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シェア争いはしない。大事なのは、マーケットを広げること

古原 忠直 こはら ただなお さん 日本酒応援団(株) 代表取締役

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「日本酒応援団」は、わが国が誇る商品・文化である日本酒を応援する有志が集まって作った集まりだ。日本酒が大好き、という一心で立ち上げられたこの会社のミッションは、日本酒のあるライフスタイルをもっと広げ、日本酒が好きな人を世界中で増やし、地域の発展に貢献すること。今回は同社の代表取締役である古原忠直さんに、お話をうかがう。

写真=矢郷桃


Part.1

 

■垣根を設けず、みんなで日本酒を「応援」する


2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界で関心が高まる中、日本酒ブームが起きている、といわれる。だが現状はまったく楽観視できない。30年前に全国で3000蔵あった酒蔵は現在1500蔵に半減し、後継者不足と造り手の高齢化が顕著。酒米の供給不足も進み、日本酒の販売量は年々、減少中。日本酒造りは現在、非常に厳しい状況にある。そんな中で彼らが掲げたミッション。それは、自分達が大好きな日本酒をより多くの人に届け、日本酒造りという素晴らしい伝統文化と技術を継承し、人口の減少と高齢化が進む地方に雇用を増やすことだ。

 

「現在メンバーは9人いて、もともとはごく普通の、日本酒を愛する人間の集まりです。詳しくは後述しますが、僕らは最初、日本酒好きの仲間4人でボランティアからスタートしています。その時に、自分達のプロジェクトに何かしら名前をつけようと考え『日本酒応援団』と名づけました。そもそも僕らは、一人の飲み手として日本酒が大好き。その日本酒の魅力をより多くの人に広め、楽しんでもらうために、自分達の日本酒を造ろうと考えたことから、今の活動がスタートしました。当時の気持ちを忘れたくない。その思いが、この一風変わった名前をつけた一つ目の理由です。

 

 

そしてもう一つの理由は、造り手・売り手・飲み手という境界線を設けず、みんながともに日本酒を応援する仲間なんだ、という思い。今、一部ではブームなんて言われていますが、日本酒のマーケットはまだまだとても小さい。だからこそ、国内の限られた流通量の中でシェアを奪い合うゲームをするつもりはまったくありません。お酒を造る蔵元さんを始めとして、米農家さんや販売をしてくれる小売店、海外輸出をしてくれるディストリビューターさん、そしてお酒を買って飲む方も、みんなで一緒に日本酒を応援していきたい。そして国内に限ることなく、日本酒のマーケットを大きく広げていくことで、自分達の販売を拡大していきたい。この一風変わった名前には、そんな思いが込められているんです。」

 

ご登場いただいたのは、同社の立ち上げメンバーであり共同代表の古原忠直さん。日本酒の飲み手、ファンを増やす。その結果、造り手が酒造りの量を増やせる。だから、他の蔵元や販売店などを競合と思ったことは一度もない。

 

みんなが仲間です。広い視野で考えると、僕らのライバルはビールやワインですらない。もしかするとコーヒーかもしれないし、もっと別の娯楽かもしれない。一人でも多くの人が、限られた時間と可処分所得を消費する中で、他のものではなく日本酒を選んでいただく。そのためにはどうすればいいかを、僕らは常に考えています。幸い、今おつき合いのある蔵元さんはどこも生産量を純増させていて、増えた分を極力、新しい市場に売っていくことにこだわっています。ですから現状、取り扱いの約半分が海外向けです。」

 

 

今、世界で日本酒が注目されているような報道もありますが、実際はまだまだ。確かに少しずつ増えてはいますが、ちょっとしたブーム程度。海外へ輸出される日本酒のマーケットは約150億円あります。でも、フランスワインだけで輸出額は約1兆円です。

 

海外では、日本酒はまだまだ、お寿司と合わせるような特殊な存在。ビールやワインのように、いろいろな料理に合わせるレベルには、到底達していない。ビールやワインと一緒に和食を楽しむことはあっても、フランス料理と一緒に日本酒をいただくことは、ほとんどないですよね。実際のところ、決して合わないことはないんです。お米と合わせて食べられるものには、何でも合いますから。でも世界的に見れば、日本酒はまだまだ特殊な存在。そこを変えていきたいですね。」

 

 

■一人の飲み手として飲みたいものを造る

 

日本酒応援団が企画し、販売する日本酒はすべて『純米・無ろ過生原酒』というもの。製法には強いこだわりがある。

 

「醸造アルコールをまったく使用しない純米酒で、材料は米と米麹と水だけ。そして通常、日本酒は活性炭を添加して濾過を行いますが、素材のありのままの味を楽しんでもらうため、濾過をいっさい行いません。多く日本酒の製造工程で2回行われる火入れ殺菌を行わない分、生のフレッシュな味を堪能することができます。『日本酒はアルコールが強くて飲みにくい』『二日酔いになる』というイメージがある方こそ、ぜひ飲んでいただきたいですね。きっと、イメージが大きく変わると思います。」

 

目指すのは、日本酒の「テロワール」全国さまざまな蔵と組み、その土地で育った米を、手間をかけて少量仕込み、地元の水や風土、食文化が色濃く反映された純米酒を企画し、製造をサポートして、売る。これが今、手がけているビジネスだ。

 

テロワールとは主に、ワインで使われる言葉。ワインは材料になるブドウの育つ場所や気候、土壌といった自然環境の影響で品質が大きく変わり、それが独特の味わいになっていきますが、日本酒でもまったく同じことがいえます。原料となるお米や水、気候、そしてその土地の食文化によっても味に違いが生まれ、それが個性となっていきます。

現在は島根県の蔵元『竹下本店』で造る『KAKEYA』と、石川県の蔵元『数馬酒造』で造る『NOTO』を中心に展開していて、今年から大分県の蔵元『萱島酒造』で造る『KUNISAKI』と、埼玉県の蔵元『文楽』で造る『AGEO』も加わり、パートナーの酒蔵が4社になりました。

 

 

純米・無濾過生原酒は製造にとても手間がかかるため、毎年造るのはごく少量だけ。でも、手造りの少量生産は決して変えません。確かに機械化して製法を妥協すれば、安いものをたくさん造れるし利益にもつながるけれど、それはしない。あくまで、一人の飲み手として飲みたいものを造ることは、決して譲らない。でも、ビジネスとして成立させなきゃいけないわけです。その両立を考えた結果が、今取り組んでいる小ロット生産。全国の複数の蔵元と組み、丁寧な小ロット生産を行いつつ、しっかりと事業になる売上規模を確保する。それが今の取り組みです。」

「純米とか大吟醸とか、そもそも製法がわかりづらい。専門用語が多くてとっつきにくいから、何を選んでいいのかわからない。僕も日本酒を覚えたてのころはそうでした。それと名称。日本酒はもともと、国から製造許可のお墨付きをもらった人だけが造れるものでした。要は地方の名士の特権だったわけです。そのため、特に江戸時代、お酒を造る一族の名字がつけられるようになった。『〇〇家が造りました』という権威を表に出すものだったわけですね。その名残で、今も多くの銘柄に名字がついていますよね。ですから名前だけを見ても、どんな味のお酒なのか、正直よくわからない。

 

また流通構造の問題で、地方では地元のお酒だけ、東京では大手の流通網に乗っている銘柄しか売っていなかったりする。これだけ何でもインターネットで買える時代なのに、ネット販売を行っている蔵元のお酒を店舗では扱わないなど、妙な商習慣がいろいろある。それが飲み手にとっても造り手にとっても、何らメリットになっていない。ほしいと思ったらクリック一つで簡単に何でも買える便利な時代に、だいぶ遅れている。日本酒はそんな、消費者目線の欠けた存在だったわけです。

 

疑問を覚えた古原さんはいかにして消費者目線に立ち、自分達がおいしいと感じる日本酒を造っていったのか。次回Part.2では、古原さんが日本酒応援団を始めたきっかけを、深く掘り下げていく。

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プロフィール
古原 忠直

古原 忠直 こはら ただなお

日本酒応援団(株) 代表取締役

1977年東京都出身。東京大学卒、スタンフォード大学MBA卒。三菱商事、東京海上キャピタルなどで日本、米国、中国で11年間のベンチャー投資・事業開発を行う。
2015年に起業し、仲間とともに日本酒応援団を立ち上げる。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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