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ローカルで造り、グローバルで展開する
「日本酒応援団」は、わが国が誇る商品・文化である日本酒を応援する有志が集まって作った集まりだ。日本酒が大好き、という一心で立ち上げられたこの会社のミッションは、日本酒のあるライフスタイルをもっと広げ、日本酒が好きな人を世界中で増やし、地域の発展に貢献すること。今回は同社の代表取締役である古原忠直さんに、お話をうかがう。
写真=矢郷桃
日本酒応援団が造る銘柄の大きな特徴が「シンプルでわかりやすく」というコンセプトでデザインされたラベル。日本酒にもともとある「とっつきにくさ」を排し、グローバル展開を意識した。
「ラベルはどれも、英字の名称とロゴをメインにデザイン。日本酒よりもワインに近いシンプルさが特徴です。これは、どんな国でも展開できる銘柄にしたい、という思いがあるから。僕ら創業メンバーに全員、海外生活経験があったのも大きいですね。私も10年ほどアメリカに住んでいましたが、日本のいいものを海外に伝えたいという思いが、常々ありました。
日本酒はもともと、地産地消のローカルな存在。でも僕らは今後、ローカルで造りグローバルで展開していく。そのためにはいろいろなところを変えねばならない。難しい専門用語を並べず、英字表記のシンプルなデザインにしたのは、それが大きな理由です。
『KAKEYA』のロゴは、美しい川が流れる掛合町の環境と、僕らの酒造りにおいてキーとなった『若者と旧世代の掛け合わせ』という意味を込めたもの。『NOTO』のロゴは、現地で米作りが行われている棚田になびく稲穂と港町なので波をイメージ。この4月に発売されたばかりの『AGEO』は、もともと中山道の宿場町で現在はベッドタウンとなっている、埼玉の上尾市で造ったもの。上尾の『人が集まる町』というイメージと、実際の蔵の建物のフォルムからイメージしています。そして、同じく4月に発売された大分の『KUNISAKI』のロゴは、国東町(くにさきまち)で古くから地元に伝わる鬼の文化を反映して「国東の鬼」を少しソフトに表現しました。
どの銘柄もそれぞれ酒蔵と地元の方々とコミュニケーションして、彼らの土地への思いを反映したロゴデザインに仕上げました。地元の皆さんもまた、日本酒応援団の一員。高校野球の甲子園大会で地元の学校を応援するように、僕らの日本酒を自分事として語ってもらいたい。そんな願いを込めています」
現在、特に力を入れているのがグローバル展開。販売のうち半分が海外向けで、そのうち9割がアメリカ。現地の販路開拓には苦労したという。
「アメリカでお酒を売るには、輸入業者とその先のディストリビューターを必ず通さねばなりません。そのため、彼らに『これいいね。扱いたい』と思ってもらえないとダメ。最初はそんなことをまったく知らず、ウェブサイトを作って売ればいいじゃん、程度に考えていたのですが、とんでもない。売れないどころが、持っていくことすらできない。お酒にはさまざまな規制があり、簡単に造って売れるものじゃないことを痛感しました。
最初は、造ったお酒をスーツケースに入れてサンフランシスコに飛び、ディストリビューターに電話とメール。でも、ろくに返事すらない。そこで、日本酒を扱う小売店やレストランに一斉に送付すると、唯一、反応をくれた小売店があった。それがサンフランシスコで2003年からアメリカ人がやっている、日本酒専門の小売店でした。当時は知らなかったのですが、アメリカの日本酒専門店として最大のお店です。そこの方が話を聞いて下さり、ディストリビューターをご紹介いただきました。
次の日に、お酒を入れたリュックを背負い、ディストリビューターの倉庫兼事務所へ。『明後日帰ってしまうので、どうしても会って下さい」って言ってどうにか5分だけもらい、お願いしますとサンプルを渡しました。その数カ月後、彼らが扱ってくれることになりまして…。他も含めて、本当に泥臭いスタートでしたね。飛び込み営業なんて、それまで一度もやったことありませんでしたから(笑)」
アメリカでは、ニューヨークとカリフォルニアをターゲットとしている。その理由は二つある。
「まずは市場が大きいこと。もう一つが、日本食も含めて食文化が多様であることです。アメリカは50州あり、地域によって食文化がまったく違います。その点、ニューヨークは世界中のおいしいものが集まっている場所。そしてカリフォルニアはナパバレーがありますし、お酒の舌が肥えている人が多い。それと私はカリフォルニアに2年ほど留学した経験があり、知人がいたので、支援してくれる人を集めやすいという期待もありました。どちらも日本食レストランがたくさんありますので、この2都市に絞り、やっていきました。
特に厄介なのが規制です。例えばアメリカだと、国としてのものに加え、50州すべてにそれぞれ規制がある。商品表示の仕方や関税がまったく違うので、どこに見えないリスクがあるかわからない中、突っ走らなくてはいけない。だから全米で一気にやるわけにもいかず、少しずつ地道に進めています。
正直、アメリカで和食店はまだマイナーな存在。ですから、伸びしろは他のレストラン向けの販売にある。カリフォルニア料理の店やイタリアン、スペイン料理の店などに、どうすればもっと売っていけるか。そこが課題です。アメリカ人からすれば、日本酒はまだまだ、寿司や和食と一緒に飲むものなんですね。その殻を破った、新しい形の提案が必要です。Part.1でも言いましたが、日本酒の輸出はここ数年でやっと150億円に達したぐらい。でも、フランスワインの輸出額は1兆円以上。そこから考えると、確実にもっともっと伸びる」
日本酒は和食以外とも合うことを、どうすれば知ってもらえるか。現在、日本食以外のレストランで食べ合わせのイベントを行うなど、さまざまな戦略を考えている。
アメリカ最大級の日本酒イベント Sake Day in San Fransisco
「和食にビールやワインを合わせることはあるけれど、フレンチに日本酒という組み合わせはほとんどない。ビールやワインはライフスタイルの一部になっているけれど、日本酒はまだまだ、寿司などと合わせる特殊な存在と見られている。これが先ほど言った、日本酒とワインの輸出額の差に表れている。本来、お米が原料ですから、合う料理は世界中に山ほどある。僕らが掲げる『日本酒のあるライフスタイルを世界中に』という思いをソーシャルメディアなどとも連動させ、上手くマーケティングして、より多くの方に知っていただきたいですね」
最終回となる次回Part.4では、日本酒応援団の今後の展開について、話を聞いていく。