものすごくたくさんのお金がかかるんですね。ファストファッションは、すごい量をコンテナごと買って動かしているからあの安さなのだということが、よくわかりました。圧倒的に資本がないと、あのレベルでは戦えない

 

でも、在庫を持たずにモノを売れるスキームを完璧に作れたら、圧倒的価値になる。その確信は持ち続けていました。それなら、リスクが少ないものは何だろう。それを考えていた時にたまたま出会ったのが、アクセサリー作りをしている友人でした。彼女が自分で作ったアクセサリーをプレゼントしてくれた時『これ、自分でも作ってみたい!』と思いました。

 

当時出ていたのがコーディネートアプリや着せ替えなどのアプリサービスでした。いろいろな服や靴を画面上で動かしてコーデを作れるのですが、これをアクセサリーでやってみたら面白いのではないか。そう考えて生まれたのが、今のmonomyの元のアイデアとなりました。

 

 

最初は、中国や韓国などの海外からパーツを仕入れようと考えました。でも、どうしても時間がかかるし、クオリティーの担保ができない。やはり国内の工場から仕入れた方がいいと考え、価格を調べると、日本製のパーツは工賃も含めてそれほど高くありませんし、浅草橋へ行けば沢山の工場を持った会社がある。実物を見てもメイド・イン・ジャパンのクオリティは圧倒的に高いですし、国内で質のいいパーツをそろえた方が絶対にいいと実感しました」

 

だが当時の自分には、まだまだキャリアが足りないと考えていた。

 

誰も作ったことのない世界でも挑戦できるサービスを立ち上げ、マネタイズする。そのためには、サービスのロジックに関する知識がもっと必要でした。そこで、沢山のコンテンツをプラットフォームとして運用している大手のインターネット企業に入ろうと転職を考え、タイミングのご縁でYahoo!JAPANの急遽抜けた社員枠で働くことになりました。コンシューマ事業部で課金のあるコンシューマーサービスに携わった他、Yahoo!保険の運営を任せていただき、Yahoo!縁結びからYahoo!お見合いへのリニューアルのプロジェクトには、開発の企画チームのアシスタントとして、キックオフからリリースまで携わりました。何百万人、何千万人が使うサービスがどれぐらいの規模感で、カスタマーサポートまでを含めてどんなフォローをしなければいけないのか。その感覚をつかむことができ、すごく大きな意味がありました

 

 

やっぱり、やるからにはいろいろなフォルダを開けたいんですよ。いろいろなサービスの中身を、できるだけたくさん見たい。ヤフーではプロジェクトに携わる時、フォルダを一つ開けるだけでもリーダーの承認が必要なので、本当に自分が関わっているものしか見ることができません。だから、私はどれだけ多くのフォルダを開けられか、という勝負を自分に課していました。午前中に自分の仕事を終わらせ、午後になるとリーダーに『やることが何もないので仕事を下さい』と言い続けると『じゃあこれを手伝って』となる。それをクリアすると『じゃあ、これもいけるんじゃないか』みたいな感じで、どんどん任せてくれる。それがすごくうれしかったですね。

 

ヤフーにいた1年強で学んだのは、チーム構築でした。例えばYahoo!お見合いは全員で30~50人のチームで、そこから大規模なプラットフォームが生まれていく過程を体験できたことが大きかった。短い期間でしたが、とにかく素晴らしいチームの人々に恵まれて5つぐらいのコンテンツを触らせてもらえて有意義でした

 

当時とことん実感したのが、『自分の価値をいかに持つか』が大事だということ。何もない状態から、自分で何かを作れる人、価値を作れる人にならなきゃいけない。そして特に20代は、どれだけ武器を持てるか。そして、例え何が来ても、別にそれがまったく新しいことだろうと『それわからないので』と言って終わらせず『はいやります』と言えるか。このことの大切さを痛感しました」

 

最終回となるPart.4では、monomyと日本のモノ作りのこれからについて、話を聞いていく。

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プロフィール
山口 絵里

山口 絵里 やまぐち えり

(株)FUN UP 代表取締役

愛知県出身。東京文化服装学院ファッションビジネス科を経て、21歳で単身世界一周の旅へ。帰国後は経営者を志し、バイヤーや商品開発、Eコマース事業の立ち上げを経験。その後はIT企業で制作技術を学びIT業界の世界へ転身。様々なプロジェクトにWEBデザイナーからWEBサービス企画などを経験。Yahoo!Japanでコンシュマー向けサービスの企画でWEBディレクターなどを担当した後、2011年に株式会社FUN UPを設立。当初は大手企業のメディアやアプリの企画、運用などに外部プロデューサーとして関わる。2014年末に新規サービスmonomyを企画し昨年ローンチ。現在は同事業に注力中。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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